漫才「分身」
A「今日はちょっと、お前に頼みたいことがあるんだけど」
B「頼みたいこと?」
A「あのー、実は俺、子供の頃からの夢があってさ」
B「うん」
A「分身がしたいんだよね」
B「え?分身?」
A「あの忍者映画とかに出てくる、分裂して人数が増えるやつ」
B「いやー、まあ子供の頃に憧れるのは分かるけど、さすがに現実的じゃないでしょ」
A「そう、そうなんだよ、そんな格好いい忍術みたいなこと、実際にはできないじゃん?」
B「うん」
A「だからそこで、お前にどうしても頼みたいことがあって」
B「ほう、何?」
A「あのー……お前さ、俺になってくれない?」
B「…え?」
A「お前、お前をやめて、俺になってくれない?」
B「いやごめん、めちゃくちゃ怖いし意味が分からないわ」
A「頼むよ、もうお前しかいないんだよ」
B「懇願する前に説明をしてくれ」
A「いやー、だからさ、実際に俺が分身して数を増やすのはやっぱり不可能じゃん?」
B「うん」
A「でももし、何とかして自分をもう一人作り出すことができれば、結果的には分身したのと同じことになると思うんだよ」
B「自分を作り出す…?」
A「けど人間を0から生み出すことはできないから、他人の体を使って自分を増やすしかなくてさ」
B「いや…」
A「だから頼むよ、お前、俺になってくれない?」
B「嫌に決まってるだろ、説明された後の方がはっきりと混乱してるわ」
A「絶対にどこかで埋め合わせはするからさ」
B「そういう次元の話じゃなかっただろ、バイトのシフト代わるみたいなテンションで頼んでくるな」
A「そうかー…」
B「そもそもお前が埋め合わせをする相手はもう俺じゃなくてもう一人のお前じゃねえか」
A「いやー、残念だなー、今までの努力が水の泡だ…」
B「ん?今までの努力?どういうこと?」
A「まあこれは当たり前のことなんだけど、人間ってそれぞれ違う特徴があるじゃない?」
B「うん」
A「だから自分と相手とのギャップを埋めるために、たくさん時間をかけてすり合わせをしておいたのよ」
B「え?」
A「お前、昔は結構方言とか使ってたのに、俺と標準語で話すことによって全然訛らなくなったでしょ?」
B「ああ、確かに」
A「それは俺がそうなるように誘導してたんだよ、お前を自分に近付けるために」
B「おいおいマジかよ」
A「そのために自然と一緒にいる時間が長くなる相方という関係性にも持ち込んだし、あえて標準語でしかネタも書かなかったし、それに…」
B「いやちょっと待って、結成の段階からそれが目的だったの?」
A「そうだよ、だから背格好が似てて年齢も近いお前を…」
B「いや怖い怖い怖い、俺もう既に結構巻き込まれてるじゃん」
A「他のターゲットは老人過ぎて全く距離が縮まらなかったり、そもそも女性で無理だったりと色々大変でさ」
B「それは試す前から想像つくだろ、っていうか器探しで3股かけんな」
A「だからもう残ってるのはお前だけなんだよ、頼むよ」
B「嫌だよ気持ち悪いな」
A「なあ、頼むよ(腕を掴む)」
B「嫌だって!(手を払う)」
A「そんなこと言うなよ、お前は未来の俺だろ?(腕を掴む)」
B「うるせえな!もう訳分かんないから!(突き飛ばす)」
A「(突き飛ばされる)おい何すんだよ!」
B「お前いい加減にしろって!目覚ませよ!」
A「くそー!よし、こうなったらもう力ずくで…!(肩を掴もうとする)」
B「(避ける)おい!こんだらず!なにしとるだいや!」
A「あー、だめだ、こいつまだ興奮するとめちゃくちゃ訛っちゃう段階だ…」
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