ストーリーの相応しい長さ

ストーリーの長さは様々です。

映画であれば、
長くとも4時間弱、
短いものだと10分程度です。

海外ドラマだと、
1シーズンだけで大抵10時間近くあり、
シーズンを重ねた作品になると、
その長さは映画の比ではありません。

ストーリーにはその内容に相応しい長さがあり、
当然、短編に適したストーリー、
長編に適したストーリー、
あるいは、逆に不向きなストーリー、
それぞれあると思うので、

そのあたりを
思いつくままに書いていきます。






短編向きのストーリー

「リミット」や「フォーンブース」あるいは「キサラギ」など、
一つの舞台のみを使って描かれた、
いわゆるワンシュチュエーションものは、
短編向きのストーリーです。

正確には、
短編向きというより、
この手のストーリーは(おそらく)長編では書けないはずです。

長編の物語では、
尺の都合上、物語の広がりが求められます。

例えば、
「名探偵コナン」では、
ストーリーが進むにつれ、
仲間が増え、
FBIなどの組織が登場し、
スケールがどんどん大きくなっており、

裏を返せば、
ストーリーを膨らませる余地を予め残した状態でストーリーが始まっている、
ということになります。

一方、ワンシュチュエーションものは、
長編ストーリーとは性質が異なります。

「リミット」であれば、
主人公が棺桶に閉じこめれた状態でストーリーが始まり、
死のタイムリミットが課せられているので、
ストーリーの広げるための余地が、
時間、空間ともにありません。

つまり、ワンシュチュエーションものは、
(連続ドラマと比べて短編の)映画でしか描けない内容だといえます。



密室劇の名作「12人の怒れる男」についても同様です。

陪審員の評決に焦点においたこのストーリーに、
スケールの広がりは求められません。

ただし、やり方によってはストーリーを長くすることも可能でしょう。

ぱっと思いつくのは、
12人の陪審員の一人ひとりにスポットを当てる方法です。

海外ドラマ「LOST」の構成にならって、
メインストーリーの合間に
各キャラクターの回想シーンを挟み、
ストーリーを引き伸ばすのです。

そうすると、
一話につき一人の陪審員にスポットを当てながら、
メインストーリーである、
陪審員が評決で有罪無罪を決める、
を少しずつ展開させていく、
という連続ドラマお決まりの形になり、

もしかしたら
それなりに面白いかもしれません。

全12話になるので、
視聴率も稼げるかもしれませんが、
詳しくは後述するように、
佇まいとして美しくない、
というのが正直なところです。



今書いたワンシュチュエーションものも含まれますが、
構成重視のストーリーもまた、
短編向きといえると思います。

例えば、内田けんじの「運命じゃない人」。

何気ない出来事を前半で描き、
その裏にある真相を後半で種明かしする、
凝った構成になっていますが、

短編だから成立するストーリーであり、
仮に連続ドラマにするとして、
そのストーリーの形を想像できません。

同じことは、
「カメラを止めるな」にもいえるし、
「素晴らしき哉、人生」にもいえます。

前半パートを前振りに費やしたこれらの作品を、
数十時間かけて見せられたのでは、
たまったものではありません。

構成に傾いた作品は、
短編で力を発揮するような気がします。

言い換えれば、
アイデアや構造で勝負できるストーリーが、
短編に向いているのかもしれません。




長編向きのストーリー

構成重視が短編向きなのに対して、
長編ではキャラクター重視のストーリーが向いています。

常々思うのは、
その道をかじった者でもない限り、
構成面に興味を持つ人はおらず、
ストーリーが面白いかどうかの判断は、
キャラクターで決まる、
ということです。

したがって、
キャラクターさえ確立できれば、
すなわち魅力的なストーリーとなり、
構成のクオリティに関わらず、
長期に渡るストーリーを継続させることが可能となります。

長期連載漫画の「キャプテン翼」では、
キャラクターの魅力に加え、
新キャラ登場のループによって、
ストーリーがもっていたといっても誇張ではありません。

短編だと構成面との兼ね合いで、
新キャラを出すことは悪手となる場合がほとんどなのですが、
長編では基本出し放題なので、

この点が短編とは決定的に違います。



それから、
長編では謎を持ったストーリーがものをいうと僕は考えています。

例えば、連続ドラマでは、
三幕構成でいう二幕(展開部)が長いです。

映画なら、
幕の比率は1、2、1がいいとされていますが、
連続ドラマの場合、その比ではありません。

何十時間とあるストーリーを、
最初から最後まで途切れることなく展開させ続ける天才が書いたというなら別ですが、

横道に逸れるのはまず間違いないので、
脇役にスポットを当てたり、
何気ない日常シーンを描いたり、
長編では必然的に贅肉が多くなります。

したがって、
その贅肉を描く際、
ストーリーを弛ませないための役目を果たしているのが、
「ONE PIECE」でいう秘宝や、
「名探偵コナン」の黒の組織の正体、
といった謎なのではないでしょうか。

そういった魅力的な謎があることで、
道草にも耐えることができるのです。

ただ、この構成を突き詰めると、
結局は「LOST」のようになるのでは、
と思います。

前述したように、
「LOST」ではメインストーリーの合間に
回想シーンが挟まっており、
メインストーリーには、島の秘密、という強力な謎がある一方で、
回想シーンは観ていて退屈でしかありません。

しかし、その退屈が焦らしになっており、
退屈があるからこそ、かえってメインストーリーの続きが気になってしまう、

という人間心理をうまく利用しています。

「LOST」のこの回想シーンは、
先ほど書いた、連続ドラマによくある、
脇役にスポットを当てたり、
何気ない日常を描くシーンと、
本質は同じだと思います。

つまり、
強力な謎を持ったストーリーを
(本来不要であるはずの)贅肉をたっぷり使って描く、

それが長編の本質なのでは、
というのが僕の推測なのですが、
当たらずも遠からずではないでしょうか。



とはいえ、もちろん、
映画にも謎で引っ張るストーリーは存在します。

例えば「悪魔のような女」には、

プールの中に隠した死体が消失するという、
強烈な謎があります。

しかし、結局は狂言オチであり、
ストーリー全体を俯瞰したとき、
その謎はストーリーを盛り上げるためのハッタリに過ぎません。

つまり、構成面からいえば、
ストーリー構造が貧しく、
テーマがないのです。

優れた構成とは、
書き手のいわんとするテーマを、
効果的に表現することにほかなりません。

それが出来ていないストーリーは、
構成面の観点において、
残念ながら物足りないといわざるを得ません。


(いつの間にか批判的な文章になってしまいましたが、)

強烈な謎がストーリー全体の構成を度外視したものであるのなら、

「LOST」の島の秘密がハッタリで幕を閉じたように、
コナンにしても
ワンピースにしても、
行き着くところは同じだと思います。

テーマとは、
これまで描いてきたことにどういう意味があって、
書き手が何をいおうとしていたのか、
その総決算をすることであり、 

ストーリーの構成的にいえば、
秘宝の正体、あるいは、黒の組織の正体、
が明らかになることで、
テーマが示さなければならないのですが、

たぶん期待するようなテーマは、
ないと思います。

繰り返すように、
謎がストーリーを盛り上げるためのハッタリである限り、
テーマから逆算したストーリーを作っているはずがないからです。

そう考えると、
続き物の長いストーリーは、
ある意味、
ストーリーに対して無責任になる必要があるのではないか、

その場その場で、
全力の面白さを示すことで、
映画にはない、
吹っ切れた感じは出せますが、

それは面白さの前借りのようなもので、

そのしわ寄せが、 
結末であるテーマの部分に訪れるのでは、 
と僕は考えます。

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