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ゲラゲラ



園バスのお迎えを待つ間に玄関の前庭でチビコは毎日花をつむ。ポピー、シロツメクサ、ルッコラ、ペンペン草、ミント、タイムで作るちっちゃいブーケ。『ママ持ってて、先生にあげるやつとったんだけどね、でもチビちゃん匂いがあんまり好きじゃないからさ。』そうなのか。
 ウロチョロ。坂の下の表庭まで行っちゃいそうだ。そのときにバスが来ると焦るから、外用の椅子を前庭に持ってきてバスが停まる車道近くに座らせてみる。動きを封じられたチビコがパンダうさぎコアラを歌い始める。程なく乗ってきて盛大なシャウトに変わる。『あんまりいそいでごっつんこ〜!!!うんことちっこが〜』なんだその歌詞!あと音量さげて、それじゃあぞうのうんこよ!大喜び。きゃあきゃあ笑っている。
ツツジがそこらじゅうでショッキングピンクの大パーティー。向こうの山には見てはいけないような薄紫にモヤった藤。
ねえ、ママ楽しいね。休んでいい?
プッ。楽しいよね。いいよ。行きたくない?つかれた?
うん、今日はいちばんつかれてるんだよと、ニヤニヤの恥ずかしそうな笑顔で言う。
オッケー。でも早めに言っておくれ、今度はね。「はやめ?」うん、夜のうちに。「よる、かあ。」

 昨夜はドラえもんのキー坊の映画を見て、チビコは感銘を受け、ドレスに着替えてきて椅子に乗って大声で適当な演説をしていた。『皆のものお〜!!この星は〜デザート、食べたいですかー!!!』
あのドレスのチビが、あのタイミングで明日休みたいなんてことは言わないよ。馬鹿なこと言った。ごめんね。と思う。
 バスが来た。すみません〜今日はやっぱり休みますー。と言う顔を作る。あれ、今日のバスのとまり方いいな。あ!運転は大好きな園長おじいちゃん先生だ。大きなドアが開く、おはようチビコちゃんと言いながら、すごーく嬉しそうに笑って若い先生が降りてくる。こないだ家庭訪問で庭に来た先生だ。雑草だらけで、、と私がいったら『それがいい!』とそこだけいきなりタメ語になった、虫とパクチーが大好きなかわいい先生だ。チビがムンムンと気合いいっぱいバスに乗りこんで行く。えっ?! 大丈夫?ということばを飲み込む。あ、花束、とも思う。それも今はさっと行く感じだから飲み込む。

 ニヤニヤニコニコでバスの最後部座席につくチビコ。ずっと手を振ってくれる。バスが動いて、見えなくなるまで。米粒みたいな大きさで手を振り合って分かれる。
イスの上に、渡し忘れた小さな花束。つまむ指は大人も子供も、なんだよっ、まるでまったく同じ。玄関の信楽焼の狸、通称タヌタヌに花束を託す。ねえタヌタヌ、タヌタヌはすごいね、通帳と酒を持ってて。帽子かぶって裸一貫、ご機嫌で立派だよ。

追記。チビはその後、お風呂上がりに『明日休むよ』と気軽に言うようになった。大体週に一度位休んでる。そこそこ楽しいみたいだし、かといって週5はないよという感じ。先日ジイジとばあばに『チビちゃんは幼稚園はいつでも気分で休める事になってるからさ、別にいつでもいいよ、合わせるよ』と堂々と言ってきたらしい。そうなんだけどあまり大っぴらにするなよ、っとかなきゃかな。まあいいか!