漫才「道案内」

A「…あの、ここで漫才やるって聞いたんですけど合ってます?」

B「合ってるよ」

A「『9つ目のパン屋を右に』って聞いて」

B「パン屋多いな」

A「全部に寄って何も買わずに出てきました」

B「街中のパン屋を冷やかすな」

A「無事に着いてよかった、ちょっと休んだら始めましょうか」

B「いやもう始まってるから」

A「(一瞬口に人差し指を入れる)よし。いや~最近散歩にハマってて」

B「なんでお前の漫才師スイッチ口内にあるんだよ」

A「街を歩いてると道を聞かれたりすることあるよね」

B「聞かれもするんだね」

A「でもいつも上手く教えられずに枕を濡らしてて」

B「泣くほど難しくはないでしょ」

A「そう?じゃあ手本見せてよ」

B「いいですよ」

A「俺が道を聞きに行くから、お前は金目的で逃げ回って」

B「そんな不親切な逃走中みたいなことしないから」

A「すみません、道をお尋ねしたいんですが」

B「どこに行きたいんですか?」

A「宮田さんの家です」

B「宮田さん?」

A「なんかめちゃくちゃ道に詳しいらしくて」

B「いや俺を経由してもっと詳しい人に辿り着こうとするな」

A「ベランダに柿の木があるそうです」

B「家庭菜園の域超えてるだろ、知りませんよそんな家」

A「困ったな、友達のお見舞いに行きたいのに」

B「ああ、病院ならあの信号を左に曲がればすぐですよ」

A「わたなべ歯科クリニックを探してるんです」

B「いや歯医者で見舞うなよ」

A「今ちょうどホワイトニングしてて」

B「虫歯ですらないのか」

A「(逆側を向く)……はい、銀行ですか?ちょっと分からないですね」

B「うわ、道聞きに来た人に道聞きに来た人がいる」

A「すみません、わたなべ歯科クリニックってどこにあるか分かります?」

B「道聞きに来た人に道聞きに来た人が道聞きに来た人に道聞かれてる」

A「そうですか、ありがとうございます(戻る)」

B「教えてもらえました?」

A「いや髪型を褒めてもらいました」

B「会話成立してないじゃん」

A「そういえば今日何も食べてないな、何か美味しい店とか知ってます?」

B「美味しい店ですか?この先にあるラーメン屋とか結構有名ですけど」

A「ああ、できれば二つ目の信号を右に曲がって銀行を左に曲がった所にある蕎麦屋がいいんですけど」

B「勝手にしろよ、あと銀行の場所知ってるじゃねえか」

A「天ぷらって付けた方がいいですかね?」

B「知らねえよ」

A「あっ、でももう出番だから行かなきゃ」

B「出番?」

A「この辺で漫才やってそうな場所知ってます?」

B「9つ目のパン屋を右に」

A「(離れて戻る)…あの、ここで漫才やるって聞いたんですけど合ってます?」

B「いや一生続ける気か、いい加減にしろ」





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