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おばさんになった日

私はおばさんにはならないと思っていた。

理由は、赤ちゃんみたいに魂がピカピカだから。

それにおばさんというものが何なのか、どこからなのか。自分で決めた途端そうなるの?
もちろん歳は取る。けれどおばさんにはならないんですよ。私はね。そうなのそうなの。

わかるよ、お腹にお肉はつきはじめてるし、疲れやすいし、似顔絵はほうれい線を描かないと似ない。おしゃれなセレクトショップの最先端の服よりも、顔色が良く見える、疲れない、動きやすいみたいな服の方が気になるし、実際に甥っ子姪っ子がいて"叔母"さんではあるけどさ。
でも概念の"おばさん"ではないの。

たぶんこの議題でラップバトルしたら開始4秒で負ける。わかってる。世間的にはもうおばさんなのだということは。

でも違う、今はまだ違うんだ。

はい。ここまでがおばさん以前でしたー

しかし、はっきりとした境目を感じた瞬間があった。私がおばさんになった日。

この日から、おばさん以後だ。

その日は、駅の電車のホーム先頭で特快電車を待っていた。

背中のあたりから騒がしさを感じた。
見ると中学生の集団がワイワイ青春真っ最中。甘酸っぱい距離感を保ちながら女子2人と男子3人の集団が固まってしかも男子は肩を組んでいる。女子にちょっかいを出しているようだ。男子はくっついてるから誰かひとりがつまずいたら全員が影響されて位置が崩れる状態。しょっちゅうホームの線路側にぐらつく。それは不安定なかたまりになっていた。

もうすぐ電車が通過する。

ドンッ
後ろからバランスを崩した彼らが当たってくる

ぐらついた本人たちは気づかず話を続ける。また、ドンッ。

危ない。一歩間違えたら線路に落ちてしまう。電車がきたらどうなるの…背筋がぞっとした。
わたしはここを立ち去って彼らを野放しにするか、注意するか迷っ

「あのさ、もうちょっと中でやろうか。ね?(線路側を通せんぼみたいにして彼らをホームの内側に誘導するポーズをとりながら)。危ないでしょ?さっきからさ、ずっとぶつかってるの。ここ。線路に落ちるよ?電車来たらどうなる?わかる?気づいてなかったでしょ。ね、危ないし。話すのは別にいいのよ、ただね、もっとちゃんと周り見て。ね?ほらごらん。ね?」

気づいたら、親しみを込めた(つもりの)トーンで彼らに注意している私がいた。

一瞬で静まり返る集団。ぐらついた足は止まりガッチリ組まれていた肩はゆっくり解かれていく。彼らの目線は全員わたしにロックオン。注意に対する返事は何ひとつ発されないまま表情だけが強く語っていた。

「誰このおばさん…」

oh…

"おばさんを見る中学生"っていう絵を描きたくなるくらい目を見開いてドン引きする中学生たちが目の前にならんでいた。
今までの人生でこんなに一気にこのような目線を浴びることはなかった。

そうなのね。

はい、わかりました。

わたしはこの日やっと"おばさん"としての自覚が生まれたのだった。
静かにまわれ右をして再び線路側を向いて電車を待った。

背中のむこうでは静まり返った彼らが再び盛り上がることはなかった。

怒ってないんだけどな。愛なんですけど。

ま、知らないおばさんが急にぺちゃくちゃ喋り始めたらこわいよね。でも命には変えられないからね。

-完-

〜〜〜〜〜〜〜

フニラ
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