漫才「対等じゃない」
A「どうもー、よろしくお願いしますー」
B「お願いしますー」
A「あのー、実は俺、最近ドラマを見るのにハマっててさ」
B「そうなんだ」
A「その中でも特に好きなのが、熱い青春ドラマ」
B「ほう」
A「上京する親友を見送りに行くシーンとか、もうたまらないよね」
B「あー、よく見るね」
A「じゃあちょっと、雰囲気だけでも味わってみたいから、今からここで再現してみよう」
B「え…?」
A「俺が見送りに行くから、お前は上京する親友をやって」
B「うーん……できないわ」
A「え?」
B「ごめん、ちょっとこれ以上はできないわ…」
A「何?どうしたの?」
B「なんかさ、対等じゃない気がするんだよね」
A「対等じゃない?」
B「いつもお前があれやりたいとか、これ練習したいとか言って、俺がその相手をさせられるでしょ?」
A「させられる…?」
B「俺さ、毎回パレードの先頭で二足歩行させらてれるプードルみたいな気分になるんだよね」
A「そんな風に思ってたの?」
B「だからこれ以上、お前のペットでいるのは御免っていうか」
A「いや…」
B「もう飼い殺しにされるのは嫌なんだよね」
A「いや飼っても殺してもいないのよ、こっちはそんなつもり一切ないから」
B「あのさ、『やってみたい』とか『練習したい』はまだ分かるよ?」
A「うん」
B「でも『再現してみよう』って何だ?お前はジオラマでも作りたいのか?」
A「いやまあ確かにちょっと強引だけど…」
B「俺のこと、そこに組み込まれてる小さな顔のない人形だと思ってないか?」
A「思ってないよ」
B「俺はあんな鉄道しか動くことを許されないような街に住み続ける気はないぞ?」
A「だからそんなつもりないって、落ち着けよ」
B「……」
A「とりあえず気持ちは伝わったけど、結局お前はどうしたいんだよ?」
B「うーん…まず、お前がやりたいことに一方的に付き合うのは嫌だ」
A「うん」
B「でも俺がやりたいことに一方的に付き合わせるのも嫌だ」
A「ほう」
B「だからお前はそのままやりたいことをやってくれ」
A「え?」
B「俺はその横で、自分が一番好きなものをやるわ」
A「別々でやるってこと?」
B「そうすることでお互いが自立した関係になれるんだよ」
A「ああそう…」
B「じゃあ始めよう」
A「うん…」
B「よし、お前はそのまま親友の見送りをしてて」
A「いいけどお前は何を…」
B「(這いつくばる)」
A「…え?」
B「(微かに動く)」
A「いや…」
B「(微かに動く)」
A「おい…」
B「(微かに動く)」
A「ちょっと待ってくれ」
B「ん?」
A「それは今何を表現してるの?」
B「ゼリーを食べてるカブトムシだよ」
A「いやめちゃくちゃ飼われてんじゃねえかお前!」
B「(食べ続ける)」
A「自然界に存在しないもん食わされてんじゃねえか」
B「(食べ続ける)」
A「なんでそれが一番やりたかったんだよ」
B「(食べ続ける)」
A「絶対上京する親友の方が自由だっただろ」
B「(食べ続ける)」
A「こいつのどこが自立してるんだよ」
B「(2つ目を食べようとする)」
A「もういいもういい!やめてくれ!」
B「え?」
A「もう見てられないわ、相方が四つん這いで架空のお菓子食べてるとこ」
B「俺は最高に楽しかったけど?」
A「いやどういう癖だよ、人前でそんなことすんな」
B「うーん…」
A「頼むからいい加減にしてくれ」
B「…分かったよ、そこまで言うなら今回はお前に付き合うよ」
A「本当に?」
B「うん、だからとりあえずお前は見守りに来てくれ」
A「見守りに来てくれ…?」
B「俺はここで成長する幼虫をやるから」
A「いや上京する親友みたいに言うな、どんだけ虫やりたいんだ」
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