漫才「マイク」

A「どうもー、よろしくお願いしますー」

B「お願いしますー」

A「あのー、実は俺、最近サッカーを見るのにハマっててさ」

B「うん」

A「一度でいいからドリブルで相手を抜き去ってゴール、みたいな格好いいシーンを体験してみたいんだよね」

B「ほうほう」

A「だから今日はちょっと、お前に相手選手をやってもらえないかなーと思ってさ」

B「なるほど」

A「じゃあ俺が向こうからドリブルしてくるから、お前はそれを止めようとして…」

B「あっ、ごめん、ちょっと待って」

A「ん?」

B「やっぱり腹立つわ」

A「え?」

B「俺、やっぱりマイクに腹立つわ」

A「マイクに腹立つ?」

B「だってほら、こいつだけ毎回何もしてないじゃん?」

A「どういうこと?」

B「例えばそのー、俺はいつもネタを書いて来てるでしょ?」

A「うん」

B「そしてお前はそれを覚えて演じてくれるでしょ?」

A「うん」

B「でもほら、こいつ、このマイクだけはいつも何もせずに突っ立ってるんだよ」

A「いやそりゃそうだろ、マイクなんだから」

B「ボケもせず、突っ込みもせず、ただバカみたいな顔で佇んでるだけ」

A「顔とかないから、佇んでるというか設置されてるだけだから」

B「俺はこれがどうしても許せないんだよ」

A「許すも何も、マイクって元々そういうもんだろ」

B「そういうもん?そうやって問題とまともに向き合おうとしないから差別や戦争もなくならないんじゃないの?」

A「いや話が飛躍しすぎだろ、マイクもビックリしてるわ」

B「え?マイクはただの物だから感情なんて無いよ?」

A「今その物にキレ散らかしてるのは誰だよ」

B「まあとにかく、俺はもうこのまま続けることはできないから」

A「じゃあどうするの?」

B「うーん、やっぱりせめてコントの中では役を振り分けよう」

A「マイクに?」

B「そう、今回だったらサッカーの審判とかね」

A「それ要る?」

B「審判が居た方がリアリティーは増すだろ」

A「その審判がマイクの形してたら話は変わってくると思うけど」

B「まあとにかく何もしないよりはマシだから、これで一回やってみよう」

A「うーん…」

B「じゃあ俺がディフェンスするからお前はドリブルで抜いてきて」

A「分かったよ…(離れる)」

B「よし来い!」

A「(ドリブルしてくる)」

B「おいこの野郎!(掴みかかる)」

A「え…?」

B「ほら、抜いてみろ!(腹を殴る)」

A「いや…」

B「もっと来いよ!(蹴ろうとする)」

A「いやちょっと待て、これダメだ」

B「え?」

A「これあれだ、審判が無力すぎてチンピラみたいなファールが横行してるわ」

B「あっ、マジで?入り込みすぎて何も覚えてないわ」

A「めちゃくちゃ怖えな、ちゃんと自我失ってるじゃん」

B「じゃあ分かった、激しい設定はもうやめよう」

A「え?」

B「今度はマイクでも無理なく演じられるシチュエーションにするわ」

A「ほう、じゃあ次は何するの?」

B「こいつに看守をやってもらって、俺らは一言も話せない囚人をやろう」

A「いやそれマイクが本業見失ってるだろ、可哀想なことすんな」



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