漫才「一人暮らし」

A「そろそろ一人暮らししたいなと思ってるんだけど」

B「そうなんだ」

A「色々考えてみたら不安なことが多くてさ」

B「ああ、寂しくて死んじゃわないかとかね」

A「いや俺ウサギじゃないからそれは大丈夫なんだけど」

B「じゃあ何が心配なの?」

A「例えば自炊ね」

B「ほうほう」

A「俺料理なんてほとんどできないからさ」

B「カレー作れる?」

A「まあそれくらいはできるよ」

B「じゃあ大丈夫だよ。俺もカレーしか作れないし」

A「マジで?でもさすがに毎日同じだと飽きるでしょ」

B「飽きないように作ってるから」

A「何かカレーに毎回工夫でもしてるの?」

B「いや、カレーじゃなくて自分を新しくしてる」

A「え?」

B「いつも食べ終わった瞬間カレーについての記憶を全て消してるから」

A「どういうことだよ」

B「よく、市販のルーを使わずにスパイスとかこだわって一から作ってます、みたいな人いるだろ?」

A「いるけど」

B「俺なんていつも存在自体を知らない状態だから、カレーを思いつくところから始めてる」

A「もうそれ自炊じゃなくて発明だろ」

B「作り過ぎた時の二日目とか大変だよね」

A「?」

B「謎の茶色い液体が鍋に残ってるからね」

A「せめて食べきってから消せよ」

B「まあだからカレーさえ作れれば、あとは思ってるほど難しくないよ」

A「いや思ってた以上に大変そうだけど」

B「他には何が心配なの?」

A「あとはやっぱりお金も心配だよね」

B「ああ、ペレットやら牧草やらエサ代もかかるしね」

A「いやウサギを飼うつもりも無いんだけど」

B「じゃあ何のお金?」

A「家具やら家電やら揃えるだけでも相当かかるでしょ?選ぶのも大変そうだし」

B「それなら俺が一通りあげるよ」

A「いやそれは悪いよ」

B「大丈夫、俺大体二個ずつ持ってるから」

A「え?」

B「なんか最近物忘れがひどくて、家にあるの忘れて同じの買って来ちゃうんだよね」

A「いや電池みたいなミスそこでするなよ」

B「キッチン周りの物が特にひどくて」

A「記憶消しすぎて後遺症出てるじゃん」

B「炊飯器が多すぎてもう入れる米が無いんだよね」

A「なんで一斉に炊いてるんだよ」

B「だから色々持って行ってくれた方が助かる」

A「それならまあ貰っておこうかな」

B「これでもう何も心配ないでしょ」

A「それが、一番不安なのが物件の選び方で」

B「ああ、種類によって必要なスペースも変わってくるし」

A「いやだからウサギ小屋の話じゃなくて」

B「じゃあ何が心配なの?」

A「実は事故物件だった、とかよく聞くでしょ。そういう心霊的なやつ俺めちゃくちゃ苦手だから」

B「そんなの気にしなきゃいいじゃん」

A「でも怖いじゃん。ほらあの、頭洗ってるとき後ろに気配を感じたり、お前そういうの無いの?」

B「あんなの一番安全だから」

A「安全?」

B「頭洗ってて後ろが気になる、なんてめちゃくちゃあるあるだろ?」

A「誰でも一度はあるよね」

B「でもこんなに怪談やらなんやらが溢れてる中で、シャンプーしてて振り返ったらお化けがいた話なんて聞いたことないだろ」

A「確かに意外とないかも」

B「今まで数百万人が振り向いて、確認して、その上で居なかったんだよ」

A「そうか」

B「だからデータ的にはむしろ頭洗ってる時が一番安全なんだよ」

A「なるほど」

B「だからお前は怖くなったらすぐ風呂に駆け込んで頭を洗え」

A「そういうことではない気がするけど」

B「いいんだよ、こういうのは気の持ちようだから」

A「まあ、それはそうかもしれないね」

B「これでもう不安は全て解消されたな」

A「かなり強引だけどね」

B「よし、あとはペットショップに行って必要な物を…」

A「いやだから飼わないって、しつこいな。そういえばお前やけにウサギに詳しかったけど、もしかして飼ってるの?」

B「うーん、どうだったかな…(頭を抱える)」

A「?」

B「…ちょっと思い出せないから、とりあえず一匹買って帰るわ」

A「いやお前絶対飼ってるだろ、もういいよ」



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