漫才「お願いしたい」

A「どうもー!」

B「どうもー」

A「よろしくお願いしますー!」

B「あっ、うわー」

A「ん?」

B「いいなー、羨ましいなー」

A「え?」

B「俺も皆さんによろしくお願いしたかったなー」

A「何?どういうこと?」

B「お前、俺が皆さんによろしくお願いしようとしてるのに勘付いて、先手打ってきただろ」

A「何を言っているの?」

B「だから、俺によろしくお願いしますって言わせないために先回りしてただろって」

A「なんだその言いがかり」

B「最悪だよもう」

A「いや、俺はただ挨拶しただけだし、お前も普通に続けて言えばよかっただろ」

B「そんなことできないよ」

A「なぜ?」

B「だってそれだと、元々はよろしくお願いするつもりがなかったのに、隣の人がよろしくお願いしたからその流れで一応自分もよろしくお願いした人みたいに思われるだろ」

A「いや思われねえよ」

B「じゃあ考えてみて」

A「え?」

B「レストランで隣の席の人がプロポーズしてて、横から『じゃあ僕とも結婚してください』って乱入したら相手の女性はどう思うよ?」

A「それは全然違う話だろ、人生のターニングポイントとお前のよろしくお願いしますを一緒にするなよ」

B「居酒屋で注文するとき、友達がレモンサワー頼んだ後に『あっ、僕も同じの』なんて言ったら、店員さんどう思うよ?」

A「どうも思わねえよ、よくある普通の注文だろ」

B「ああ、あの人は自分が飲む物すら他人からの影響を受けて決めてるんだな、自分の喉に噓を付いて生きてるんだな、って思われるだろ」

A「思わないってそんなこと」

B「俺はこれを見てる人にそう思われたくなかったんだよ、心からのよろしくお願いしますを届けたかったんだよ」

A「どこから来る情熱なんだ」

B「それがお前のせいで…」

A「いやいや、そんなに言いたいならお前がもっと早く挨拶すればよかっただろ」

B「そんなことしたら野蛮人だと思われるだろ」

A「え?」

B「あれ以上早いタイミングでよろしくお願いしたらどうしても違和感が出るだろ。それだと見てる人が、あの人はきっと自分たちによろしくお願いしたかったわけじゃなくて『よろしくお願いします』って言葉自体を発したいだけのエゴイスト、もしくはそういう性癖の持ち主なんだな、って思うだろ」

A「なんでそうなるんだよ」

B「そしてそのエゴや性癖を見ず知らずの人間に押し付けようとしてる野蛮人だと思われるだろうが」

A「うるせえな、何も思われねえよ、むしろ今のこの状況の方がよっぽど印象悪いぞ」

B「それもこれも全部お前が勝手によろしくお願いしたから…」

A「そもそも何なんだよその『よろしくお願いする』って表現、気持ち悪いな」

B「ダメだ、もう取り返しがつかないことになってる」

A「自業自得だろ」

B「仕方ない、こうなったらやっぱりあの手しかないか」

A「え?」

B「見てる人の記憶を消して最初からやり直そう」

A「いやそんなことできるか、やめさせてもらうわ」

B「おいふざけるなよ、俺もやめさせてもらいたかったのに」

A「いやもういい加減にしてくれ」



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