ジョン・ロック『人間知性論』

『人間知性論』は、イギリスの哲学者ジョン・ロックが1689年に出版した、人間の認識と知識に関する哲学書です。ロックは20年かけてこの著作を書き上げ、近代イギリス経験論の確立に寄与しました。

この本の執筆背景としては、当時のヨーロッパで流行していたカルテジウス哲学(デカルト哲学)に対する批判があります。デカルトは、人間には生まれつきの生得観念や理性があり、それによって世界を合理的に理解できると主張しました。しかしロックは、人間の心は白紙(タブラ・ラーサ)であり、一切の知識の源泉は経験にあると考えました。ロックは、人間の知識の範囲と限界を明らかにすることが重要な問題であるとし、内省的な方法によってこの問題の研究を行いました。

この本の内容としては、以下のような構成になっています。

導入部:読者への手紙、序論
第1篇:原理や観念は、いずれも生得的ではない
第2篇:観念について
第3篇:言葉について
第4篇:知識と蓋然性について

この本の特徴としては、観念(ideas)という概念を中心に据えたことが挙げられます。ロックは、人間の知性の対象は観念であり、観念はすべて経験に由来すると考えました。観念には単純観念複雑観念があり、単純観念は感覚や内省によって得られるもので、複雑観念は単純観念を組み合わせたり変化させたりして作られるものです。観念は、物体の客観的な性質(第一性質)と主観的な感覚(第二性質)を含みます。ロックは、観念の種類や性質、言語との関係、知識との関係などについて詳細に分析しました。

この本の影響と評価としては、非常に高いものがあります。この本は、イギリスの哲学者バークリーヒュームなどの経験論の発展に大きな影響を与えました。また、フランスの哲学者ヴォルテールルソーなどの啓蒙思想家にも影響を与えました。さらに、アメリカの独立宣言や憲法の起草者たちにも影響を与えました。

この本は、近代哲学の古典として広く読まれ、研究されています。特に、米英系の大学では、哲学のテキストとしてよく使用、読まれています。日本では大槻春彦氏による邦訳(岩波文庫)が入手可能です。ぜひ手に取って読んでみてください。

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