漫才「距離感」

A「どうもー(入ってくる)」

B「どうもー」

A「よろしくお願いしますー(マイクの前に立つ)」

B「よろしくお願いしますー(袖から喋る)」

A「え?いや、ちょっと、おい」

B「ん?どうした?」

A「どうした?じゃなくて、なんで出て来ないの?」

B「ああ、それねー」

A「何やってるの?」

B「いやー、実はちょっと俺、漫才の距離感忘れちゃってさ」

A「え?」

B「ほら、お客さんの前で漫才するのって結構久しぶりでしょ?だから俺、漫才の距離感が分からなくなっちゃって」

A「いや聞いたことないわそんな奴、忘れたにしても間違え過ぎだし」

B「あのー、人見知りの人って、まあまあ仲良くなっても間が空くと一気に距離感リセットされるでしょ?俺今その状態なんだよ」

A「物理的に離れていくケースは前代未聞なのよ」

B「まあでも、一応二人で会話は成立してるわけだから、これも漫才の距離感の範囲内ってことでいいよね?」

A「いやダメだよ、舞台上に一人しかいないんだから」

B「え?これって漫才じゃないの?」

A「当たり前だろ」

B「じゃあこれは何?」

A「緊急事態だよ」

B「あー、緊急事態か」

A「こんなの続けられるわけないから、早くこっち来て」

B「いやー、でも、距離感が掴めてないままそっちまで行くと、逆の心配が出てくるじゃん」

A「逆の心配?」

B「今度はお前と近付きすぎて地獄絵図になる可能性があるんだよ」

A「いやそうならないように調整しろよ、それもう漫才うんぬんの話じゃないからな?」

B「けど人見知りもこのパターンで失敗したりするでしょ?」

A「いやまあ距離感詰めすぎて変な感じになる時あるけど、それとこれとは全く別だろ」

B「だからちょっとこのままでやらせてよ」

A「無理だって」

B「ほら、俺がコンビニの店員をやるから、お前は客として入ってきて…」

A「いやダメだよ」

B「え?」

A「それは一番ダメだろ」

B「どうして?」

A「俺がレジ行ったら舞台上から誰もいなくなるからだよ」

B「ああそうか」

A「そんな奇抜な演出でシンプルなコント漫才するの意味分からないから」

B「確かにな」

A「やっぱりこのままじゃ何もできないよ、無理やりにでもこっち来てくれ」

B「くそー、分かったよ…(ゆっくり出てくる)」

A「……」

B「…(マイクの前に立つ)」

A「あれ?なんだ、全然普通に立てるじゃん」

B「おお、いけたね、体が覚えてたのかな?」

A「よし、これでようやくまともに始められるわ」

B「うん」

A「すみませんね、お客さん、変な所お見せしてしまって(客席を向く)」

B「(客席を向く)ほんとごめんねー、ってか大丈夫?なんかお腹空いたりしてない?」

A「え…?」

B「もしあれだったらこの後みんなで焼肉とか行く?あっ、でも服に匂いとか付いちゃうか、じゃあ寿司?あー、でも俺あんま金無いわ、ごめん、やっぱラーメンとかでいい?」

A「いや客との距離感めちゃくちゃバグってるな、いい加減にしてくれ」



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