見出し画像

厳木駅(佐賀県)の給水塔

佐賀県唐津市厳木町、有明海沿いの佐賀市と日本海沿いの唐津市を結ぶJR九州唐津線の中間に、木造の駅舎が静かにたたずんでいる。周囲は山と田畑が囲み、唐津線の峠を思わせる景色が広がっている。

この峠の駅にかつて鉄道の運行を支える近代産業遺産が綺麗に保存されていた。蒸気機関車に給水する給水塔である。航空写真を眺めてみると、駅舎の反対側に、背の高い構造物が建っていることが分かる。

駅構内に堂々と屹立し、強固なレンガ積みの頂点に、傘を被った水タンクが座っていた。水タンクは鉄板を製缶し、鋲で打ちとめた跡がある。それにしても郷愁的で見事な給水塔だ。

厳木駅の開業は明治32年、石炭を輸送する目的で設立された唐津鉄道の駅であった。周辺は石炭を産出していたが、主な貨物の取り扱いは、ミカンや砥石、パルプ材などであった。厳木町周辺はミカン畑が広がっており、また砥石の産地であったようだ。

蒸気機関車が走っていた時代、峠を越えるのに石炭と水を消費するため、石炭と水の供給する施設が鉄道駅のいたるところに配置されていた。昭和49年に唐津線から蒸気機関車の運用が廃止されてから、この給水塔も無用となるところが、奇跡的に解体を免れたことに感激する。

厳木駅は駅舎と長いホームが並び、かつて乗降客で賑わった様子がしのばれる。現在では自動車の交通網も発達し、佐賀唐津間の通過点で利用する乗降客も少ないが、給水塔の現存も相まってかつての鉄道駅の雰囲気を現在に伝えてくれる厳木駅は大変見どころのあるところである。

坑内には保線の詰所もあるが、木造の簡素なつくりで郷愁の雰囲気に一役買っている。

給水塔の周りは、地元の有志の方が、桜の木や花の植木を植樹してくれている。山間の見どころとして、ぜひこれからも大切に保存されることを願う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?