漫才「おふくろの味」

A「おふくろの味って良いよな」

B「良いね」

A「年取ってくると、たまに無性に食べたくなる瞬間とかあるよね」

B「はいはい、分かるわ」

A「俺が一番好きだったのはカレー」

B「あー、カレーね」

A「具材がどれも大きくて、ゴロッと入ってるのよ」

B「うわー、家庭の味って感じで良いね」

A「ニンジンとか」

B「はいはい」

A「玉ねぎとか」

B「うんうん」

A「あとジャガイモなんてもう、ほとんど丸ごと入ってたからね」

B「あー、はいはい、お母さんがジャガイモ握って」

A「握って?」

B「振りかぶって」

A「振りかぶって?」

B「キャッチャーミット目がけて思いっきり投げるんだよね」

A「いやなんでキッチンからマウンドに移動してるの?」

B「あれは良いよねー」

A「良いよねーじゃなくて、そんなことしないから」

B「え?」

A「誰がジャガイモで打者に立ち向かうんだよ」

B「じゃあそのジャガイモどうするの?」

A「皮剥いて鍋に入れるんだよ」

B「いやー、そんなの野球じゃないね」

A「野球じゃねえんだよ元々」

B「お前のお母さんにはちゃんと、正々堂々直球で勝負してもらいたい」

A「何を求めてるんだ、そんなことしないから」

B「え?じゃあ変化球も織り交ぜるってこと?」

A「球種の問題じゃなくて」

B「そんなの男の野球じゃねえよ」

A「いや女の料理なんだよこれ」

B「おふくろの球はそんなもんじゃないだろ」

A「なんだおふくろの球って、気持ち悪い」

B「しっかりしてくれよ」

A「お前だよ、何言ってんださっきから、いい加減にしろ」

B「いや俺、学生時代ピッチャーやってたからこういうの熱くなっちゃうんだよ」

A「こういうのって何?ただのカレーの話だったでしょ?」

B「いやいや、ジャガイモ丸ごと1個なんて、もうただの茶色い野球ボールだからね?」

A「無理やりすぎるだろ」

B「それにジャガイモに付いてる土ってあれ、甲子園のやつでしょ?」

A「違うわ、泣きながら持ち帰ってきてないわ」

B「そんな話されたら、あの白球を追いかけてた青春の日々を思い出しちゃうよね」

A「いや知らないから、もう野球の話やめてくれ」

B「あれ?そもそも何の話だっけ?」

A「おふくろの味だよ」

B「ああ、そうか」

A「お前は何か無いの?そういう思い出の料理」

B「俺はね、でかい唐揚げと太いきりたんぽ」

A「でかい唐揚げと太いきりたんぽ?なんか珍しい組み合わせだね」

B「この2つが一番好きだった」

A「へぇー、一緒に食べるの?」

B「いや、唐揚げを思いっきり投げてきりたんぽで打ち返すんだよ」

A「いやだからおふくろの味で野球するな、もういいよ」



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