地面師たちの感想
Netflixにて、
流行りの「地面師たち」を見ました。
実在の詐欺事件をモデルにした社会派ドラマであり、
「レディジョーカー」や「ダブルフェイス」など、
WOWOWドラマを彷彿とさせるような作風、
と個人的には感じました。
地面師という題材が興味深く、
見ごたえがなかったとはいえませんが、
脚本の出来はよくありません。
以下、
そのあたりをネタバレで書いていきます。
本作(全7話)の脚本の欠点は、
1話目に見せた話と同じ話を、
2話目以降、
つまり、
2話から最終話までの6話分かけて、
繰り返しているにすぎない、
という点に尽きます。
1話目では、
地面師なるものとは何かを観客に示すため、
チュートリアルの役割として、
一話完結的な構成で、
主人公側である地面師たちが、
ある社長に不動産詐欺を仕掛け、
大金を騙し取る展開が描かれます。
地面師とは何かをわかりやすく、
かつスリリングに描きつつ、
きたる大勝負への予感、
つまり、
本編の盛り上がりを期待させる、
充実の内容となっており、
1話目の出来は優れたものだったといえます。
1話がそうした流れである以上、
当然本編では、
地面師たちが対峙する相手は、
1話に出てくるような小物の社長ではなく、
地面師など一顧だにしないような、
大物の巨大企業で、
しかも小物のようなミスは犯さず、
土地売買に対して万事抜かりのない、
そんな手強さを持った相手のはずであり、
そうした状況の中で、
地面師側と大企業側の、
両者による張り合いのある、
ひりつくような駆け引きが繰り広げられるのだろうと、
観客はそう期待をするのですが、
しかし案に反して、
実際はどうなっているかといえば、
地面師の敵となる相手は巨大企業ではある一方、
そのリーダーの男というのが、
事業計画の中止によって損失を被っており、
その損失を取り返さなくてはいけないという、
切羽詰まった事情を抱えている人物であり、
地面師に引っかかる要因を、
予め兼ね備えた状態にあり、
事実、
容易に引っかかっています。
つまり、
規模や金額こそ破格に大きく、
見た目の大勝負感はあるものの、
その実、
敵となる相手は最初から手負いであるため、
見ていて張り合いがなく、
1話目で描かれた小物との戦いとの違いを、
そこに見い出すことができないのです。
加えて、
地面師たちの手口に関しても、
1話で見たチュートリアルと変わり映えがなく、
1話で見た以上の驚きは得られないため、
2話以降の価値が感じられない、
不毛なストーリー、
という印象は拭えませんでした。
終盤の展開がザルであり、
地面師と大企業との駆け引きを棚に上げ、
バイオレンスに終始した点も気になりました。
ストーリー序盤、
大企業との大一番が始まる前に、
人がゴロゴロ死ぬようなヤマ、
みたいなことを地面師リーダーがいっていますが、
蓋をあけてみれば、
詐欺被害に遭ったことで死んだのは大企業側のリーダーのみで、
そのほかのキャラたちの死因は、
地面師側のリーダーによる理不尽な粛清です。
このことからわかるように、
本作のストーリーというのは、
序盤で思わせぶりに、
ヤマの壮絶さをほのめかしておきながら、
ヤマの駆け引きを描く困難から逃げ、
さしてストーリー性を必要としない、
刺激頼みの、
バイオレンスへ向かっているのです。
もちろん、
ヤマの勝負自体は描かれてはいますが、
土地所有者が戻ってくる前に契約を済ませなけばならない、
というワンシチュエーションでごり押ししており、
頭脳戦が描かれていない点で、
はったりのシーンと呼ぶほかありません。
こうした、
きちんとしたストーリーが生み出せないゆえに、
後半以降ストーリーが失速し、
安易な刺激へと逃げるパターンは、
映画でもたまに見かけます。
連想するのは、
「スマホを落としただけなのに」と、
「ベイビードライバー」。
前者は、
日常に忍び寄る恐怖を描ききれず、
サイコホラーへと成り下がり、
後者も同様に、
クライムアクションを描ききれず、
サイコホラーに成り下がりました。
そして本作「地面師たち」も、
クライムサスペンスという、
前半で示したストーリーを貫徹させる力を持っていないために、
後半でぐだった作品であり、
映画なら大体2時間程度なので、
そうしたストーリーを見せられても、
まだマシなのですが、
連続ドラマである本作に関しては、
右肩下がりのものを、
長い間見せられたことで、
徒労感だけが残りました。
リンク記事では、
「地面師たち」の魅力として、
演技力のない役者が出ていない点、
スポンサーの顔色を伺う必要がない点、
の二つを挙げ、
地上波のテレビでは決して作れない、
Netflixの媒体が生んだドラマとし、
賞賛しています。
そういった評価はあるでしょうし、
自分としても、
制約にとらわれないものを見たいので、
その点は長所のように思います。
しかし一方で、
残念ながら、
今書いてきたように、
脚本のクオリティ面から見たとき、
地上波ドラマを超えるようなものが、
そこにあったとは思えません。
本作を見つつ、
今後ネトフリに必要なのは、
地上波を超えるものを書ける、
真に実力のある脚本家ではないだろうか、
そんなことを考えた次第です。
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