漫才「幽霊」

A「あのさ、夏とかによくやる肝試しってあるじゃん?」

B「はいはい」

A「俺、昔からああいうの全然怖くなくてさ」

B「へぇー、マジで?」

A「有名な心霊スポットとか普通に一人で行けるんだよね」

B「うわー、凄いな、俺絶対無理だわ」

A「むしろ怖がってる人の気持ちがよく分からないっていうか…」

B「あー、じゃああれだ、霊感とか全くないんだ」

A「あるよ」

B「え?」

A「霊感はめちゃくちゃあるよ」

B「あるの?そういうの信じてないから怖くないんじゃないの?」

A「ああ逆だね、俺は霊感強すぎてもう怖くなくなったんだよ」

B「慣れで克服したんだ、珍しいね」

A「そもそも大体の幽霊って別に襲ってきたりしないからね」

B「そうなんだ、っていうかそんなに頻繁に見てるの?」

A「うん、昨日も一日中見えてたよ」

B「うわマジで?昨日って俺もずっと一緒に居たじゃん、めちゃくちゃ怖いんだけど」

A「なんか、昨日は朝から疲れてる様子で」

B「ほう、幽霊って疲れるんだ」

A「とりあえずコンビニで飯買って食って」

B「え?コンビニで?」

A「その後俺の家に来て」

B「お前ん家…?」

A「ちょっとゲームとかして」

B「ゲーム…?」

A「それでしばらくしたら仮眠取るって言い出して」

B「いや…」

A「結局そのまま夕方くらいまで…」

B「あのー、ちょっと待って」

A「ん?」

B「俺じゃん」

A「え?」

B「それ、夜勤明けでお前ん家行った昨日の俺じゃん」

A「ああ、そうだよ」

B「いやそうだよって何だ、俺は幽霊の話を聞いてるんだよ」

A「え?だからしてるじゃん、さっきからずっと」

B「おい怖いこと言うな、俺ちゃんと生きてるから」

A「いや別にお前だけじゃなくてさ、街にもいっぱいいるじゃん?幽霊」

B「街にも?」

A「ほら、ファミレスで飯食ってたり、ライブハウスで演奏してたり、朝なんて毎日電車に詰め込まれて…」

B「いやこいつ人間を全て幽霊として捉えてるな」

A「もちろんお前が今見てるのも幽霊だし…」

B「自分も例外じゃなかった」

A「だから別に、今更肝試しとか行ったところで何も怖いと思えないんだよね」

B「そりゃそうだろうな、地球上に70億人存在することになってるんだから」

A「…あっ、でも実はこの前ちょっと面白い怪談を聞いてさ」

B「面白い怪談って何だ、それたぶん普通のエピソードトークだろ」

A「あのー、友達の幽霊のバイト先に変な先輩幽霊がいるらしくて…」

B「やっぱり人間の話だ、人間と人間の話だ」

A「店長幽霊と揉めてたら、それを見てたバイトリーダー幽霊が近付いてきて…」

B「もういいもういい」

A「ん?」

B「それ全然怪談じゃないから」

A「え?でも幽霊いっぱい出てくるよ?」

B「本当の怪談は幽霊いっぱい出て来ないから、1人か2人だから」

A「でもこの後の展開がめちゃくちゃ面白いんだよ」

B「どうでもいいわ、さっきから訳分からないことばっかり言いやがって、もう俺は帰らせてもらうわ」

A「おいそれはないだろ!」

B「え?」

A「漫才中に帰るなんて、そんなの座ってる幽霊に失礼だろ!」

B「いやお客さんのこと座ってる幽霊って言うな、いい加減にしろ」



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