5分でわかる経済思想史

アダム・スミス

  • アダム・スミスは、18世紀のスコットランドの経済学者であり、『国富論』と『道徳感情論』の著者である。

  • スミスは、自由放任主義の父として知られており、市場経済における個人の自由な選択と競争社会全体の利益につながると主張した。

  • しかし、スミスは、資本主義が道徳的に正当化されるためには、人間の自然な共感性正義感などの道徳的条件が必要だとも考えていた。

  • 『道徳感情論』では、スミスは、人間は他者の感情に共感する能力を持っており、それが道徳的判断や行動の基礎になると説明した。

  • また、スミスは、人間は自分の行動を中立的な観察者(インパーシャル・スペクテイター)の目から見て評価することで、自分の利己的な欲望を抑制し、他者の利益を考慮することができるとした。

  • このように、スミスは、資本主義における個人の自由や利己性が社会的調和や公共の利益に貢献するためには、人間の道徳的感性理性が重要であるという見解を示した。

J.S.ミル

  • J.S.ミルは、19世紀のイギリスの哲学者であり、『自由論』や『経済学原理』の著者である。

  • ミルは、スミスの自由放任主義を批判し、政府の介入が必要な場合もあると主張した。

  • ミルは、資本主義が労働者階級に不平等な分配をもたらすことを認め、その対策として、進歩的所得税労働組合の活動などを提唱した。

  • また、ミルは、資本主義が無限の成長を追求することに疑問を呈し、人間の幸福や自由を重視する「静止状態」の経済を理想とした。

マーシャル

  • マーシャルは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したイギリスの経済学者であり、『経済学原理』の著者である。

  • マーシャルは、古典派経済学と新古典派経済学の橋渡し的な役割を果たし、需要と供給による価格決定限界効用分析などの理論を発展させた。

  • マーシャルも、資本主義が労働者階級に不利益を与えることを認め、その対策として、教育社会保障などの政策を支持した。

  • しかし、マーシャルは、ミルとは異なり、資本主義が成長を続けることに肯定的であり、その過程で労働者階級の生活水準も向上すると考えた。

ケインズ

  • ケインズは、20世紀前半に活躍したイギリスの経済学者であり、『雇用・利子および貨幣の一般理論』の著者である。

  • ケインズは、1929年に起きた世界恐慌を契機に、古典派経済学の限界を指摘し、不況に陥った経済を回復させるためには、政府の積極的な財政政策金融政策が必要であると主張した。

  • ケインズは、資本主義が生産や消費に基づく「実体経済」と、投機や貯蓄に基づく「金融経済」に分かれていると考えた。

  • ケインズは、金融経済が実体経済に影響を与えることで、資本主義を歪めると批判した。

  • 例えば、投機家たちは、将来の価格変動に対する不確実性から、「動物的精神」によって市場に参加し、株価や為替レートなどを不安定にするとした。

  • また、貯蓄家たちは、利子率の変動に対する期待から、「流動性選好」によって貨幣を保有し、有効需要や投資を減少させるとした。

  • このように、ケインズは、「金融」が資本主義を歪めることで、不況や失業などの社会的問題を引き起こすという見解を示した。

マルクス

  • マルクスは、19世紀のドイツの哲学者であり、『資本論』や『共産党宣言』の著者である。

  • マルクスは、資本主義が生み出す生産力と生産関係の矛盾を分析し、その歴史的発展の法則を明らかにした。

  • マルクスは、資本主義が私有財産制度に基づいていることを批判し、その対立概念として共有財産制度を提唱した。

  • マルクスは、私有財産制度が労働者階級(プロレタリアート)を剥奪し、資本家階級(ブルジョワジー)に富を集中させることで、階級闘争を激化させるとした。

  • また、マルクスは、私有財産制度が人間の本質や自由を奪い、商品や金銭によって人間関係を疎外するとした。

  • このように、マルクスは、「私有」を問い直すことで、資本主義の根本的な欠陥や不正義を暴露した。

ハイエク

  • ハイエクは、20世紀前半に活躍したオーストリア出身の経済学者であり、『景気と貨幣』や『隷従への道』の著者である。

  • ハイエクは、ケインズやマルクスのような政府の介入や計画経済を支持する経済学者を批判し、市場経済における個人の自由や競争を擁護した。

  • ハイエクは、私有財産権を絶対的な価値として尊重し、その侵害や制限を否定した。

  • ハイエクは、私有財産権が個人の自由や責任を保障し、市場における価格信号を伝達し、資源の効率的な配分を促進すると主張した。

  • また、ハイエクは、私有財産権が社会的秩序や法の支配を維持し、政府の権力や圧力から個人を守ると考えた。

  • このように、ハイエクは、「私有財産権」の絶対性を強調することで、資本主義の自己修正能力や自由主義の理念を強化した。

フリードマン

  • フリードマンは、20世紀後半に活躍したアメリカの経済学者であり、『自由の選択』や『資本主義と自由』の著者である。

  • フリードマンは、ケインズやケインジアン経済学を批判し、市場経済における個人の自由や競争を強く支持した。

  • フリードマンは、「市場主義」という思想を提唱し、政府の介入や規制を最小限に抑え、市場の力に任せることを主張した。

  • フリードマンは、政府の役割を法と秩序の維持や国防などに限定し、教育や医療などの社会的サービスも民間に委ねることを提案した。

  • また、フリードマンは、中央銀行の金融政策も不要であり、貨幣供給量を一定の割合で増加させることでインフレーションを防ぐことができるとした。

  • このように、フリードマンは、「市場主義」の扇動者として、資本主義の極限化や自由放任主義の復活を促した。

組織の経済学

  • 組織の経済学は、経済活動を行う主体である企業や団体などの組織の内部構造や外部関係を分析する分野である。

  • 組織の経済学は、組織における意思決定や契約や権利などの制度やルールを重視し、その効率性や公正性、安定性などを評価する。

  • 組織の経済学は、現代の経済理論において、株主という存在に対して異なる見解を示している。

  • 一つの見解は、株主至上主義と呼ばれるもので、株主は企業の所有者であり、最高の権利を持つとするものである。

  • 株主至上主義は、企業の目的は株主の利益を最大化することであり、そのためには経営者や従業員や取引先などの他の利害関係者の要求を無視することも正当化されるとするものである。

  • もう一つの見解は、ステークホルダー理論と呼ばれるもので、株主は企業の一利害関係者に過ぎず、他の利害関係者と同等の権利を持つとするものである。

  • ステークホルダー理論は、企業の目的は株主だけでなく、経営者や従業員や取引先などの他の利害関係者の利益も考慮することであり、そのためには株主の要求を制限することも必要であるとするものである。

  • このように、組織の経済学は、現代の経済理論における株主の位置づけについて異なる視点を提供している。

参考文献

・はじめての経済思想史 アダム・スミスから現代まで (講談社現代新書)

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