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ニッポンのものづくりを語る、蝶矢シャツのおっちゃんについて

蝶矢シャツという、老舗のシャツブランドがあります。

その昔、日本の紳士たちが初めて見よう見まねで「シャツ」というものを着るようになった明治の頃から在るそうです。

今はオリジナルラインの他に〈YINDIGO A M〉というブランドとコラボラインを展開している関係で、知るようになりました。私は今、YINDIGO A M の一員です。

ご存知の方も多いと思いますが、蝶矢シャツは、過去に一度倒産しています。

伝えていかなければならないこと

倒産した蝶矢シャツは、業界大手の山喜(やまき)から、のちに幸せな買収として語られる吸収合併を受けて再建されました。当時の社内の空気は、出身の分け隔てなく良い空気で整ったそうです。

しかしながら、蝶矢のシャツはとにかく手がかかり、時間もかかります。技術の継承も人数が限られてしまい、後継の問題もあります。今年、うれしいことに就職希望の若者がいたそうですが、機悪くコロナの打撃が酷すぎて、苦悩の末採用を見送ったと聞きました。

シャツ業界の量産大手として君臨する山喜にとって〈蝶矢シャツ〉は取り扱い数も利益幅も、決算書を展開した机上では存在が小さいです。縫える人が二人しかおらず、生産量には限度もあります。

しかしだからと言ってうっかりフェードアウトさせるわけにはいきません。多少のフェードはしてもアウトはなりません。展示会・受注会で蝶矢シャツに初めて袖を通し、そのクオリティに驚きつつも嬉しそうなお客様がいる限り、蝶矢シャツには価値があると感じます。〈蝶矢〉が知られていないだけのことだと思うのです。

シャツの勉強より、ブランドの勉強をしていたのかもしれない

トーマスメイソン、インディヴィジュアライズドシャツ、バグッタ、g.イングレーゼ、バルバ…国内外のセレクトショップで「歴史あるシャツブランド」「いいシャツ」として広く知られるところは沢山あります。

私はアパレルのメンズで販売員として働いていた時、お客様の質問に答えられるよう、それぞれのシャツブランドの生い立ちや特徴、デザインやサイズ感の傾向を把握して、売場に立っていました。

でも、見聞きした話を座標軸に当てはめて、俯瞰で知っていただけであって、「すごいな、このシャツ!めっちゃいい!」などと、語彙力を失いながら素で微笑んでしまったシャツがあったかというと、特に記憶にないということはそういうことなのかもしれません。

シャツについて、とことん身体を入れてみて感覚で解釈するというより、外側から勉強して「仕様がどうだと良い」のかを叩き込んでいたように思います。

頭でっかちになる前に

私がYINDIGO A Mのブログの文中で蝶矢シャツを「なんだか分からないけど美しい」と書いたのを見て、蝶矢のおっちゃんは笑っていたけれど、服なんてほんとはそれが正解なんじゃないかと思っています。

シャツに限らず、自分で感じるより先に誰かから「ジャッジの仕方」を教わって、無感情で服を外から選り分けるなんて、どこまで行っても誰かの目線だし、発見とか感動とか感情の起伏があってこそ、着る意味のある服になるんじゃないかと思います。

おっちゃんを笑わせたい

蝶矢シャツは正直言ってコロナの打撃が酷すぎて辛いらしいです。在宅でビジネスシャツがこれまでの調子では要らなくなったから、なかなか売れ行きが回復しません。

でも、おかげさまでコラボのデザインシャツは右肩上がりです。これは各地お取引先様のご尽力や、所有者の方々のクチコミや宣伝の効果に尽きるのですが、事実、右肩上がりです。

シャツの生き字引みたいな、価値ある仕事をしてきたおっちゃんに、おたくのシャツ愛されてるよ!って見せてやりたい。買う人が変わるだけで大丈夫だよって、安心させたい。

そんな気持ちです。👔


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