漫才「眠れない」

A「あのー、実はちょっと悩みがあってさ」

B「悩み?」

A「最近あんまり眠れてなくて、ずっと寝不足なんだよね」

B「あー、それは辛いね」

A「なぜか疲れてる日でもなかなか眠れなくて」

B「うわー」

A「俺も枕元にたくあん置いたり、右手を紙粘土で覆ったり色々やってみたんだけど、結局全然効果なくてさ」

B「あー、あんまり聞いたことないやつ試してる」

A「何かぐっすり眠れる良い方法無いかな?」

B「うーん、それならまあベタに羊を数えるやつは?」

A「はいはい、あれね、そう言えばまだ試してなかったわ」

B「ああそう」

A「じゃあちょっと今やってみるわ」

B「うん」

A「えー、羊が1匹……羊が2匹……羊が3匹……羊が4…あれ?」

B「ん?」

A「羊ってさ、匹でいいんだっけ?」

B「え?」

A「羊の数え方って、匹でいいんだっけ?」

B「いや別になんでもいいだろ、眠るためのものなんだから」

A「うーん、頭だった気もするなー…」

B「どっちでもいいから」

A「1匹?1頭?頭?匹?匹?頭?」

B「おい落ち着けよ」

A「ああ、ごめんごめん」

B「まあとりあえず、実際の正式な数え方は知らないけど、これやる時はみんな匹でやってるよ」

A「あっ、匹でいいのね、そうかそうか」

B「眠りたいならこんな細かい所気にするなよ」

A「まあそうだね、じゃあもう一回やってみるわ」

B「うん」

A「えー、羊が1匹……羊が2匹……羊が3…あれ?」

B「ん?」

A「羊って言い切れるか?」

B「え?」

A「数え方も知らない人間が頭の中で勝手に生み出しているこの生物、羊って言い切れるか?」

B「いやどうでもいいわそんなこと」

A「よくよく考えてみるとリアルな羊の顔ってあんまりパッと浮かばないしな」

B「何となくでいいんだよそういうのは」

A「よし、じゃあこいつの事はようげんと呼ぼう」

B「え?」

A「羊の幻と書いて、羊幻(ようげん)と呼ぼう」

B「いや何だよそれ、気持ち悪いな」

A「これでようやくスッキリしたわ、早速もう一回やってみよう」

B「もう勝手にしてくれ」

A「えー、羊幻が1匹……羊幻が2匹……羊幻が3匹……羊幻が…あれ?」

B「ん?」

A「匹じゃないな」

B「え?」

A「羊幻は実際には存在しない物だから、やっぱり匹はおかしいな」

B「いやもういいって数え方の話は」

A「というかそもそも、俺が数えた瞬間に生まれて、数え終わったら消滅していく物だから、数字をカウントしていく行為自体が無意味だな」

B「それは実際の羊でも無意味だろ」

A「よし、じゃあしょうしょうと呼ぼう」

B「え?」

A「思い浮かべるたびに生まれて、そしてすぐに消えていくこの現象を、生まれるに消えるで生消(しょうしょう)と呼ぼう」

B「無い言葉を作るなよさっきから」

A「これでやっと眠れるはずだな、もう一回やってみよう」

B「早く寝ろよ」

A「えー、羊幻が生消……羊幻が生消……羊幻が生消……羊幻が…あれ?」

B「ん?」

A「鍋に入れてるみたいになってるな」

B「え?」

A「羊幻っていう名前の珍しい塩を、鍋に少し入れてるみたいになってるな」

B「もう何を言っているんだお前は」

A「ここで一旦弱火にしまして、みりん大さじ2杯と羊幻を少々、みたいな感じに…」

B「なってねえよ、さっきから考えすぎだって」

A「よし、こうなったらえんがいって付けよう」

B「え?」

A「誤解を避けるために、これは塩以外ですよ、ってことで塩外(えんがい)って付けよう」

B「ああもう好きにやってくれ」

A「よし、ようやく完成したな、これで絶対眠れるわ」

B「はいはい、そうですか」

A「じゃあ最後に試してみようか」

B「はい」

A「えー、塩外の羊幻が生消……塩外の羊幻が生消……塩外の羊幻が生消……塩外の羊幻が生消……塩外の羊幻が生消……塩外の羊幻が生消……塩外の羊幻が生消……塩外の羊幻が……あれ?全然ダメだ!眠れない!」

B「え?」

A「あっ、でも安心して」

B「安心?」

A「今ので失敗した原因はちゃんと突き止めたから」

B「ほう、じゃあその原因って?」

A「さすがに意味が分からな過ぎる」

B「いや自分でも見失ってたんかい、いい加減にしてくれ」



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