「投資したくなるベンチャーは、必ずこの3つを抑えています」75歳元IBM役員が、投資家になってわかったこと<投資家・北城恪太郎>
日本、0.2兆円。
いっぽう、中国は3兆円、アメリカは9兆円。
これは、年間のベンチャー企業への投資額のことだ(※1)。
いまだベンチャー企業への投資額が少ない現状に対し、日本のベンチャー企業を盛り上げるべく、奔走している75歳の男がいる。
元日本IBMの社長であり、2019年5月まで国際基督教大学の理事長を務めていた、北城恪太郎(きたしろ・かくたろう)氏だ。
北城恪太郎(きたしろ・かくたろう)
1944年茨城県生まれ。1967年慶應義塾大学工学部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。1972年カルフォルニア大学バークレー校大学院修士課程修了。1986年取締役、1993年代表取締役社長、1999年IBMアジア・パシフィック・プレジデント兼日本アイ・ビー・エム代表取締役会長、2012年より相談役、2017年より名誉相談役。2003年から経済同友会代表幹事、2007年より終身幹事。2010年から2019年まで国際基督教大学理事長を務める。
現在、3社のベンチャー企業に投資し、社外取締役も務める北城氏。
大手企業の経営者、ベンチャー企業の成長支援を行ってきた彼に、日本のベンチャー企業が成長するための秘策、成長するベンチャー企業の特徴、理想的なベンチャー支援のあり方について聞いた。
◆1944年生まれ。新卒IBM、アジア進出…異色の経歴
ーー北城さんは、慶應義塾大学卒業後、IBMに入られてカルフォルニア大学バークレー校大学院でも学ばれていますね。今の時代では違和感がないキャリアですが、IT業界に身を置かれたのが1970年前後のことですから、異色の経歴です。
北城:大学を卒業後、これからコンピュータの時代になるということで、エンジニアとしてIBMに入社しました。その後、36歳のときにはじめて管理職になり、営業部を担当しました。そこでクライアントである大手都市銀行のシステム提案のリーダーになり、その後、日本IBMの社長、そしてアジア担当の責任者になります。16カ国、約10万人の社員と仕事をする責任ある立場でした。
ーー台頭するアジア市場を20年以上前から見てこられたんですね。
北城:そうですね。その後、経済同友会の責任者を退任する時に、これからの人生で何をしたいか考えた結果、2つのことに取り組むことにしました。1つは、若い人を応援したいということで教育分野に力を入れること。5月まで国際基督教大学の理事長を務めたり、大学のガバナンス改革に力を注いできました。もう一つは、若い会社を支援すること。そこで、ベンチャー企業を応援することにしました。
ーーなぜ大学の改革を?
北城:大学改革が、日本社会の発展に必要なイノベーションを起こし、ベンチャー企業を応援することにもつながるからです。アメリカでは起業で成功したOBが、母校へ寄付するのが当たり前になっています。寄付で作られた基金がベンチャー企業に投資してくれれば、日本のベンチャー界は活発化します。大学で、優秀な研究者や学生が起業に挑戦して欲しいのです。
ーーなるほど。大学は起業家が育つ場所ですね。
北城:スタンフォード大学はヤフーを作ったOBによって校舎が寄付されています。日本でも、そうしたことが当たり前になる社会になってほしいですね。
ーーでは、現在されているベンチャー企業の応援とは、具体的にどのようなことを?
北城:社外取締役として携わるケースもあれば、投資家として携わったケースもあります。具体的には、産業技術総合研究所発の人工ダイヤをつくるベンチャー企業では、社外取締役として応援する立場。ほかには、英会話スクール事業を行うベンチャーでも社外取締役を務めています。もう1つ応援しているのは、インターネットやAIに関係したベンチャー企業。今のところ、私が社外取締役を務めて応援している会社はこの三社です。
◆こんな会社に投資したい。3つの特徴とは…
ーー北城さんがベンチャー企業に投資を決めるポイントは?
北城:大きく3つあります。1つ目は、社長が信頼に足る人間で、かつ、事業目的を達成する意欲があること。2つ目は、商品やサービスを買ってくれる人がいること。資金調達する際に、商品やサービスのサンプルのようなものがあれば、販売する際のイメージが湧いて資金調達しやすいからです。 3つ目は、しっかりとした事業計画があること。ベンチャー企業を設立しても、商品やサービスを販売して資金を回収するまでには時間がかかります。この間、資金調達の計画をしっかりと作らないと、倒産してしまいますから。
ーー「社長の資質」「商品性」「事業計画」の3つですね。特に、起業家に求められる条件として「社長の資質」はしばしば耳にしますが、北城さんにとって、それは具体的になんでしょうか。
北城:信用できる人かどうか、です。いくつか質問をすれば経験的にわかってきます。こちらの質問に対して、誠実な答え方といい加減な答え方をする人でけっこう分かれるもの。私は、この人に懸けて失敗してもやむを得なかったと思える人に投資しています。事実、「この人大丈夫かな?」と感じた社長はうまくいかないものです。
ーーあえて聞かせてください。「この人大丈夫かな?」という社長の特徴は。
北城:夢を語るけど、そのための手段をあまり語ることができない人ですね。それではこちらが評価できませんから。ビジネスモデルよりも、それを実現するための手段やアイディア。この豊富さが特に重要なのです。なぜなら、ベンチャー企業にとって軌道修正はつきものだからです。
ーーたしかに、いま注目を集めているベンチャー企業の中には、設立当初と異なるビジネスモデルを展開しているケースは少なくありません。
北城:たとえば、富士山を登ろうと思っても、登る方法はたくさんある。どの方法で登るかを考えて、途中でうまく行かなくなったときにどうすべきか再考し、軌道修正できる力。これが重要なのです。加えて、途中ですぐあきらめる人はうまくいきません。一方であきらめが悪いのもまた問題です。
ーー誠実に、手段を実行でき、あきらめない人ということですね。
北城:特に投資家の前ではそのような態度が求められます。正しい自社の情報開示はもちろん、ライバルの動向も含めて話せるようになっているべきです。それは上場してからも同じです。「インテグリティ(=高潔さ)」がある会社じゃないと成功しません。逆に、インテグリティを持たない経営者がいる会社はおかしくなる。たとえば、食品偽装や自動車の不祥事など、世間を揺るがせてきた企業には、インテグリティがないのです。
ーービジネスでの経験が投資家としての“目”を研ぎ澄ませているんですね。
北城:それから、やはりお金の使い方。資金調達できた後も大切な資金をどうやって活用するか計画を立てられるかが大事です。そこで、私がおすすめしているのは、初期の段階でその会社を応援する社外取締役を見つけること。できれば、元経営者か、社会的信用のある方にお願いするのがよいでしょう。
ーーなぜベンチャー企業に“ベテラン”を入れるべきなのでしょうか?
北城:近年、「コーポレート・ガバナンス」といって、大企業には社外取締役を入れるべきという考え方が主流になってきました。これはベンチャー企業も同じ。経験豊富な社外取締役がいることで、健全な経営を行うことができる。さらに彼らの豊富なネットワークから、販売先を探すことができます。また、必要な社員を紹介してくれるというメリットもあります。
ーー事実、“ベテラン”である北城さんも社外取締役を務めていますね。
北城:元経営者に社外取締役をお願いするとよいでしょう。元経営者であれば、生活の基盤も安定していますし、高い報酬をもらう必要もない。そもそも、資金も限られていますから。給与ではなく、ストックオプションでもよいと思います。私のような元経営者の中には、若いベンチャー企業を応援したいという方はけっこういますから。
◆エンジェル税制はなぜ生まれた?
ーーなぜ北城さんは、そこまでベンチャー企業の支援に積極的に取り組むのでしょうか。
北城:今後の日本経済のためです。大企業には既存事業があるため、既存事業に悪影響がある事業に進出することがどうしても難しい。一方、ベンチャー企業は投入した資金のすべてを新事業に充てます。さらに経営のスピードも速い。だから、イノベーションが生まれるのです。日本社会の発展のためにはイノベーションが必要です。イノベーションを起こす効果的な施策がベンチャー企業の成長、というわけです。
ーー個々の企業だけでなく、仕組みとしてお金が集められる方法を色々考えてこられたわけですね。
北城:その最たるものがエンジェル税制です。これは、ベンチャー企業が創業する際に個人が投資すると、所得控除を受けられるというものです。経済産業省が税制を作ることを応援しました。私はこの税制のために、様々な角度から政治家の先生方を説得をしました。たとえば、失業対策。ベンチャー企業が成長することで、そこから付随して様々な雇用が生まれます。新産業が成長すると、失業対策になるわけです。
ーーなるほど。
北城:実は、エンジェル税制は、世界的に見ても稀有な制度です。ある意味では、日本が誇るべきものなのかもしれない。個人が資金を出すだけで所得が控除されるという仕組みは、アメリカにもありません。アメリカでは投資先の企業が倒産したときなど、損失が発生した時に所得控除されるのです。
ーーとは言え、エンジェル税制の知名度はまだまだ不十分と言えそうです。
今後、エンジェル税制はどのようにすれば広がっていくでしょうか。
北城:より広い範囲への適用でしょう。現在、エンジェル税制は創業時か創業から3年以内の企業に適用されます。また、創業時以降はキャッシュ・フローが赤字の企業でなければ認められません。それをもっと緩和すべき。できれば、創業5年以内にまで伸ばすべきだし、キャッシュ・フローが黒字でも、エンジェル税制を適用できるように変えるべきです。他にも、複数人の社員がいないと適用できない制度のため、こちらも従業員が1人の会社でも適用できるようにしてほしいですね。
◆株式投資型クラウドファンディングの強み=スクリーニング
ーーこれまでベンチャー企業に投資されてきた北城さんから見て、日本クラウドキャピタルが行う株式投資型クラウドファンディングについては、どのようにお考えでしょうか。
北城:FUNDINNOのような株式投資型クラウドファンディングは、貴社が事前に成長可能性の審査をし、さらにより多くの人が投資するので、成長可能性についてスクリーニングされます。 単にお金を集めたい人ではなく、本当に事業をおこそうとしている人を見極めた上で投資できるのがメリットではないでしょうか。
ーー審査の厳しさが、北城さんがおっしゃっていた「3つの要素」が備わっているかのスクリーニングになりますよね。
北城:そうです。結果、FUNDINNOは質の高い投資家と、ベンチャー経営者が出会う場になっているのではないでしょうか。
ーーそうなれば、将来的にはベンチャー企業を起こす人と、投資家という関係性だけではなく、FUNDINNO投資家の中で、そのベンチャー企業の社外取締役を務める人が出てくるかもしれません。FUNDINNOは、そうしたマッチングのプラットフォームになる可能性を持っています。
北城:ベテランの社外取締役を見つけてこられる場所として機能するのはとてもよいことですね。投資した企業には成長してほしいですから、投資家さんたちがそういう方を紹介してくれるかもしれません。
ーーほかには、事業計画づくりをサポートするサービスも現在開発しています。
北城:そのニーズがあることは強く感じています。多くの人にとって、起業は前例のないこと。私も、起業する人の事業構想づくりを支援する組織に参加しています。 こうした、若者の起業支援をおこなうことが、FUNDINNOの成長にもつながっていくのだと思います。
(※1)出典:ドリームインキュベータ「10兆円に迫る中国ベンチャー投資、資金はどこから?」
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