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おじさん|脚本

※R15かR18の脚本になります
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あらすじ

世の中におじさんの居場所はない。
令和の常識。

高校生のるり(17)は友達とおじさんの悪口に花を咲かせ、世の中のおじさんたちを変態扱いしている。

おじさん嫌いのるりだったが、ある日、母から「学生時代、切符を買うお金がなくて困っていたらおじさんが切符代をくれた」という感動エピソードを聞かされる。

おじさんも捨てたもんじゃない。そう思ったるりが友達にその話をしたところ、「おじさんに切符代を借りたら、貸してやったんだから一発やらせろと迫られた」と歪曲されて広まってしまう。

責任を感じたるりはエピソードを訂正して再び広めようとするも、悲しいかな、どう転んでもおじさんは変態にしかならない。

時は過ぎ、大学4年生になったるりは志望する会社の面接を受けるため駅へ向かう。しかし財布を忘れてしまい、切符が買えないピンチを迎える。

そんなとき、かつて母に聞かされたエピソードよろしく、見知らぬおじさんから切符代をもらい、るりは無事面接に間に合う。

るりのおじさんへの偏見はすっかりなくなったが、しかしそこはおじさん。面接官のおじさんから「内定やるから一発やらせろ」ときっちりとセクハラを受けるのだった。

登場人物

るり(17) 高校生

すず(17) るりの友達
れむ(17) るりの友達
ひより(16) るりの友達
あきら(20) イケメン
あん(18)(40) るりの母

市川(51) おじさん


脚本

※この物語には複数のおじさんが登場するが、市川(51)が全おじさんを演じるものとする。

○駅のホーム(朝)
  登校中のるり(17)、立っている。
  反対ホームに市川(51)の姿。
  市川、るりを凝視。
  市川、徹底的にるりを凝視。
  市川、Tシャツの上から自分の乳首をいじりはじめる。

○高校・教室(休み時間)
  るりとすず(17)、机に座っている。
すず「チクおじ、今日も出たの?」
るり「…うん」
すず「電車の時間、変えたほうがいいって」
るり「うーん。でもさ、変えても別おじ(別のおじさん)に痴漢されるだけだし」
すず「つーか、おじさんって何で生きてるんだろね。存在する意味なくね?」
るり「わかるー」
すず「知ってる? おじさんってスクショした仰向けイラマチオのAV画像、上下反転させてからフォルダに保存するらしいよ」
るり「わざわざ?」
すず「あとね、オナニーのやりすぎで右と左の握力差がすごいらしい」
るり「どのくらい?」
すず「右29、左17」
るり「てか弱すぎない?」
すず「キモい上に弱えとかほんとあり得ねえし。ガチで死んでくれねえかなアイツら」

○るりの家・リビング(夕)
  るりと母のあん(40)、夕飯を食べている。
  るり、ご飯を食べながら、
るり「ママはパパとなんで結婚したの?」
  あん、怪訝そうにるりを見て、
あん「どしたの、突然」
るり「おじさんじゃん」
あん「(笑って)パパだって昔は若かったんだから」
るり「…おじさんって仰向けイラマチオの画像逆さまに直して保存してるんだって」
あん「そんなことしないでしょ」
るり「するよ。友達がいってたもん」
あん「すずちゃん?」
るり「うん」
  あん、箸をとめ、
あん「(少し考えて)いいじゃない、おじさん」
るり「よくないし」
あん「ママは好きよ。おじさん」
るり「(眉をひそめ)え」
あん「もう20年以上前の話だけど、わたしが学生時代の頃にこんなことがあったの」

○駅・外観(回想・冬)
  雪が降っている。

○駅の構内
  制服姿のあん(18)、自動券売機の前で路線図を見上げている。
あんの声「当時わたしは受験生で、受験会場へ向かうため、乗り換えた駅で切符を買おうとしてた」
  あん、定期入れからオレンジカードを取り出す。
  あん、カードを券売機に入れる。
  が、すぐにカードが戻ってきてしまう。
あん「…?」
  あん、もう一度カードを券売機に入れる。
  やはり戻ってきてしまう。
あんの声「その頃はオレンジカードっていって、切符を買うためのプリペイドカードが流行ってたの。使えるのはJRだけで、私鉄は使えないんだけど、そのことをわたしは知らなかった」
  路線図に「小田急電鉄」の文字。
  あん、動揺し、
あん「…なんで?」
  あん、急いで財布を取り出す。
  あん、財布をのぞくが、現金がない。
あんの声「切符を買うお金もなくて、パニックになって泣きそうになっていると」
  市川、やってくる。
  市川、あんに気づき、
市川「(慌てて)ど、ど、ど、どしたの??」
あんの声「わたしが事情を説明すると」
  市川、財布から千円を取り出す。
  市川、それをあんに差し出す。
市川「これ」
  あん、どうしていいかわからず、受け取れずにいる。
市川「おっと。これだけじゃ帰りの電車賃が足りないか(と笑う)」
  市川、もう一枚千円札を取り出し、あんに差し出す。
  あん、受け取れずにいる。
  市川、あんの手を取り、半ば無理やり二千円を握らせる。
市川「じゃ。受験頑張って」
  と去ろうとする。
あん「(咄嗟に)あ、お、お金、あとで返します」
市川「そんなのいいって。それより早く切符買わないと電車きちゃうぞ」
  あん、頭をさげ、急いで切符を買う。
  あん、切符を買い終え、あたりを見回す。
  そこに市川の姿はない。
あんの声「ろくにお礼もいえなかったけど」

○(戻って)リビング
  るり、あんの話を聞いている。
あん「そのおじさんおかげで、ママは無事受験会場に間にあって、大学にも合格できたってわけ」
るり「(疑う)そのおじさん、お金渡せばママの手に触れるの思ったんじゃないの?」
あん「そんなわけないでしょ」
るり「それかさ、JKを痴漢した直後だったから、罪滅ぼしでそういうことしたとか」
あん「あんたね、ひねくれすぎよ」
るり「…」
あん「パパとはその大学で出会ったから、あんたが生まれたのはそのおじさんのおかげかもね」
るり「え、キモ」
あん「るり。そうやっておじさんだからキモいとか、人を見た目で判断しちゃだめ。そういう話」
るり「…」
あん「教訓おわり。食べよ」

○高校・教室(翌日・休み時間)
  るりとすず、机で話している。
すず「おじさんって酔っぱらうと初恋の人からもらった手紙でちんぽ包み込んでオナニーするらしいよ」
るり「え」
すず「濡れた手紙はドライヤーで乾かして、何回もやってるらしい」
るり「えー」
すず「もはやホラーだし」
るり「…」
  るり、どこか上の空。
  すず、気づいて、
すず「るり?」
るり「ん?」
すず「どした? さっきからぼーっとして」
るり「…ううん。でも、なんか、おじさんにも一人くらいはマシな人もいるかもしれないって」
すず「いやいや、一人だにいないって」
るり「…ママから聞いた話なんだけど」

○同・廊下(半年後)
  テロップで「半年後」。
  るり、れむ(17)と立ち話をしている。
れむ「るりさー、この話知ってる?」

○駅・外観(イメージ)
  雪が降っている。

○駅の構内
  制服姿のあん(18)、改札口へと歩いている。
れむの声「時代は平成。その子は受験生で、受験会場へ向かう途中だった」
  あん、オレンジカードを改札機に入れる。
  改札機のエラー音が鳴る。
  改札機のゲート、開かない。
あん「…?」
れむの声「当時はSuicaとかなくて、みんなオレンジカードを使ってた。でも、その子が乗ろうとしてた私鉄では使えなかった」
  あん、急いで自動券売機へと向かう。
  あん、財布を探しながらパニックになっている。
れむの声「切符を買うお金もなくて、困ってると声をかけられた」
声「どうした?」
  あん、声に気づき、顔をあげる。
  目の前に市川が立っている。
れむの声「事情を話したところ」
  市川、財布から千円札を取り出し、あんへ差し出す。
  あん、どうしていいかわからず、受け取れずにいる。
市川「いいから受け取りなさい」
  あん、申し訳なさそうに受け取る。
市川「生徒手帳」
あん「え」
市川「君の連絡先を控えておきたい」
あん「あ、はい」
  あん、急いで生徒手帳を取り出す。
  あん、市川に生徒手帳を渡す。

○あんの家・あんの部屋
れむの声「それから一週間後」
  あん、寝ころんで雑誌を読んでいる。
  と、部屋の外で家の電話が鳴る。
  
○同・リビング
  あん、受話器を取る。
あん「もしもし」
市川の声「南波杏か?」
あん「はい、そうですが…」
市川の声「先日駅で君にお金を渡したものだ」
あん「あ、あのときの…」
市川の声「それで、金を返してもらいたいのだが」
あん「はい。お返ししたいと思っていました」
市川の声「うむ。ただあれから日が経ったし、千円というわけにもいかない」
あん「(不安げに)…どれくらいですか?」
市川の声「一万」
あん「一万? そんな…」
市川の声「今どんなパンティをはいてるんだ?」
あん「え」
市川の声「何色のパンティだ? 白か? 黒か? いや、それともキティちゃんかな?」
  あん、恐怖で声がでない。
市川の声「今から会えないか? 1発やらしてくれたら金のことは忘れよう」

○(戻って)廊下
  るり、あ然とする。
れむ「この話の教訓は、どんなことがあってもおじさんには絶対に関わってはならない」
るり「…」

○るりの家・リビング(夜)
  るり、やってくる。
  市川(るりの父)、ビールを飲みながら野球中継を見ている。
  市川、るりに気づいて、
市川「おう。るり。今夜は焼き肉だぞ」
  エプソン姿のあん、枝豆を手にやってくる。
  あん、枝豆をテーブルにおき、
あん「大好きな娘のためにパパが奮発して高いお肉買ってきてくれたのよね」
市川「いやあ」
  市川、照れ笑いをして枝豆をつまむ。
  るり、そんな市川を見て、
るり「…」

○同・るりの部屋
  るり、ベッドで寝ている。

○夢
  すずとれむが学校の廊下で話している。
すず「知ってる? おじさんって映画分析何本したとかnoteで豪語してるけど、ほんとはAV分析も数に含まれているらしい」
れむ「知ってる? おじさんって脚本とか書くときAVから着想してるらしい。時間停止ものを元ネタにしておじさんが書いた話が『7時半の男』」
すず「城戸賞に出して一次落ち」
れむ「きも」
すず「おじさん、死ねよ」
れむ「死ね!」

○(戻って)るりの部屋
  るり、うなされている。
るり「…おじさん」

○高校・教室(翌日)
  るり、すず、れむ、話している。
すず「知ってる? おじさんって初恋の人との思い出を自由にカスタマイズできるバーチャルゲームを脳内に作りあげて、それで毎日オナニーしてるらしい」
れむ「その妄想を元にして書いた脚本が『like@angel』らしい」
すず「黒夢の曲名パクってる上に、シナリオセンター大阪校創立45周年記念賞で一次落ち」
れむ「きも」
すず「おじさん、死ねよ」
れむ「死ね!」
  るり、興奮する二人を制止し、
るり「あ、あのさ!」

○駅の構内(イメージ)
  制服姿のあん、自動券売機の前でパニックになっている。
るりの声「最近広まってるおじさんの話、実は少し間違ってて」
声「(優しく)どうかした?」
  あん、声に気づき、顔をあげる。
  イケメンのあきら(20)、立っている。
るりの声「その子が事情を話すと」
  あきら、財布から一万円札を取り出す。
  あきら、それをあんの手に握らせる。
あきら「貸してあげるから、それで切符買いなよ」
あん「え、でも…」
あきら「いいって。それよりさ、連絡先、教えてよ」
あん「え、あ、はい」
  あん、いわれるがまま生徒手帳を取り出す。

○ファミレス・店内
るりの声「それから一週間後」
  あんとあきら、テーブル席に座っている。
あきら「合格したんだ。よかったじゃん」
あん「はい(と微笑む)」
あきら「じゃあさ、俺って恩人?」
あん「はい」
あきら「てか王様?」
あん「(困って笑う)」
  あきら、急に野獣の眼光になり、
あきら「今からホテルで楽しいことしようよ」
あん「え?」
あきら「王様のいうことは絶対だよな?」
  あきら、立ち上がる。
  あきら、乱暴にあんの腕をつかむ。
あん「ちょっ。やめてください」
あきら「いいじゃん」
  あん、抵抗する。
声「やめろ」
  あきら、声のほうを振り向く。
  市川が立っている。
あきら「あ?」
市川「嫌がってるだろう。離したまえ」
あきら「(舌打ち)うるせえな」
  あきら、強引にあんの腕を引っ張り、
あきら「変なのがきたから、出ようか」
  あんを連れて出ようとする。
  市川、あきらとあんを引き離す。
  あきら、市川を睨みつけ、
あきら「じじぃ」
  市川とあきら、取っ組み合う。
  あん、呆然と突っ立っている。
市川「(あんへ)何してる! ここは私に任せて早く逃げなさい!」

○学校・廊下(半年後)
  テロップで「半年後」。
  るりとひより(16)、話している。
ひより「先輩ってこの話知ってます?」

○駅の構内(イメージ)
  あん、自動券売機の前でパニックになっている。
ひより「切符が買えずにその子がパニックになっていると」
声「どうした?」
  あん、声のほうを振り向く。
  市川が立っている。
ひより「その子が事情を話すと」
  市川、財布から千円を取り出す。
  あん、どうしていいかわからず、受け取れずにいる。
市川「いいから受け取りなさい」
  あん、申し訳なさそうに受け取る。
市川「生徒手帳」
あん「え」
市川「君の連絡先を控えておきたい」
あん「あ、はい」
  あん、急いでカバンから生徒手帳を取り出す。
  あん、市川に生徒手帳を渡す。

○ファミレス・店内
ひよりの声「それから一週間後」
  市川とあん、テーブル席に座っている。
  あん、じっとうつむいている。
市川「どんなパンティをはいてるんだ?」
あん「…」
市川「何色だ? 白? 黒? いや、それともキティちゃんかな?」
  あん、恐怖で固まっている。
  市川、野獣の眼光になり、
市川「ホテル。いこうか?」
あん「…」
市川「大学に受かったのは私のおかげなんだ。一回くらい相手をしてくれても罰は当たらないはずだ」
  市川、立ち上がる。
  市川、あんの腕を掴む。
あん「ちょっと…やめてください」
市川「一発だけでいい」
  市川、あんの腕を引っ張る。
  あん、必死に抵抗する。
声「やめろ」
  市川、声のほうを振り向く。
  別のおじさん市川、立っている。
市川「嫌がっているだろう。離したまえ」
市川「何なんだ。おたくには関係ないだろう」
  市川、構わずあんの腕を引っ張り、
市川「さ。店を出よう」
  とあんを外に連れ出そうとする。
  別おじ、市川とあんを引き離す。
市川「(キレて)こいつ…」
  別おじと市川、取っ組み合う。
  別おじ、市川をあっけなく倒す。
  別おじ、呆然と佇むあんを見て、
市川「助けてやったんだから一発やらせろ」

○(戻って)廊下
ひより「おじさんには絶対に関わってはいけません」
るり「(遠い目をして)…おじさん」

○るりの家・外観(数年後・朝)
  テロップ「数年後」。

○同・るりの部屋
  リクルートスーツ姿のるり、大慌てでカバンに書類を詰めている。
  あん、ドアの前にやってくる。
あん「…面接の時間、大丈夫なの?」
るり「なんで起こしてくれなかったの!」
あん「そんなことママにいわれても」
  るり、支度を終え、大急ぎで部屋から出る。
  室内には置きっぱなしになった財布とスマホ。

○駅の構内
  るり、息を切らせて改札口へやってくる。
  るり、ポケットを漁る。
  が、財布がない。
るり「え?」
  るり、カバンをがさごそ漁る。
るり「え、うそ?!」
  るり、すっかりパニックになっている。
  市川、やってくる。
  市川、るりに気づいて、
市川「(慌てて)どどどどどした?」
  るり、市川を見る。
  るり、わずかに警戒する。
市川「(察して)いや、ちょっと様子があれだったもんだから」
るり「(ぽつりと)…財布を忘れたみたいで」
市川「いくら?」
  市川、財布を取り出す。
  市川、財布をのぞき込み、小銭を手にし、
市川「おじさん貧乏だから恥ずかしいけど手持ちがなくて、500円玉二枚で足りる?」
るり「…」
  市川、さらに財布の中を漁り、
市川「100円玉も何枚か出てきた」
  市川の手のひらに数枚の小銭。
市川「ほら。急ぎの用みたいだし」
  るり、申し訳なさそうに、500円玉を一枚手にする。
市川「しまうの面倒だから全部もってっちゃってよ(と笑う)」
  市川、すべての小銭をるりに渡す。
るり「…あ、あとで必ずお返しします」
市川「そんなもんいいから。それより早く買わないと電車きちゃうよ」
  るり、深々と頭を下げる。
  るり、券売機に小銭を入れて切符を買う。
  るり、切符を買い終える。
  るり、あたりを見渡す。
  そこに市川の姿はない。

○会社・廊下
  廊下に並べられた椅子に就活生たちが座っている。
  るりの姿もある。
  面接室から就活生が出てくる。
  面接官1、出てくる。
  るりを見て、
面接官1「成宮ルリさん。お入りください」
るり「はい!」

○同・面接室
  面接官1、面接官2、市川(面接官3)、の三人の前に、るり、座っている。
  るり、はきはきした口調で、
るり「貴社の掲げるジェンダー問題や環境問題への取り組みに共鳴し、このような環境で働きたいと考え、志望いたしました。大学で学んだ知識を活かし…」

○会社のビル・外
  るり、晴れ晴れとした顔でビルから出てくる。
  るり、立ち止まる。
  るり、ポケットから小銭を取り出し、それを見つめる。
るり「(微笑む)…おじさん」
声「君!」
  るり、振り返る。
  面接官の市川が立っている。
るり「…?」
  市川、るりのもとへやってくる。
  市川、きょとんとするるりへ、
市川「内定やるから一発やらせろ」

(おわり)

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