漫才「本読みたい」

A「俺さ、今すごいやりたいことがあって」

B「やりたいこと?」

A「実はちょっと、本を読んでみたいんだよね」

B「本を読む?読書ってこと?」

A「そうそう、俺今まで1冊もまともに読んだことないからさ」

B「あー、そうなんだ」

A「だからもう、どうしても読んでみたいのよ」

B「ああそう、まあそれなら普通に読んでみればいいんじゃない?」

A「いやそれがさ、本ってやっぱり難しいイメージがあるじゃん?だからちょっと躊躇しちゃってて」

B「あー、まあ確かに最初はなるべく読みやすい作品の方がいいかもね、複雑すぎる物だとあんまり…」

A「あっ、違う違う」

B「ん?」

A「俺、本の内容の話はしてない」

B「え?」

A「そこは全く心配してないのよ」

B「え?じゃあ何が難しそうで躊躇してるの?」

A「入手方法」

B「入手方法?」

A「本の入手方法が分からなくて困ってる」

B「いや何だよそれ、そんなもんどこででも手に入るだろ」

A「え?例えばどこよ?」

B「本屋とか、図書館とか、あと今は電子書籍だってあるし」

A「おお、なんかめちゃくちゃ詳しいな」

B「普通のことしか言ってないよ」

A「お前それ本で読んだだろ?」

B「いや本を手に入れるための本とか無いから」

A「まあでもなー、今挙げてくれたのも、結局全部ダメなんだよな」

B「え?なんでよ?」

A「まず電子書籍は論外、あれは情緒がないからね」

B「偉そうなこと言うなよ、紙でも電子でも読んでない奴が」

A「それに、本屋はちょっと行くのが怖いよね」

B「本屋が怖い?どうして?」

A「だって俺、今までの人生で全く本と関わって来なかったんだよ?そんな奴がいきなりあんな空間に飛び込んでいいものなの?」

B「いや、別に大丈夫だと思うよ」

A「でも犬の存在を知らない奴がドッグランに紛れ込んでたらめちゃくちゃ怖くない?」

B「いやそれは怖いけど」

A「周りの飼い主も怖いし、多分そいつ自身も怖がってるし」

B「得体の知れない毛むくじゃらの生物が跳ね回ってるからね」

A「しかも大群で」

B「確かに怖いよ、怖いけどそれはもう全く別の話だから」

A「俺はただ本が読みたいだけで、そんなイカれた状況を作り出したいわけじゃないんだよ」

B「いやそうはならないから、絶対」

A「とにかく本屋は無理、怖すぎる」

B「うーん、じゃあ図書館でいいんじゃない?小さな子供とかでも行けるような場所だし」

A「いやいやいや、図書館なんて一番ハードル高いから」

B「え?そうかな?」

A「これだけ色んなエンタメが溢れてる時代にわざわざ図書館まで足を運ぶ人なんて、相当な本好きでしょ?」

B「まあね」

A「多分もう、足音を聞いただけでそいつが今まで何冊読んできたか分かる老人とか、ページを捲りすぎて右腕の筋肉だけが異常に発達してる少女とか、そういう人しかいないと思うんだよ」

B「いやそんなことないわ、一般のおとなしめな利用客がいるだけだよ」

A「そこに俺みたいな素人が迷い込んだら、あっという間に読書アベンジャーズの餌食になって終わりだよ」

B「お前読書家を何だと思ってるんだ、そんな非読書家を見つけ出して成敗する文化とか無いから」

A「とにかく図書館も無理だね、怖すぎる」

B「うーん……あっ、じゃあもう分かった、今度俺が貸してやるよ」

A「え?マジで?」

B「そうすればお前がどこかに出向いて入手する必要もないでしょ?」

A「うわー、それは有難いわ」

B「ちなみにこんなジャンルが読みたい、とかそういうのある?それに合わせて持ってきてやるよ」

A「えーっとね、実はどうしても読みたい作品が1つだけあって…」

B「ほう、どういう作品なの?」

A「2001年10月に創刊された、主に芸能スキャンダルやアウトローな話題を扱う月刊誌なんだけど…」

B「いやそれ実話ナックルズじゃねえか、コンビニで買え」



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