漫才「漫才のお父さん」

A「どうもー!お願いしますー!(のけ反る)」

B「お願いしますー(お辞儀)」

A「いやー、しかしこんなにお客さんに来ていただいて、ほんと有難いですねー」

B「そうですねー」

A「しかも今日は綺麗な方が多い」

B「うん」

A「こちらから(後ろを指す)べっぴんさん、べっぴんさん、一つ飛ばしてべっぴんさん」

B「いや失礼だろ、やめなさい」

A「すみませんねー、冗談ですからねー」

B「……」

A「あのー、実は僕、いつかコンビニの店員をやってみたくて」

B「ほうほう」

A「でも接客とか難しそうだし、ちゃんとできるか不安なんだよね」

B「あー、それなら俺が手本見せようか?実際働いてたこともあるし」

A「マジで?頼むわ」

B「了解、じゃあお前は客として入ってきて」

(離れる)

A「ウィーン ウィーン ウィーン(入る)」

B「いや自動ドア何枚あるんだよ!おかしいだろ!」

A「まあまあ、冗談だから」

B「……」

A「えーっと、お昼ご飯は何にしようかな…(歩き回る)」

B「……」

A「(歩き回る)」

B「……」

A「(歩き回る)」

B「……(袖にはける)」

A「(歩き回る)」

B「……(白髪交じりのヅラで戻る)」

A「……あれ?」

B「おおタカシ、やっと気が付いたか」

A「あなたは……漫才のお父さん!」

B「久しぶりだな」

A「来てくれてたんですね!」

B「ああ、まあ今日はちょっと、お前に大事な話があってな」

A「大事な話…?」

B「落ち着いて聞いてくれよ?」

A「何ですか…?」

B「いいかタカシ?実はお前は……本当の漫才師じゃないんだ」

A「え?」

B「今まで隠していてすまなかった」

A「……嘘だ!そんなはず無い!」

B「タカシ、本当なんだよ」

A「だって見てくれよ、俺はちゃんとスーツも着てるし、さっきまでマイクの前で漫才を…」

B「じゃあお前、どうやって喋り始めた?」

A「普通にこう……どうもー!よろしくお願いしますー!(のけ反る)」

B「ほら、もうおかしい」

A「え?」

B「そこは本来頭を下げるんだよ」

A「僕、今どうしてました?」

B「めちゃくちゃのけ反ってたよ」

A「そんな…」

B「漫才師としての動きを、体が無意識に拒絶してたんだよ」

A「嘘だろ…?」

B「それにお前、つかみもおかしかったぞ?」

A「え?」

B「試しにもう一度やってみろ」

A「こちらから(後ろを指す)べっぴんさん、べっぴんさん、一つ飛ばしてべっぴんさん」

B「ほら、客席じゃなくて後ろを指してる、体が抗ってるんだよ」

A「なんてことだ…」

B「あとお前、ボケた後にすぐ『冗談ですからね』って言ってたぞ」

A「そんなまさか…」

B「漫才師はそんなこと絶対言わないから」

A「信じられない…」

B「あとコンビニのコントであんなガッツリ昼飯選ぶのもおかしいし」

A「うわー…無意識に選んでた…」

B「とにかくお前にこれ以上漫才はさせられない」

A「そんな……じゃあ、本当の僕は一体何者なんですか?」

B「二級建築士だ」

A「え?」

B「本当のお前は、二級建築士だ」

A「普通にただ建築士というわけでも、一級建築士というわけでもなく?」

B「そうだ、生粋の二級建築士だ」

A「なんか嫌だな…」

B「さあ、早くこの漫才を終わらせて、立派な二級建築士に生まれ変わるんだ」

A「いや、でも…」

B「まあいい、お前がやらないなら私が終わらせてやる」

A「え?そんな…」

B「嫌なら抵抗してみろ」

A「やめてくれ…」

B「いくぞ?…もういいよ!ありがとうございましたー!」

A「くそー!体が言うことを聞かないー!(死ぬほどのけ反る)」



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