漫才「親子」

A「洗濯物畳みながらでいいから聞いてほしいんだけど」

B「いや俺忙しい主婦じゃないから」

A「よくドラマとかで、父親が息子に複雑な事情をカミングアウトするシーンあるでしょ?」

B「ああ、実は本当のお父さんじゃない…ってやつね」

A「そうそう。あれやってみたいから、ちょっとお前息子やってくれる?」

B「分かった」

A「あっ、この息子っていうのは息子役って意味で本当の息子では…」

B「分かってるよ、ここで複雑にするなよ」

A「(ドアを開ける)おいタカシ、ちょっと話があるんだ」

B「話?何だよ?」

A「お前ももう高校生だ、そろそろ伝えておくべきだろう」

B「え…?」

A「いいか?落ち着いて聞いてくれよ?」

B「……」

A「お父さんは、お前の本当のお父さんではないんだ」

B「え?本当の親子じゃないってこと?」

A「ああ、お前がまだ小さかった頃に、養子として家に迎え入れたんだ」

B「そうなんだ…」

A「でも、お父さんもお母さんも、お前のことは本当の息子だと思ってる」

B「うん…」

A「そしてそれはこれからも何も変わらない」

B「……分かったよ、伝えてくれてありがとう」

A「よかった、分かってくれたか」

B「うん、例え血が繋がってなくてもそんなことは…」

A「まだある」

B「え?」

A「まだ言わなくちゃいけないことがあるんだ。落ち着いて聞いてくれ」

B「何…?」

A「お前が長年住んできたこの家も、本当の自宅ではないんだ」

B「え?どういうこと?」

A「忍び込んだら、奇跡的に誰も帰って来なかったんだ」

B「え?ずっと不法侵入してたってこと?」

A「ああ、お父さんがパチスロしかしてなかった頃、そっと忍び込んだんだ」

B「そうなんだ…」

A「でも、今はもう勝手に改装とかもしてる」

B「うん…」

A「そしてそれはこれからも変わらない」

B「……分かったよ、伝えてくれてありがとう」

A「よかった、分かってくれたか」

B「うん、例え法的にアウトだったとしてもそんなことは…」

A「まだある」

B「え?」

A「落ち着いて聞いてくれ」

B「何…?」

A「お前と仲の良い同級生のケンジくんも、本当は同級生のケンジくんじゃないんだ」

B「え?どういうこと?」

A「あれは、25個上の磯部さんだ」

B「そうなんだ…」

A「とりあえず敬語は使っておいた方がいい」

B「分かったよ、伝えてくれてありがとう」

A「まだある」

B「え?」

A「お前がいつも可愛がっている犬も、本当の犬じゃないんだ」

B「どういうこと?」

A「あれは、毛玉に寄生しているでかいヤドカリだ」

B「そうなんだ…」

A「まだある」

B「え?」

A「お前が普段練習に行っている野球部も、本当の野球部じゃないんだ」

B「どういうこと?」

A「あれは、岩手さわやかゲートボールクラブだ」

B「そうなんだ……分かったよ、伝えてくれてありがとう」

A「よかった、分かってくれたか」

B「例え友達が25個上でも、ペットが毛玉ヤドカリでも、青春がゲートボールでも、そんなことは関係ないよ」

A「そうだぞタカシ、お前はこれからも……あっ」

B「ん?どうしたの?」

A「そう言えばもう一つだけあった」

B「何…?」

A「このタカシって名前も、お前の本当の名前じゃないんだ」

B「え?どういうこと?」

A「お前の本当の名前は、矢野秀介だ」

B「うわー、鎮座DOPENESSの本名と同じだ」



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