見出し画像

正しいログラインの書き方【ドラマとは何か】

※はじめにこの記事は随分前に書いたまま塩漬けにしていたものです。
本日分の記事が間に合いそうにないので代わりとしてあげました。
出来る限り加筆訂正してありますが違和感のある箇所もあるかと思います。予めご了承ください。




脚本には「ログライン(=プレミス)」という用語がある。
この記事では「ログライン」の正しい書き方について解説することにする。

というのも確か『100文字ドラマ』(noteで開催されていたお題の一つ)の公式記事内でログラインについて触れていたと思うのだけれど、記事にある説明が不正確なのがずっと気になっていた。

『100文字ドラマ』の企画には脚本初心者の方も参加していると思うし、誤った知識を植え付けられている人たちに対して見てみぬふりをするのは心苦しいので、せっかくなのでログラインの書き方について述べていく。



ご存知の通り「ログライン」とはストーリーを最も端的に表したものだ。
書くことは次の3つ。

誰が どんな状況で 何をするか

これが書かれていないログラインはそもそもログラインではない。
元になっているストーリーに致命的な欠陥があるか、あるいはログラインの書き方を知らないか、そのどちらかだ。

一応具体例を挙げておこう。

桃太郎が 仲間を集めて 鬼を倒す
小学生が 給食の時間に おかわりをする

適当に思いついた例を挙げた。

小学生うんぬんの話は面白くも何ともないし、桃太郎の話は子供の時から耳にタコができるほど聞かされているから面白いかどうかもはや判断がつかない。(もしかしたら面白いのかもしれない)

そしてストーリーというのは面白くなければ意味がない。
だから、問題はここから先。
 
ログラインを公式(=理論)で書くと次のようになる。

『問題』を抱える主人公が 
おかしみのある『状況』で 
はっきりとした『目的』を遂げる

なぜ公式があるかといえば、面白いストーリーというものは突き詰めると全部この形になるからだ。
(公式内の『おかしみのある状況』とは、お笑いという意味ではなく、ドラマ的に尖っているという意味です。)

これは脚本を学ぶ上で僕が2000本以上の映画を分析した結果なので間違いない。

もちろん面白いストーリーの中には、主人公が問題を抱えてなかったり、尖った状況が発生していなかったり、目的がうっすらしてたり、そういう作品も少なからず存在する。
(一番多いのは主人公が問題を抱えていないケースだ。例えば以下に挙げる『ウォーターボーイズ』)

男子高校生が
シンクロをして 
文化祭を成功させる

尖った『状況』が一目でわかる、ストーリーの成功が半ば約束されたようなすばらしいログラインだ。
がこのログラインには一つだけ弱点がある。

映画を観ればわかる通り、この主人公(妻夫木くん)は『問題』を抱えていない。とってつけたような恋の悩みはあるにはあるが…

したがってこの映画にどこか物足りなさを感じてしまうとすれば、それは主人公が『問題』を抱えていないからだろう。



ではこれはどうだろう。

どもりが
スピーチの特訓をし
スピーチを成功させる

『英国王のスピーチ』。
いわずとしれた名作だ。
こちらは『どもり』という、主人公にしっかりと『問題』が存在するパターンだ。

ポイントは、主人公の抱える『問題』の本質が『父との確執』であること。(『問題』が普遍的であるほど人を惹きつける深みのあるドラマになる。)

しかし、そのままだと小説的な表現になってしまい絵にならないから、『父との確執』を『どもり』というわかりやすい表現に置き換えているわけだ。

もう少し詳しいログラインだとこうなる。

父の厳格な躾によって吃音症に悩む国王が
講師と二人三脚でスピーチの特訓をし
国威発揚のスピーチを成功させる(結果として父へのわだかまりを克服する)

落差のある見事なストーリーだ。

一方で、先に例に出した『ウォーターボーイズ』と比較すると『状況』部分が若干弱いことがログラインからわかるだろう。

書き手もそれは自覚しているから、生真面目な主人公の相棒にお茶目なレッスン講師をあてがうことで、尖った『状況』を必死に生み出そうという、そういった努力の跡がこの映画のストーリーから見て取れる。



このように名作といえども必ずしも公式通りにいくわけではない。
理論はあくまで理論だ。
それを断った上でさらに公式について話を続けようと思う。
 
ちなみにこの公式は僕が脚本を勉強する中で独自にアレンジしたものだから、おそらくどの本にも書いていないし、脚本教室でも教えていないはずだ。
これを読んでいるあなたはツイている。



では次に、数ある映画の中で僕の知る限り最も洗練されたログラインをお見せしよう。

 百姓が 侍を雇って 野武士を倒す

言わずもがな『7人の侍』だ。
完璧なログラインだ。
念のため公式に当てはめて説明すると、

『問題』 (村を襲われる)百姓が
『状況』 侍を雇って(百姓と侍がタッグを組む)
『目的』 野武士を倒す(自明の目的)

とこうなる。
(※『問題』に関しては、百姓が『底辺を生きる』存在であることに『問題』の本質がある)

驚くべきは文字数だ。100文字どころの話ではない。わずか14文字でストーリーの全容を表している。

このように短い文字数で表せるログラインを持ったストーリーほどいいストーリーであるといえる。
逆にいえば、端的にまとめられないようなストーリーは鑑賞するに値しないストーリーということになる。

公式を使った具体例を他にも出そう。 

娘に手を焼く石油掘りが
巨大隕石に穴を掘るべく娘の彼氏と宇宙にいって
地球(娘)を救う

少し古い作品だが『アルマゲドン』だ。
ログラインがややまどころっこしく感じるのは、

・外的なドラマ
石油堀りが
宇宙で隕石に穴を掘り
地球を救う
・内的なドラマ
頑固父親が
娘の彼氏と命がけの任務をこなすことで
娘と彼氏の関係を受け入れる

内的ドラマと外的ドラマとの両者の親和性が薄いからだろう。
(※ストーリーには内的ドラマと外的ドラマの二つが混在している)


次はこれ。

望まぬ婚約をしたセレブが 
沈没船で貧乏人と恋に落ち 
助かろうとする

『タイタニック』だ。
また、ストーリーの内的ドラマに焦点をあてた場合は、

生きることに悲観的なローズが
ひたむきに生を全うするジャックと出会い
強く生きようと決意する

こうなるだろう。 

『アルマゲドン』や『タイタニック』のような名作であっても、内的ドラマ(主に『問題』部分)と外的ドラマ(主に『状況』部分)を示そうとした場合、別個で書かないとやや複雑になってしまうところにログラインの難しさがある。

その点からいっても14文字でストーリーの一切を表すことのできる『7人の侍』はやはり偉大という他ない。


では次。

脚本家志望者が
脚本が読まれることのないシナリオコンクールに参加し
採用を目指す

映画ではないが、かつてnoteで開催されていた『テレ東シナリオコンテスト』だ。
少しふざけすぎだろうか。
が『状況』は尖っている。

参加者がまともにシナリオを書けば書くほど返って採用率が下がるという世にも奇妙なシナリオコンクールがかつて存在したことを、僕たちは戒めのためにも忘れてはならないだろう。



最後にもう一つ。
『テレ東ドラマシナリオ』コンクールに投稿した僕の作品になるが、『パスワードが間違っています』を原案にして書いたプロットのログラインがこれ。

結婚を控えた主人公が
黒歴史を消すべくmixiのパスワード探しに奔走し 
パスワードを見つける

内的なドラマ(『問題』箇所)に焦点をあてた場合は次のように書き換えることができ、途端に鮮やかになる。

過去を消したい主人公が
学生時代の親友と再会することで
過去がかけがえのないものだったと知る

要するにログラインとは『問題』『状況』『目的』の3点セットで成り立っているものだ。



長々と書いてしまった。
で、話は最初に戻って『100文字ドラマ』の記事のことだ。
繰り返すように、ログラインとは『問題』『状況』『目的』の3点セットだ。
したがって『100文字ドラマ』の記事に挙がっている『知らない人んち』の例に関してはログラインと呼べる代物ではないので注意されたい。
と書こうとして該当記事を読み返してみたところ…

【例①】知らない人ん家に泊めてもらうという企画をするYouTuberきいろ。彼女がたどり着いたのは3人の若者の住む家。しかし彼女は気づく。「この家、あの人たちの家じゃない……」元の家主はどこに?主人公に危険が迫る。
(103文字)

きちんとしたログラインだった。

YouTuberが
怪しげなシェアハウスへ泊まりにいき
本当の家主を探す

印象というのは恐ろしい。

玉ねぎのように芯のない『知らない人んち』のストーリーをログラインで表せるはずがないと思い込んでいたのだが、少なくとも0話に関してはきちんとしたストーリーになっている。
疑って申し訳ない。

とすると、あのテレビドラマはいたずらに謎を膨らませるのではなく、きいろが家主を探す、もしくは家からの脱出という方向へと舵を切っていれば、ストーリーとして観るに耐えるものになったのかもしれない。
コンテストに参加した身として力及ばずで申し訳ない。

【例②】主人公は、空港に着いたばかりの外国人に取材をする番組のプロデューサー。彼の恋人はその番組の女性ディレクター。彼女がインタビューした外国人は、そのプロデューサーの元恋人で、彼女の目的は、彼との復縁だった。
(101文字)

これは『目的』が読み取れないのでログラインの書き方として間違っている。
(主人公が 三角関係になって 『?』←ここがわからない。『復縁を迫られる』は『状況』であって『目的』ではない)

【例③】超ワガママな女優のマネージャーがダブルブッキングをしてしまった!そのことがバレないように悪戦苦闘して、両方の仕事を成立させようとするタレントルームが舞台のコメディ。
(82文字)

こちらはお手本のようなログラインになっている。

最後に僕が温めているシナリオ案を100文字ドラマ形式で紹介して、ログラインについてはこれで終わるとしよう。

【♯100文字ドラマ】『fight running!(Fラン!)』

大学女子駅伝の天才ランナー愛は、先輩に犯罪の濡れ衣を着せられ退学処分となる。転入するもそこはFラン大。駅伝部はダメ部員の巣窟だった。復讐を誓い、女の箱根『富士山女子駅伝』出場をかけた愛の戦いが始まる。(100文字)

どうだろう。
例①②③とはドラマの純度がまるで違うのを感じて頂けるだろうか。

③のダブルブッキングうんぬんの話とは温め方からして違うし、ストーリーの域を出ない①に至っては相手にならない。(②はログラインではないから論外。)

このようにログラインとは元になっているストーリーのクオリティを手軽に測ることができる便利なアイテムというわけだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?