漫才「痛い」

A「俺さ、実は学生時代野球部だったんだけど」

B「うん」

A「ああいう爽やかな青春みたいなの、最近味わってないなーと思って」

B「あー、まあね、大人になるとそうなるよね」

A「だから今日はちょっと、野球に打ち込んでたあの頃の雰囲気を再現したいんだよね」

B「なるほど、いいね」

A「よし、じゃあまずはノック練習ね」

B「はいはい」

A「俺が守備するから、お前はガンガン打ってきて」

B「了解(構える)」

A「…(離れる)」

B「じゃあ行くぞー?」

A「よし来い!」

B「(打つ)」

A「(動かない)」

B「ん…?(打つ)」

A「(動かない)」

B「え…?(打つ)」

A「(動かない)」

B「(打つ)」

A「(動かない)」

B「いやちょっと、何してるの?全然ボール捕ろうとしないじゃん」

A「あー、ごめん、忘れてたわ」

B「忘れてた?ボール捕るのを?」

A「ああいや、そうじゃなくて」

B「え?じゃあ何?」

A「そう言えば俺今日、めちゃくちゃ足痛いんだった」

B「足痛い?」

A「だから動き回るとかそういうのできないわ」

B「え?何だよ、お前が野球やりたいって言い出したのに」

A「あっ、でも大丈夫、俺座るから」

B「座る?」

A「俺は座った状態でキャッチャーやるから、お前はピッチャーをやってくれ」

B「ああ、まあ別にいいけど…(構える)」

A「(座る)」

B「じゃあ行くぞー?」

A「よし来い!」

B「(投げる)」

A「(動かない)」

B「ん…?(投げる)」

A「(動かない)」

B「え…?(投げる)」

A「(動かない)」

B「おい…(投げる)」

A「(動かない)あー、ごめん、忘れてたわ」

B「え?今度は何?」

A「そう言えば俺今日、めちゃくちゃ腰痛いんだった」

B「腰痛い?」

A「だから座ってるこの体勢もちょっとキツイわ」

B「いやお前が自分でキャッチャーやるって…」

A「あっ、でも大丈夫、俺寝転がるから」

B「寝転がる?」

A「俺は寝転がって見学中のおじさんをやるから、お前はそのままピッチャーしてて」

B「いやもう青春関係ねえじゃん、おじさんやっちゃってるじゃん」

A「いいから、頼むわ(寝転がる)」

B「何だよもう…(構える)」

A「……」

B「行くぞー?(投げようとする)」

A「あー、ダメだ、ごめん、忘れてた」

B「え?」

A「そう言えば俺今日、目痛いんだった」

B「いやもういいってそういうの、そもそも痛みって一つずつ思い出す物じゃないだろ」

A「ダメだ、ここで寝転がって見てるだけでも辛いわ」

B「数分前まで普通に立って喋ってたけどな」

A「あっ、でも大丈夫、俺だけ帰るから」

B「え?」

A「俺は帰って家で寝ておくから、お前はここで野球を続けてくれ」

B「いや何のためにそんなこと…」

A「(聞かずに帰る)」

B「おい!本当に帰るなよ!(連れ戻す)」

A「ちょっと、何をそんな怒ってるの?」

B「いやいや、お前が野球部時代の青春を味わいたいって言うから付き合ってやってるのに、お前だけ先帰るって意味分からないだろ」

A「あー、でも今、お前のおかげで青春を完璧に再現できたよ?」

B「え?どういうこと?」

A「俺、毎日この方法で部活の練習もサボってたから」

B「いやそもそも野球自体してなかったんかい、もういいよ」



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