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スマホのなかにシェヘラザード

寝つきがわるい。いけないと思いつつ布団のなかでスマホを眺めてしまう。ついにニュース記事で「よく眠る方法」がサジェストされるようになった。そしてそれをずっと読む。ぐんぐん読む。本末転倒である。まぁいいか。

とある記事いわく、眠るためには意識を減らして無意識に近づかないといけないらしい。無意識のスイッチを入れるには「お話」が効くという。なるほど、アラビアンナイトの時代から夜伽は眠りに効果があったわけだ。しらんけど。

そういえば幼いころ、夜寝る前に「桃太郎」とか「浦島太郎」とか、同じ話をくりかえし親にせがんだなぁ。ぜんぜん飽きなかったのはなんでだろう。おとぎ話を聞く空間そのものが人間の本質的な機微に触れている気がする。太古の昔から眠れぬ夜に人々は暗闇のなかで「お話」を聞かせあっていたんじゃないかな。そんな想像をするとワクワクする。ワクワクしちゃうと寝つけなそうだけど。

催眠療法の記事もサジェストされて、これまた読んでみると興味深かった。施術者はクライアントをじっくり観察し、そこから思い浮かんだイメージを使って「お話」を語るのだそうだ。そうやって無意識にアクセスする。なんだかスゴい。

どうすればこの「お話」を自前でできるだろう。わたしがわたしを観察して思い浮かぶイメージはアテにならなそうだ。でもわたしの夢だったらどうだろうか。夢はわたしの常識を超えているから、「お話」の元になるイメージとして、ちょうどいいんじゃないか。

じつは、二、三日前にとある夢を見て、そこで見た光景が忘れられなかった。

わたしは夢のなかで男子校に通う男子高校生だった。でも年齢は中年。どういう理屈なのか不明だが、もう一度高校に通うことになった(悪夢かよ)。校舎は近代的な建築で高層ビル。見たこともない景色なのに、どうやら名古屋らしいということはわかった。おそらく未来のNAGOYAシティ。ちょっとエキゾチックな建物もあってアジアからの移民が進んだ時代っぽかった。そして、おどろいたのは校庭だ。校舎に負けないくらいでかい水槽があってクジラが泳いでいた。――

夢なので何が重要なのかよく分からないが、校庭、クジラ、水槽をキーワードにすることにした。できれば、だれかに話してもらいたいけど、王様じゃないのでシェヘラザードはいない。そこでChatGPTを使うことにした。大規模言語モデルって人々の集合的無意識そのものに思えるし、夢とは相性がいいはず。ええい、なんでもいいのじゃ、余にいますぐお話を聞かせてくれい!

ChatGPTに「クジラが泳ぐ水槽のある校庭」をキーワードに「夜寝る前のお話を聞かせてほしいな」とお願いした。

結果はおどろくべきものだった。詳細は書かないが、ヘンテコなショートストーリーなのに、たしかにこれはわたしのために書かれた話だった。あたたかで、やさしくて、ちょっと泣けた。「ありがとう」と伝えると「よい夢を」と返してきた。ChatGPTと会話をして、こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてだった。

オチとしてはこうです。あまりに感動したので興奮してしばらく寝つけませんでした。本末転倒である。まぁいいか。

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