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戻りたくても戻れない場所はいくつかあって、

戻りたくても戻れない


そんな儚く脆い瞬間が、
今でも頭の片隅に存在している。

たとえば、
秋の夕暮れの中ゆっくり進む
石焼き芋の軽トラと、燃えるような夕焼け。

まだ小学生だった頃。
秋の終わりと冬の始まりのちょうどあいだのある日の夕方。

いつものように
町内放送の5時半のチャイムが鳴り、
「帰るか〜」と
何時間してたか分からないおにごっこを終え
公園を出たとき。

「お〜い、今日は寒いじゃろう。焼き芋食べえ」

石焼き芋のおじちゃんが
軽トラをとめて
私たちに声をかけた。

そのままトラックから降りてきて
荷台の方へまわる。

熱々の、ちょっと焦げた焼き芋を、
真ん中で2つに割って、差し出してくる。

黄色というよりオレンジに近い、見ただけでわかるとろけそうな割れ目と真っ白な湯気。

大声でお礼を言って、鼻の頭を赤くしてみんなで食べた。
あの、少し風が冷たい秋の夕方。

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