漫才「緊急事態」

A「どうもー、よろしくお願いしますー」

B「お願いしますー」

A「まあ今日もね、元気に頑張っていきたいんですけど」

B「うん」

A「ただあのー、まあ、ちょっとね」

B「うん、ちょっとね」

A「ね、申し訳ないんですけどね」

B「うん」

A「ちょっと僕ら、あのー、忘れてしまいまして」

B「はい」

A「今日やろうと思って作ったネタ、全文字忘れてしまいまして」

B「いやー、すみませんね」

A「こんなことってあるんだね」

B「ビックリだねー」

A「一生懸命作って、徹夜で練習もしたんだけどね」

B「ねー、残念だねー」

A「本当はね、僕らも皆さんに見ていただきたかったんですよ」

B「うん」

A「ネタの内容もほんと、信じられないくらい面白いのができて」

B「うんうん」

A「つかみも早くて、設定も斬新で、シュールだけど分かりやすさもあって、ガンガン伏線も回収して、ねっ?」

B「そうだね、純粋に大喜利も強くて、ツッコミのワードも絶妙で、ぶっ飛んだボケも奇天烈な展開もあって、でもそれでいてちゃんと人間味も出てる、今まで見たことないくらい完璧なネタだったよね?」

A「そうなんだよねー」

B「いやー、ほんと、色んな人に見て欲しかったなー」

A「見て欲しかったねー」

B「マジでもう、めちゃくちゃ悔しいわー」

A「っていうか俺らさ、昔からこういうの多くない?」

B「あー、確かに多いね」

A「確実に優勝できるレベルのネタがあるのに、たまたま賞レースの予選当日に忘れたり」

B「はいはい、偶然ね、毎年1回戦で忘れちゃうんだよね」

A「大喜利ライブで回答を思い付くのと同時に回答を忘れ続けたり」

B「はいはい、あるね、俺ら基本的に一答もしないもんね」

A「あと単独ライブで全ネタ忘れてビンゴ大会やったりもしたね」

B「はいはい、やったね、2時間数字読み上げてたね」

A「いやー、けどやっぱり、今回のが一番悔しいな」

B「そうだね、本来なら完璧なネタができてたはずだからね」

A「ほんとだよ」

B「これは悔しいわ」

A「くそー、結局今日も何もできなかったじゃん」

B「できなかったねー」

A「なあ、どうする?」

B「え?」

A「このままじゃたぶん、見てる人が俺らのこと全部忘れちゃうよ?」

B「ああ確かに」

A「それだけは何とかして避けたいけど…」

B「うーん……あっ、じゃあもうあれ言うしかないんじゃない?」

A「あれって?」

B「顔と名前だけでも覚えて帰ってください」

A「あー、なるほど、あれってネタ忘れた時用の保険だったんだ」



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