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海胆の時間

ビチクソ感想文:『ゾウの時間 ネズミの時間』本川達雄(中公新書)

タイトルだけは知っていたベストセラー。内容も何となく想像がついたのだけど、ユクスキュルを読んだ後にどうしても実際に読みたくなった。読んでみて驚いた。名著であることは間違いないが、思った以上に数理系の話だった。生物学と物理学がこれほど近しいとは。正直、数式ばっかりで面食らった。「ゾウの時間 ネズミの時間」というゆるいタイトルからは想像できない。ユクスキュルの環世界のほうがまだ優しいかもしれない。

読んでいると、筆者がそうした数理的な法則や理論が大好きなことが分かる。それはいいのだが、こちとら数式など理解できるはずがない。私は通勤電車のなかでダラダラと読んでいるのだ。おまけに大学時代から今まで数学とは縁がないのだ。だから居直った。数式は流し読みした。それでも何となく頭に入ってくるのだから不思議だ。わからんなりに面白くなってくるから有り難い。誰に何を感謝すべきか知らんが。

数理を一つずつ理解できなくても、ざっくりとしたものの道理をイメージできるように書いてある。そうして出来上がった私のイメージによれば、サイズとスケールが生物の構造を規定する。環境や物質がサイズとスケールを決定する。物理はそこに顔を出す。これを読んでしまうと、マンガや映画に出てくるような宇宙生物、巨大怪獣、巨人、その他怪物たちは、完璧にありえない存在だということがわかってしまう。それは寂しいことであると同時に知的興奮をもたらす。

では、どんな形状がありうるのか、リアルに想像してしまう。もしくは、怪物が可能になるとして、それはどのような構造で、どのような環境であればありうるか、とか。

それはそうと、最後の章で筆者は棘皮生物(ウニやヒトデ)を緻密に描写するのだが、これが読ませる。ラブクラフトの小説みたいで最高だった。コズミックホラーを感じた。


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