漫才「検定」

A「実は俺、今度検定を受けてみようと思ってて」

B「検定?」

A「うん、でもどうしても合格するイメージが湧かないからお前に手伝って欲しいんだよ」

B「ほう、まあ別にいいけど」

A「ありがとう」

B「で、俺は具体的に何をすればいいの?」

A「えーっとね、網を綺麗に投げてほしい」

B「え?」

A「網を綺麗に投げてほしいんだよ」

B「何?どういうこと?」

A「あの、川とかで網をフワーッと投げて魚捕まえる漁あるでしょ?」

B「あるね」

A「俺の中の『成功のイメージ』って、あの網が綺麗な円を描いて着水する画なんだよ」

B「大分珍しいね」

A「だからいつも何かに挑戦する時は、網が綺麗にフワーッと落ちていく様を想像してから臨むのよ」

B「それいつからやってるの?」

A「2歳半」

B「長いね、長いしその歳で成功のイメージが投網の美しさって渋すぎるね」

A「なるべく良いイメージで臨みたいから、何度も何度も頭の中で網を投げるんだよ」

B「まあ一種のゲン担ぎみたいなものなのかな?」

A「そうそう、そんな感じ」

B「それ結構頻繁にやってるの?」

A「うん、もう俺の脳内では東日本に魚一匹もいないからね」

B「どんだけやってるんだよ」

A「それでいつもはこれで上手く行ってるのに、今回は何度投げても歪な形になるから困ってるのよ」

B「何回くらい試したの?」

A「西日本も危なくなるくらい」

B「そりゃ大変だ」

A「だから今回はお前が代わりに投げてほしいんだよ」

B「なるほどね」

A「お願いできる?」

B「頭の中で投げればいいんでしょ?別にいいよ」

A「あっ、でも動きは必要だよ?」

B「え?」

A「投げる時の動きは必要だよ?フォームの美しさも重要だから」

B「えっ、実際に動くの?」

A「当たり前じゃん、脳内で全部やるなら誰でも1発で成功できるよ」

B「でも俺、投網なんてやったことないよ?」

A「大丈夫、ちゃんと教えるから」

B「うーん…」

A「じゃあまずは網をしっかり持って」

B「こう?(持つ)」

A「うん、次は足を肩幅くらいまで開いて」

B「(開く)」

A「次は膝を曲げてしっかり腰を落とす」

B「(膝を曲げる)」

A「よし、そこで構えてみて」

B「(構える)」

A「あー、ちょっと体開きすぎ」

B「え?(直す)」

A「あー、今度は膝伸びちゃってる、ちゃんと腰落として」

B「こう?(直す)」

A「そうそう、重心を低く……あー!ちょっと!網から目離さない!」

B「いや難しいな!難しいしバッティング練習のアドバイスとほぼ一緒だな!」

A「おい集中しろ!やる気がない奴は帰れ!」

B「もう監督じゃねえか!」

A「ほら!その体制をキープしたまま構えて!(怒鳴る)」

B「クソッ…(構える)」

A「前向いてタイミング計って!」

B「(前を向く)」

A「今だ!行けー!」

B「(投げる)」

A「馬鹿野郎!飛ばしすぎだ!」

B「え?分かんねえよ加減なんて」

A「あんな遠くまで飛ばしたらもう取りに行けないだろ!」

B「知らないってそんなの」

A「おいおい!野球してるんじゃないんだからさー!」

B「それは教え方のせいだろ」

A「どうしてくれるんだよ!これで検定落ちたらお前の責任だからな!」

B「なんでそうなるんだよ」

A「クソーッ、まったく…」

B「っていうかそもそも、何の検定受けるの?」

A「え?別にいいだろそれは」

B「こんな必死になるほど難しいやつなの?」

A「そりゃまあ…」

B「ほう、じゃあ何検定よ?」

A「漢検6級」

B「いやそんなもんでゲン担ごうとするな、いい加減にしろ」



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