漫才「モノマネ」

A「まきびし踏んで痛がってるところ悪いんだけどさ」

B「いや俺忍者を追ってる途中の人じゃないから」

A「今日はちょっと、俺の特技を見て欲しいんだよね」

B「特技?」

A「最近練習してて、やっと会得したんだけど」

B「うん」

A「実はいくつかモノマネができるようになって」

B「おお、いいじゃん」

A「もちろんあれよ?動物の鳴きマネとかそういうのじゃなくて、ちゃんと面白いやつ」

B「ほう、結構ハードル上げるね」

A「そりゃまあ、人前で披露するからにはある程度のクオリティは必須でしょ」

B「おお、これは楽しみだ」

A「じゃあ早速1つ目ね」

B「うん」

A「えーっ、スーパーで買い物してて、お互いにカゴを持った状態で棚と棚の間をすれ違う時に、それぞれがする動き…」

B「ああ、そういう『細かすぎて』みたいなやつか、いいね」

A「…を見ていた店員は、子供の頃からプロ棋士を目指していて」

B「ん?」

A「遊びもせず、友達も作らず、ただひたすらに駒と向き合っていた」

B「え?」

A「しかし3年前、同い年のライバルとの対局で実力の差を見せ付けられ」

B「いや」

A「自らの才能の限界を悟り、棋士への道を諦めた。そして…」

B「ちょっと」

A「そして今、スーパーの総菜コーナーで半額シールを貼っている」

B「何これ?」

A「店員は、カゴが当たらないよう脇に寄せ、お互いが少し横に避けながら進む客の姿を見て、『桂馬みたいだな』と思った」

B「モノマネは?」

A「ライバルだった彼はプロ棋士となり、先日タイトルを獲得したらしい」

B「らしい、じゃなくて」

A「退屈な仕事を終え、何度もため息をつきながら家に帰る」

B「いやだから…」

A「えーっ、その家で待っている、店員にとって唯一の癒し、ミニチュアダックスフンドのポポちゃん!…(マイクに近づく)」

B「え?」

A「ワンワンッ!」

B「いやモノマネの説明長すぎるわ!」

A「ワンワンッ!」

B「ほんで結局動物の鳴きマネじゃねえかよ」

A「いやー、どうよ?」

B「どうもこうも無いよ、何だこのフリの長さは」

A「こういうタイトルなんだから仕方ないでしょ」

B「いや今のモノマネのタイトルは『犬』だろ」

A「いやいや、モノマネは設定が大事だから」

B「その設定もよく分からなかったし」

A「うーん…」

B「何か他にレパートリーないの?」

A「あー、他ね、あるよ」

B「ちょっともうそっち見せてよ」

A「次はめちゃくちゃ分かり易いから大丈夫だと思う」

B「本当に?」

A「人気アニメのシーンを再現するやつだから」

B「おおなるほど、いいね。ドラゴンボールとかワンピースとか、そういうのできたら強いよ」

A「あとタイトルも長くないし」

B「それ大事、すごく大事」

A「じゃあ行くよ?」

B「うん。これは期待できるな」

A「…(咳払いしてマイクに近づく)」

B「……」

A「えーっ、大人気アニメ『手伝え!キャンプマン!』より」

B「いや知らないな」

A「みんながテントを張ったり食材を用意してる横で必死に怪人と戦っていたキャンプマンが「お前何もしてないだろ」と非難され、肉を分けてもらえないシーン」

B「マジで知らないな」

A「うぱぱぱぱぱぱ!うぱぱぱぱぱぱ!」

B「いやキャンプマン言語能力ゼロなのかよ」

A「うぱぱぱ!うぱぱぱ!うぱぱぱぱぱぱ!」

B「ちょっともうやめてくれ」

A「どうよ?結構上手いでしょ?」

B「いや知らない。上手いとか下手とかじゃなくて、知らない」

A「マジで?」

B「マジで」

A「うわー、この後『博識な怪人に衛生面での指摘を受けて、キャンプマンがキャンプ自体を嫌いになるシーン』やろうと思ってたのに」

B「知らないね。知らないしなんか嫌なシーンだね」

A「くそー、じゃあもう最後に1番自信あるやつやるわ」

B「ちょっともう期待できそうにないけどな」

A「いやいや大丈夫、これは子供の頃からやってて何度も大爆笑取ってるやつだから」

B「ほう、実績があるのね、それなら見てみようか」

A「よし、じゃあラスト…(マイクに近づく)」

B「……」

A「えーっ、変なタイミングで顎を触る、数学の吉岡先生やりまーす」

B「あー、1番伝わらないやつだ」



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