ヤマトシロアリのロイヤルフード ~王と女王のエサは特別~ 論文紹介

ヤマトシロアリのロイヤルフード ~王と女王のエサは特別~

論文名 The royal food of termites shows king and queen specificity
シロアリのロイヤルフードは王と女王に対する特異性をもつ
著者名 Eisuke Tasaki, Yuki Mitaka, Yutaka Takahashi, A S M Waliullah, Zinat Tamannaa, Takumi Sakamoto, Ariful Islam, Masaki Kamiya, Tomohito Sato, Shuhei Aramaki, Kenji Kikushima, Makoto Horikawa, Katsumasa Nakamura, Tomoaki Kahyo, Mamoru Takata, Mitsutoshi Setou & Kenji Matsuura
掲載誌 PNAS nexus
掲載年 2023年
リンク https;//doi.org/10.1093/pnasnexus/pgad222

ヤマトシロアリのロイヤルフードを調査した2023年の論文です。
 社会性昆虫であるミツバチでは、女王が特別なエサであるロイヤルゼリーを食べていることはよく知られています。また、ロイヤルゼリーによって、女王の体は他のカーストのハチよりも大きくなることが報告されています[1]。このようにコロニーを維持するために絶対必要な女王には特別なエサが与えられています。この論文を読むまでは知りませんでしたが、同じ社会性昆虫であるシロアリでも、生殖カーストと呼ばれる、生殖を行う王と女王は自身でエサを探して食べることは行わず、働きアリからエサを与えられており、自身は生殖活動のみに専念しています。王と女王はコロニーを維持し、大きくするために絶対必要な存在であり体が大きく、寿命が長いというミツバチの女王と同様の特徴を持っています。そのため、働きアリから与えられているエサには、ミツバチと同様に何かしら特別な効果があると考えられます。

 [背景]に書かれていますが、これまでにシロアリの王と女王が働きアリからエサを与えられていることは分かっていましたが、そのエサがどういうものであるのかについては、分かっていませんでした。これはエサの成分を調べるためにはある程度の量が必要になりますが、それが非常に困難だったためです。本論文では、働きアリから効率的にエサを採取する方法が確立されたことで、ある程度の量のエサを確保できたため、研究を進められたようです。

 本論文では、ロイヤルフードに含まれる脂質、ペプチド、アセチル-L-カルニチンに注目して解析を行っていますが、王のエサや女王のエサに含まれる特異的な成分が、王と女王に与える影響については、まだ分かっていません。本論文の[考察]で、いくつかの可能性が考察されていますが、それらを検証するのは今後の研究になるでしょう。しかしながら、ロイヤルフードに含まれる成分の一部を明らかにしたことで、今後の研究の道筋が示されたとも言えますので、続報が待たれます。ミツバチで報告されたようなロイヤルゼリーに含まれる特別なたんぱく質が、ロイヤルフードでも見つかれば、社会性昆虫への進化の一端が明らかになるかもしれません。

 本論文の補足情報には、ヤマトシロアリの働きアリが王と女王にエサを与えている様子をとらえた動画が含まれています。zipファイルをダウンロードしなければなりませんが、興味のある方はこちら(リンク先のpgad222_Supplementary_Dataファイル)からダウンロードしてみてはどうでしょうか。
 
参考論文
1.      Kamakura M. Royalactin induces queen differentiation in honeybees. Nature. 2011 May 26;473(7348):478-83.
 
補足は論文には書かれていないことです。分かりやすくするために追加した文章になります。

この論文で分かったこと

  • 働きアリは主に口吐餌(こうとじ?)を王と女王に与える。

  • 働きアリは王と女王に異なるロイヤルフードを与えている。

  • ロイヤルフードは働きアリが食べたセルロースの代謝物である。

  • 王と女王の後腸は働きアリと兵アリよりも小さく、カースト間で消化の分業がある。

[背景]

 アリ、ハチ、シロアリなどの社会性昆虫は、高度な分業システムを確立することによって繁栄してきました。それらは、生殖する個体と生殖しない個体の役割を分け、それぞれの仕事に特化することで繁殖力を高めてきました。カーストによって、形態、行動、生理形質が異なり、遺伝子発現パターン、代謝、化学受容、寿命、抗酸化物質、免疫系も異なります。社会性昆虫の生殖する個体は、生殖と寿命のトレードオフを克服しており、最も性的に活発な個体が最も長命です。これを可能にしているのは、生殖する個体の特別なエサです。ミツバチでは、女王蜂になる幼虫に与えるローヤルゼリーが多くの研究の対象になっています。また、他の社会性膜翅目では、社会的に交換される液体(社会性液体)が研究対象になっています。(補足:社会性液体は社会性昆虫の個体間で交換される液体のこと。)ミツバチのローヤルゼリーの機能性に関する研究は、ミツバチの生物学を大きく発展させただけでなく、ヒトの医学や健康科学にも知見を与え、食品や化粧品に応用されています。しかし、ミツバチの女王蜂を除いて、生殖する個体のエサについてはほとんど知られていません。

 シロアリは社会性膜翅目とは独立に真社会性を進化させました。その社会性とリグノセルロースを効率的に消化する能力の組み合わせは、大きな進化的成功をもたらし、シロアリは陸上生態系に大きな影響を与えています。(補足:リグノセルロースは樹木の内部の硬い組織を形成する物質で、リグニンとセルロースが結合したもの。)特に熱帯では、土壌中の昆虫量の95%をシロアリが占めています。真社会性の膜翅目とは異なり、シロアリのコロニーには王と女王の両方がいます。王と女王は完全に働きアリの給餌に依存しています。しかし、シロアリの王と女王のエサ(ロイヤルフード)の成分は、100年前に最初の観察が行われて以来、不明のままです。ロイヤルフードの話題がシロアリ生物学の大きな未開拓領域であり続ける主な理由は、食事後で腹の膨れた王と女王を多数採集し、分析のために十分な量のロイヤルフードを得ることが極めて困難だからです。

 本研究では、シロアリの王と女王を効率的に採集する技術を確立し、化学分析を行うのに十分な量のロイヤルフードを直接採取する方法を開発しました。高度な質量分析技術を用い、王のエサと女王のエサの両方またはどちらか一方に特異的な脂質、ペプチドを同定し、そのうちのいくつかは寿命と生殖に関連していました。さらに、質量分析画像化技術により、セルロース由来のロイヤルフード成分が働きアリから女王アリに移行し、女王アリに局在することを明らかにしました。

[結果]

働きアリによる王と女王への給餌
 シロアリの王と女王は働きアリから何を食べさせられているのでしょうか?王と女王は違うエサを食べさせられているのでしょうか?これらの疑問に答えるために、本研究ではガラス箱を使用してヤマトシロアリの給餌行動を解析しました。ヤマトシロアリは単為生殖により誕生する二次女王システムを持っており、複数の二次女王と1匹の王(創設王)がコロニーに存在します(漫画「ヤマトシロアリのコロニー」参照)。(補足:コロニー形成時の女王は創設女王と呼ばれ、その女王から単為生殖によって誕生した二次女王へと代替わりが起こる。)1匹の王と一緒に、20匹の女王と250匹の働きアリをガラス箱に入れ、合計12時間の動画撮影を行いました。動画撮影により、単位時間あたりの給餌頻度が明らかになりました(図1A)。シロアリの栄養交換はそれぞれ反吐餌と肛門餌として知られている口と肛門を介して行われます。しかし、王と女王の両方で、主に口を介して給餌されていました(図1B-E、動画1、2)。王と女王は働きアリから口を介して1時間あたりそれぞれ1.32 ± 0.21回と1.72 ± 0.27回給餌されており、両者の間に有意差はありませんでした。しかし、この実験系では1匹の王と20匹の女王がいるため、女王全体の給餌回数は王の約26倍になりました。

 働きアリが王と女王に異なるエサを与えているかどうかを確かめるために、王または女王に給餌する直前の働きアリの行動を動画撮影から同定しました(図1A)。最終的に王に給餌した働きアリ(王給餌アリ)が、王に給餌する直前に女王に遭遇した場合、女王にも給餌する(受容)、女王の要求を拒否する(拒否)、または要求のない女王を素通りする(無視)のうちのどれか一つの反応を示しました(図1F)。王給餌アリによる女王に対する拒否を観察しましたが、女王給餌アリは拒否を示すことはありませんでした(図1G)。そのことから、働きアリは王と女王に異なるエサを与えていると考えられます。ロイヤルフードの構成物を解析するために、王給餌アリまたは女王給餌アリから直接ロイヤルフードを回収しました(図1A)。(補足:給餌している働きアリを捕まえて、口器付近から虫ピンまたはろ紙を使用して回収した。)ロイヤルフードの透過型電子顕微鏡写真から、約50-200 nmの粒子で構成されていることが明らかになりました(図1H、I)。

ロイヤルフードの化学物質
 王のエサと女王のエサに含まれる脂質とペプチドを質量分析計によって解析しました。王、女王、働きアリ、兵アリの摂取したエサが蓄積する器官である中腸の内容物でも、同様の解析を行いました。ロイヤルフードと中腸の内容物からそれぞれ437種と3015種の脂質を検出しました(図2A)。ロイヤルフードの構成物の中で、スフィンゴミエリン、ホスホコリン、18-オキソオレイン酸の3種が王のエサに多く存在していました(図2C)。6種のジアシルグリセロールが女王のエサに多く存在していました(図2C)。ロイヤルフードと中腸の内容物からそれぞれ172種と9424種のペプチドを検出しました(図2B)。王のエサには8アミノ酸からなるペプチド(X―ロイシンーアスパラギンーグルタミン酸―バリンーバリンートレオニンーアルギニン)が多く含まれていることが分かりましたが、N末端側のアミノ酸を同定することができませんでした。

炭素移動の追跡
 
王と女王は自分でエサを探すことは無いため、ロイヤルフードの構成物は、働きアリによって摂取された物質または、その代謝物に由来するでしょう。ロイヤルフードの構成物であるホスファチジルイノシトールに注目し、働きアリによって摂取された13C-セルロースの炭素が女王の体内のホスファチジルイノシトールに取り込まれているかどうかを調べました。(補足:13C-セルロースはセルロースの炭素を安定同位体である13Cに置き換えたもの。13Cは通常の炭素よりも重いため、質量の違いから13Cが含まれているかどうかを判別することができる。)この実験では女王の切片と脱離エレクトロスプレーイオン化-質量分析画像化法を使用しました(図2D)。(補足:脱離エレクトロスプレーイオン化-質量分析画像化法は、個体にイオン化した溶媒を吹き付けることで気化させ、その気体を質量分析計により解析する方法。ここでは、女王の切片を領域ごとに解析し、ホスファチジルイノシトールの濃度を画像化している。)13Cを含むホスファチジルイノシトールは、13C-セルロースを食べさせられた働きアリの体から検出され(図2J)、13C-セルロースを食べさせられた働きアリから給餌された女王アリの体からも検出されました(図2L)。対照的に、未標識セルロースを食べさせられた働きアリから給餌された女王からは検出されませんでした(図2K)。脱離エレクトロスプレーイオン化-質量分析画像化法によって、ホスファチジルイノシトールが女王の腹部の脂肪体周辺に特に多くあることが分かりました(図2H、L)。(補足:脂肪体は脂肪の貯蔵器官であり、哺乳類の肝臓の働きも兼ねている。)これらの結果から、働きアリのセルロース代謝によって生成された物質がロイヤルフードとして女王に受け渡されていることが分かりました。

 ここまで、ロイヤルフードの解析は脂質とペプチドに注目していましたが、ロイヤルフードに含まれる重要な機能的分子は低分子化学物質に含まれている可能性があります。注目に値するのは、シロアリのセルロース代謝で生成される機能的物質のひとつで、オオシロアリの働きアリの消化管で見つかったアセチル-L-カルニチンです。ラットでは、アセチル-L-カルニチンの反復投与によって、加齢に関連するミトコンドリア機能不全が改善し、酵母では、ミトコンドリアの形態変化に作用することで寿命を伸ばします。本研究では、質量分析計による解析によって、王のエサと女王のエサの両方からアセチル-L-カルニチンを検出しました(図3A、B)。13C-セルロースによる追跡から、働きアリによって摂取されたセルロース由来の炭素が、働きアリの体内のアセチル-L-カルニチンに含まれていることが分かりました。質量分析計による解析の際の断片化のパターンから、13Cはアセチル-L-カルニチンのアセチル化部分に取り込まれていることが分かりました(図3C-E)。13C-セルロースを食べさせられた働きアリから給餌された女王アリの13C-アセチル-L-カルニチンの空間的分布を調べるために、脱離エレクトロスプレーイオン化-質量分析画像化法を使用しました(図3F-M)。画像化によって、アセチル-L-カルニチンが女王の腹部の脂肪体周辺に特に多くあることが分かりました(図3I、M)。

消化の分業化
 木材を食べ、微生物の豊富な後腸でそれを消化する働きアリとは異なり、王と女王の消化管構造はロイヤルフードの消化と吸収に特化していることが想定されます。つまり、生殖カーストと非生殖カーストとの間で、消化の分業が存在する可能性があります。そのため、マイクロCTを使用して、栄養を吸収する器官である中腸と微生物を住まわせセルロースの消化を行う後腸の大きさをカースト間で比較しました(図4)。王と女王の中腸は働きアリよりも大きいですが、働きアリのほうが大きな後腸を持っていました(図4A-D)。これは、解剖学的に取得した消化管画像を用いた消化管の体積の形態学的解析によって確かめられました(図4E-H)。王と女王の中腸の体積は働きアリと兵アリのものよりも大きく(図4I)、後腸の体積は働きアリが最大となりました(図4J)。興味深いことに、兵アリの中腸と後腸の合計に対する中腸の比は王と女王よりも小さく、働きアリと同程度であったことから、生殖の分業化が消化の分業化の根底にあると考えられます。これらの結果は、王と女王がロイヤルフードの構成物の吸収と利用に特化していることを示す解剖学的証拠となります。

[考察]

 木材を食べる代わりに、シロアリの王と女王は働きアリからエサを与えられ、生殖に集中します。本研究では、ロイヤルフードを採取し、その化学的構成物を解析しました。精子生産と卵生産で必要とされるものは異なるため、王と女王で必要とされる栄養素は異なると予想されました。本研究では、王のエサと女王のエサではその構成物が異なることを発見しました。これは、働きアリが王と女王を区別してエサを与えていた行動観察の結果と一致します。王と女王の間で、反吐餌による給餌頻度に有意差はありませんでした。しかし、単為生殖で誕生する二次女王システムを持つシロアリでは、ひとつのコロニー内に、王1匹に対して女王が多数存在するため、女王への合計給餌回数は王よりも多くなります。1匹の腹の膨れた女王が生殖を担う高等シロアリでは、女王への給餌頻度は本研究で観察されたものより高くなると期待されます。

 女王のエサは卵生産に必要な物質を含んでいる可能性があります。卵黄たんぱく質であるビテロジェニンが生産され、卵母細胞へ運ばれる過程である卵黄形成は、昆虫のメスの生殖にとって重要です。ビテロジェニンは昆虫の脂質輸送に関わるリポたんぱく質の中でメスだけに存在し、このビテロジェニンによって輸送される主な中性脂質はジアセチルグリコールです。本研究では、いくつかのジアセチルグリコールが王のエサよりも女王のエサに多いことが分かりました。昆虫では、食事に含まれるジアセチルグリコールが中腸の内腔より吸収されることは、女王の中腸が他のカーストの中腸よりも有意に大きいという本研究の観察結果と一致します(図4)。高等シロアリであるナタールオオキノコシロアリの網羅的脂質研究から、女王の脂肪体にあるジアセチルグリコールの量は性成熟中に増加することが分かっています。そのため、シロアリの女王は卵生産のためにジアセチルグリコールを吸収する可能性があります。これらの発見から、シロアリの王専用エサと女王専用エサ、つまりロイヤルフードはそれぞれの生殖的役割に最適化されていると考えられます。

 精子細胞の細胞膜は、哺乳類では精子が受精するために重要な役割を持つことが分かっているリン脂質であるスフィンゴミエリンを含んでいます。本研究では、王のエサに女王のエサよりもこのスフィンゴミエリンが多く含まれていることが分かり、精子生産に重要な役割を持つと考えられました。さらに、哺乳類では、スフィンゴミエリンの日常的な補充が腸の健康と認知形成に有益であることが分かっています。生殖するシロアリである王と女王は単独行動昆虫と比較して、一般的に非常に長い寿命を持ちます。さらに、単為生殖で誕生する二次女王という独特な生殖システムのため、ヤマトシロアリの創設王の寿命には特に強い選択圧がかかっています。(補足:女王は二次女王として補充されるが、王は補充されないため、より寿命が長いほうがコロニーの生存に有利に働く。)スフィンゴミエリンのような王のエサの構成物は王の突出した長寿命に寄与している可能性があります。また、王のエサに含まれる機能未知のペプチドを同定しました(図2C)。王のエサには、機能を推定できない多くの未同定の構成物が含まれています。

 ホスファチジルイノシトールは王のエサと女王のエサの脂質構成物として検出され、兵アリと働きアリよりも王と女王で中腸に多く存在していました(図2C)。13C-セルロースと脱離エレクトロスプレーイオン化-質量分析画像化法を使用した13C追跡から、ホスファチジルイノシトールは働きアリが摂取したセルロースから生合成され、反吐餌を介して女王へ渡されていることが明らかになりました(図2)。13Cが取り込まれたホスファチジルイノシトールは消化管よりも体腔(たぶん脂肪体)で検出されました。このことから、吸収されたホスファチジルイノシトールは、卵生産や他の代謝過程で使用されるまで貯蔵される脂肪体へすぐに輸送されると考えられます。
アセチル-L-カルニチンは王のエサと女王のエサで同定されました(図3)。アセチル-L-カルニチンは老化防止と寿命に関係する物質です。本研究では、13Cがアセチル-L-カルニチンのカルニチンではなく、アセチル化部分に取り込まれることが分かりました。これは、おそらくセルロースからのアセチル供与体としての酢酸塩の代謝ステップまたは代謝率とカルニチンの生合成経路の違いによるものでしょう。シロアリの働きアリは、後腸の共生微生物の代謝を介してセルロースから酢酸塩を生合成し、自身の代謝のためにすぐにそれを利用しますが、後腸の共生微生物を分解することで得られたアミノ酸をカルニチン生合成のため使用する可能性があります。本研究では、初めて王のエサと女王のエサを解析しましたが、多くの構成物の機能は明確ではありません。ロイヤルフードの構成物には、スフィンゴミエリンやアセチル-L-カルニチンのように、ヒトの健康食品やサプリメントとして使用される物質が含まれていました。本研究結果を基に作成したロイヤルフードデータベースは、機能性成分の金鉱です。世界には多様な生活様式と生殖パターンを持った3,000種以上のシロアリが生息し、そのロイヤルフードは種間で多様である可能性があります。本研究で使用した方法を利用して、他のシロアリ種のロイヤルフードを解析できるでしょう。

 カースト間での消化管構造の比較から、中腸と後腸の合計体積に対する中腸の体積比は王と女王に比べて兵アリと働きアリで小さくなりました(図4K)。この結果から、働きアリほどではありませんが、ある程度、兵アリは巣の仲間から反吐餌によって渡されたエサを消化すると考えられます。王と女王と同様に、兵アリは伝統的に給餌されるカーストと考えられてきましたが、ヤマトシロアリでは、働きアリと兵アリの両方は、後腸に木材の消化に寄与する共生性腸管性原生動物を住まわせています。そのため、ヤマトシロアリの兵アリは木質の食物を消化する能力を持ち、社会的胃の一部として食物の消化に部分的に貢献している可能性があります。

 社会性昆虫は、社会的相互作用を通して様々な種類の物質の輸送に関与することが分かっています。本研究では、シロアリの王と女王が働きアリから主に口を介して給餌を受けていることが観察されました(図1)。その結果、ミツバチの働きバチによって生産されるロイヤルゼリーと同様に、シロアリのロイヤルフードは反吐餌の一形態と区分することができます。ミツバチの働きバチがその下咽頭腺からロイヤルゼリーを生産するならば、シロアリの働きアリはその唾液腺からの分泌を介してロイヤルフードを生産すると推定されます。働きアリの区別された給餌の存在と、観察された王のエサと女王のエサの間の構成物の差異に基づいて(図1)、働きアリは王と女王にエサを割り当てる決定をする能力を持っていると推測できます。これらの発見から、以下の2つのさらなる仮説が考えられます。ひとつは、給餌をする各働きアリは王のエサと女王のエサの両タイプのロイヤルフードを作成することができ、その後、王または女王に応じてそれらが分配される。もうひとつは、給餌をする各働きアリは王のエサまたは女王のエサのどちらかの生産に特化していることから、それぞれの王族カーストに対応した給餌に貢献する。これらの仮説を検証するためには、今後の研究で給餌をする働きアリの追跡分析を行う必要があります。社会性昆虫の社会性液体に関する研究は、主に社会性膜翅目種において非常に活発になっています。しかし、本研究は、網翅目であるシロアリの社会性液体の役割と構成に光を当てることで、この分野での注目すべき進歩を提示しました。栄養学的な観点を持つことで、本研究結果はこれらの生物における社会性の進化をより深く理解することに貢献します。


よろしくお願いします。