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モノガタリズム|脚本

※縦書き版とこちらとなります



梗概

偶然知り合ったヨシキとユージは意気投合し、居酒屋で話に花を咲かせる。

そんな中、店員の不手際で服を汚されたチンピラが店内でトラブルを巻き起こす。

ヨシキとユージが逃げるように店を出る一方で、客の一人であるムサシコジロウが事態の収拾に乗り出す。

ムサシコジロウはチンピラにクリーニング代を渡してやるが、チンピラを逆撫でする結果となり、喧嘩に発展する。

ムサシコジロウは死闘の末にチンピラに勝利し、店員に感謝されながら颯爽とその場を去っていく。

登場人物

ヨシキ
ユージ

チンピラ
子分
店員
店長

ムサシコジロウ

脚本

○道(夕)
  サラリーマン風のヨシキとユージの二人、向かい合っている。 
ヨシキ「あなたの名前はなんですか」
ユージ「わたしの名前はユージです」
ヨシキ「わたしの息子もユージです」
ユージ「それは不思議な縁ですね」
ヨシキ「わたしはあなたを気に入った」
ユージ「わたしもあなたを気に入った」
ヨシキ「これから一杯いかがです」
ユージ「わたしでよければおともします」

○居酒屋
  ヨシキとユージ、テーブル席につく。
  店員、やってくる。
店員「いらっしゃいませ、何します?」
ヨシキ「わたしはビールをいただこう」
ユージ「わたしもビールをいただこう」
店員「しばらくお待ちくださませ」
  店員、去る。
  ヨシキ、おしぼりを手をふきながら、
ヨシキ「あなたの趣味は何ですか?」
ユージ「趣味は読書や映画です」
ヨシキ「好きな本は何ですか?」
ユージ「ライ麦畑で捕まえて」
ヨシキ「好きな映画は何ですか?」
ユージ「スマホを落としただけなのに」
ヨシキ「わたしは映画をみないので、テレビドラマになりますが、不適切にもほどがある、あれはとても面白い」
  店員、ビールを持ってやってくる。
  店員、ビールをおき、
店員「おまちどうさま、ビールです」
  店員、去る。
ユージ「あなたの趣味は何ですか?」
ヨシキ「趣味は音楽鑑賞です」
ユージ「好きな曲は何ですか?」
ヨシキ「渚にまつわるエトセトラ」
ユージ「他にも趣味はありますか?」
ヨシキ「お笑い番組、よく見ます」
ユージ「好き番組、何ですか?」
ヨシキ「ガキの使いやあらへんで」
ユージ「あれは確かに面白い」
ヨシキ「サンバのリズムを知ってるかい?」
ユージ「ほほほっいほほほっいほほほいほい…ほほほっいほほほっいほほほいほい」
ヨシキ「ほほほっいほほほっいほほ」
声「(怒声)このやろう!」
  ヨシキとユージ、とっさに振り向く。
  近くのテーブル席にチンピラと子分の姿。
  店員がジョッキを倒してしまったらしく、チンピラのモコモコの上着がビールで濡れている。
  チンピラ、萎縮する店員へ、
チンピラ「お前のせいで、よごれたろ! 買ったばかりの、服だったのに!」
店員「(頭をさげ)どうかお許し…くださいませ」
チンピラ「ふざけんな! お前じゃ話にならんから、店長を呼べ! 早くしねえか!」
  ヨシキとユージ、その光景を見て、
ヨシキ「なんだか不穏な空気です」
ユージ「楽しく酒が飲めません」
ヨシキ「いったんここを出ましょうか」
ユージ「わたしもそれに賛成です」
  ヨシキとユージ、立ち上がる。
  二人、レジへいく。
  二人、レジで会計をしている。
ナレーション「こうして二人は立ち去った。臆病風に吹かれつつ、背中を丸めて立ち去った。二人はしょせん狂言回し、サンバのリズムじゃ踊れない。サンバのリズムで踊るるは、主役の男ただひとり。カウンターで酒を飲む、この男こそ主人公」
  カウンター席で酒を飲むムサシコジロウが映し出される。
  ムサシコジロウ、おもむろに立ち上がる。
  チンピラの席で、店長、チンピラに頭を下げている。
チンピラ「詫びよりも、クリーニングの金を出せ! 今すぐ10万、支払わんかい!」
声「…短歌を切るな、見苦しい」
  チンピラ、振り向く。 
  ムサシコジロウ、立っている。
チンピラ「何だてめえは、何者だ?」
ムサシコジロウ「…なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため、愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな敵役、ムサシコジロウ! ここに参上」
チンピラ「何いってんのか、わかんねえ」
  ムサシコジロウ、財布をとりだす。
  ムサシコジロウ、財布から一万円を抜くと、チンピラの前におく。
チンピラ「…?」
ムサシコジロウ「クリーニングの代金だ。静かに酒が飲めるなら、わたしが代わりに出してやる」
  ムサシコジロウ、立ち去る。
チンピラ「待ちやがれ!」
  ムサシコジロウ、立ちどまる。
チンピラ「気にいらねえなその態度! おれを誰だと思ってるんだ!」
  ムサシコジロウ、振り向き、
ムサシコジロウ「…短歌を切るなといっている」
チンピラ「殺したろうか! このやろう!」
子分「お前のせいで兄貴激おこ! 兄着の服は新品もこもこ!」
ムサシコジロウ「韻キャ野郎は黙ってろ!」
  子分、黙る。
  ムサシコジロウとチンピラ、にらみ合う。

○同・外
  ムサシコジロウとチンピラ、対峙している。
  店員や子分たちが周りを囲んでいる。
  ヨシキとユージもいる。
ムサシコジロウ「教えてやろう一つだけ」
チンピラ「…?」
ムサシコジロウ「お前の短歌にゃ季語がない」
  ムサシコジロウ、懐から歳時記を出す。
  ムサシコジロウ、歳時記をチンピラへ放り投げる。
ムサシコジロウ「そいつを読んで短歌を学べ」
チンピラ「(カチンとくる)うおーーー!」
  チンピラ、突撃する。
  ストップモーション。
ナレーション「こうして喧嘩は始まった。生死をかけた大一番。ドラゴンボールでたとえると、ナメック星での悟空とフリーザ。男二人の死闘の迫力、映像だけでは伝わらない。映像よりもオノマトペ。オノマトペでしか伝わらない。みんな今すぐ目を閉じろ。音で感じろこの喧嘩。男の戦いここにあり」
  画面、暗転する。
  暗転画面に以下のSEが響く。
SE「(激しく刃物がぶつかりあう音)キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンっ!」
SE「(刃物が突き刺さる音)グサッ、グサッ、グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサ…グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリーン!」
SE「(救急車のサイレンが近づく音)ピーポーパーポーピーポーパーポーピーポーパーポーピーポーパーポー…」
SE「(救急車の急ブレーキ音)キーーーーーっ!」
  暗転、おわり。
  救急車にはねられ、吹き飛ぶチンピラ。
ムサシコジロウ「グモッチュイーーーーン」
  子分、瀕死のチンピラを見て、
子分「新品もこもこ! 兄貴ぼこぼこ!」
  と大慌てで逃げ出す。
  ムサシコジロウ、呆然と佇む店員へ、
ムサシコジロウ「騒いでしまい悪かった」
  と告げ、歩き出す。
店員「ま、待ってくださいお客様!」
  ムサシコジロウ、立ちどまる。
店員「何かお礼をいたします」
ムサシコジロウ「いやいや礼には及ばない」
店員「ですがそれでは」
ムサシコジロウ「(遮って)礼はいい」
店員「わたしのきもちが」
ムサシコジロウ「(遮って)礼はいい」
  なお何かいおうとする店員。
  店長、そんな店員の肩に優しく手をおき、首を振る。
  ムサシコジロウ、再び歩き出す。
  店員、店長、ヨシキ、ユージ、その後ろ姿へ深々と頭をさげる。
  ムサシコジロウ、颯爽と去っていく。

(おわり)

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