漫才「作曲」

A「あのー、俺さ、昔から歌手になるのが夢で」

B「へぇー」

A「普段から結構オリジナルソングとか作ってるんだよね」

B「作詞作曲できるんだ、凄いね」

A「それで実は今回、めっちゃ良い曲が出来上がってさ」

B「ほうほう」

A「どこかで披露したいと思ってるんだけど、どうしても入りが上手く行かないんだよ」

B「入り?歌い出しってこと?」

A「いや、その前」

B「その前?」

A「曲に入る時のトークが上手く行かないのよ」

B「いや別にいいだろそれは」

A「だからせっかく作ったのに全然人前で歌えてなくてさ」

B「無言で入って歌えよ、あのトークゾーン別に必須じゃないから」

A「それで今日はちょっとお前に聞いてもらって、おかしな所を修正して欲しいんだよね」

B「いやー、普通にトーク必要ないと思うけどな…」

A「よし、じゃあ早速行くよ?(ギターを持つ)」

B「うーん…」

A「…えー、それでは次は新曲を聞いていただきたいと思います」

B「……」

A「困っている人の背中を押したくて作った曲です」

B「ほう…」

A「誰もが経験したことのある葛藤をテーマにしました」

B「うん…」

A「きっと皆さんにも共感していただけると思います」

B「うーん、普通にトークできてるっぽいけどな…?」

A「友情と笑いを天秤にかけ、選択を迫られる瞬間」

B「…ん?笑い?」

A「特殊な体勢の相手に対して、どう対応すべきか」

B「特殊な体勢…?」

A「押さなければ無事だが、押せば笑いが取れる」

B「……」

A「その異常な熱さを前に迷い続けている人へ向けた曲です」

B「いやこいつ熱湯風呂の曲作ってるな!」

A「僕の歌で背中を押すことができれば嬉しいです」

B「物理的に押す話かよ、比喩じゃないのかよ」

A「湯船の真上で困っている人へこの曲を捧げます」

B「いやあれ困ってるわけじゃないから、納得してやってることだから」

A「それでは皆さん聞いてください…『絶対押すなよ』」

B「いやもういいって、やめてくれ」

A「え?」

B「もうトークがどうとかいう問題じゃなくなってるから」

A「止めるなよ、ここからやっと曲が始まるのに」

B「熱湯風呂の歌とか聞いてられないわ、なんか最初応援ソングみたいな言い方してたけど」

A「うーん…」

B「そもそもその曲どんな歌詞になるんだよ?」

A「え?あー、『絶対押すなよ、絶対押すなよ』って相手に懇願されて」

B「うん」

A「悩んで悩んで最終的に押さないって歌だね」

B「いや絶対に押せよ、無駄に友情を取るな」



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