借景

今回の投稿は、TOTOの発行している建築情報誌「TOTO通信」2019年夏号を読んでの感想です。

TOTO通信はいつも面白く読ませていただいています。事例が4軒と、浦一也さんのホテル話などなど充実した内容で、無料。1000円の雑誌ぐらいの価値はありそう……。

設計事務所などは登録すれば冊子が送られてくるらしいですが、私はウェブで読んでいます。PDFとHTMLが両方用意されていて親切。

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2019年夏号のテーマは「借景」。

・「桃山ハウス」中川エリカ
・「川」横内敏人
・「Todoroki House in Valley」田根剛
・「Casa O」高橋一平
(敬称略)

横内さんの「川」はゲストハウスですが、他は個人邸。新築2件、リノベーション2件。最近の雑誌はリノベ率が高い。

つらつらと感想を書くかたちになります、精査しているわけではなく個人的な意見ですのでご了承ください。

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まず、中川エリカさん。大屋根を一枚かけるだけという今どきな構成の住宅です。伝統的な「柱―壁―柱」というセットの関係を崩し、柱は構造的に(屋根をかけるために)必要なもの、壁は内と外を仕切るもの、と用途を分ける。そうすると

1:屋根のかかっていない部分(完全に外)
2:屋根がかかっていて柱も立っているけれど壁の外側(中間領域)
3:屋根がかかっていて壁の内側(完全に内)

の三種類ができ、内外に同じ仕上げの柱が立っていたりして、境界が曖昧になる。というところが建築的な面白さだと思います。

……がしかし、私はこの住宅に健康的な印象を抱くことができません。建築としての面白さは置いておいて、ここで楽しく暮らせるかどうかと問われると、ちょっと疑問です。屋根が大きすぎて軒が深く外周部ですら暗いし、中心付近はもっと暗くて風の通りが悪そうだし、スケール感が住宅的ではない気がします。大空間に小さなユニットを置いて解決しちゃえってスタンスはどうなのかなぁ。

要するに「建築的な面白さ」と「住宅としての居心地」のバランスがあまりよくなくて。建築をつくりたい!が前面に出ているように見えます。

最近、自分の中で大きな問題になっていること。この二つは両立するのが難しい。もちろん施主さんが了解して「面白い建築に住める!嬉しい!」ってなるパターンならかまわないと思います。でも、よほどの覚悟がないと住めないなこれ、って住宅を見てしまうとなんだか悲しい。

建築家にとって住宅は特別な存在なはず。私も住宅を選びました。住まない建築には人間の本質がないと思ったから。

でも、住宅に「建築的面白さ」を突っ込みすぎることの危うさを感じることが最近多いです。つまらない大人になってしまったのかもしれないけど、「自分だったらこんな家に住みたくない」その気持ちは本当なので、無視できない。

この施主さんは二拠点居住みたいなので、チャレンジしてもいいのかもしれないけど。

ちょっと軽く書くつもりが、思いのほか最初から長くなってしまった……。

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横内敏人さんの「川」。1階が寝室で2階がリビングということに、納得できるようなできないような、まだモヤモヤした気分です。

というのはおそらく「京都のゲストハウス」という存在がよくわからないからかと。一日一組限定だと思うのですが、宿泊費がどのくらいかとか……プレミア感というか、そのへんがイマイチわからない。「シティホテルだったらリビングに長時間滞在しないけど、ベッドルームの居心地よりリビングが大事かな?」と思ってしまう。部屋でのんびり過ごすことを目的としているような立地と宿泊費、ということかな?でも京都ってわりと外を出歩きたいよな?みたいな(笑)

リビング空間はダイニングより一段床を下げて、さらに天井の仕上げを変えて勾配もつけている。住宅だったらちょっぴりクドい気がしますが、短時間の滞在と考えるとこれぐらいのメリハリが必要なのかもしれない。

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田根剛さん。上記の「建築的面白さ」と「居心地の良さ」のバランスがこの中では最もよいと感じました。

田根さんは、色彩や素材へのこだわりを次のように話す。「私は、空間ではなく場所をつくりたいと考えています。空間というものは、材料がなんであれ、寸法やスケールを根拠にどこでも生まれます。しかし、場所には質感が必要です。近代建築は世界中どこでも同じ空間をつくろうとしました。これからは、土地を強く意識しながら、そこにしかない場所を目指すべきだと考えています」と。
(出典:庭の木と、隣地の木の融合

土地を意識して建築をつくることの重要性が説かれるのは近年の傾向ですが、「空間ではなく場所をつくりたい」というのはいい表現だなぁと思いました。うまく説明できませんがとりあえずメモ。

施主さんの趣味と土地を読み解いて、自分なりの答えをシンプルな言葉で表現できるところ、そして建築のもつ力を無視しないところ。好感がもてました。

ただ、写真で内観を見ると楽しげなんですが、ボリュームがかなりでかいのが気になりました。等々力の住宅街に建っているとビックリしちゃうような高さではないでしょうか。

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高橋一平さん。これもとても現代的な考えだなぁと思うし、個人的には「隣の家を借景にしちゃう」という考えはすごく好きなんですが、長い目で見て住めるかと言われると……って感じがします。若い人が取り壊し寸前の家を格安で買って楽しむにはいいけれど、わりと年配の方のようなので、これでいいのかな?とちょっと思ってしまいました。

でも、年齢に関係なく様々な「面白いこと」、アート的なことに興味があって寛大な方はいらっしゃる。そういう方が住みたいと思って楽しく住むことは全然否定しません(当たり前ですが)。ただ、その合意が取れているものかどうか気になります。あと特定の個人にとってはOKでも普遍的な解答にはなりづらいんじゃないか、とも思います。

旗竿敷地の「竿」の部分の距離を利用して、隣の家まで見通せてしまう抜けをつくっているのはいいですね。

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その後につづく橋本純さんのコラム

「街を観察する」塔の家から始まり、しだいに家は閉鎖的に、その後は逆に開放的になり、都市の景観すらもインテリアとして取り込むようになっていった、という話がわかりやすく書かれていました。

またまた同じ話の繰り返しになっちゃうんですけど、「森山邸」も「2004」も「アパートメントI」も私は個人的に大好きな建物です。でもそれは建築好きとして好きなんであって、住宅として好きというわけじゃない……のかもしれない。挑戦し、価値観をひっくり返していく、そこに建築家の役割があることには同意するし、この方々のように住宅でなければやる意味のない挑戦もあると思うので、いまだ答えは出ないんですが。

今、32歳で既婚の自分にとって「欲しい(住みたい)建築」と「建築として面白いもの」はすごく乖離している。今わかっているのはそこまで。

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藤森照信さんの文章はやはり面白い。

浦一也さんの描いたホテル、これは段差が本当に危ない(笑)

なにげに最新のトイレ事情見れるの好きです。

関係ないけど、TOTO通信を読んでるとiPadが欲しくなります。iPadで読むのが最適だと思う。


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