【かみあそび!制作小話】「アルケミック・バーサス」の設定ができるまで

 こんにちは。いつも「かみあそび!」を楽しく読んでいただきありがとうございます。

 原作を担当している文月と申します。

 このたび無料公開された第6話にて、作中に登場する架空のカードゲーム「アルケミック・バーサス」(以下アルバサ)のおおまかなルールが公表されました。

https://comic-days.com/episode/2550689798754939034
まだお読みでない方はぜひ先に上記リンクの本編を読んでからこの記事をお読みください!


 作中にもあった大まかなルールは以下の通りです。


 6話になるまで誰も知らないしルールも説明されてない遊びを描き続けていたと言うのもどうかと思いますが、それはそれとして。


 どのように考えてこの架空のカードゲームのルールを調整したかと言うことをどこかで話したいということは以前から思っており、作中で明記された今がよきタイミングであろうとまとまった記事を書くに至った次第です。


 と言うのも、はやくこのことを明言して重圧から解放されたいと思い続けていたことがあり…


私はカードゲームデザインに関しては経験も知識も一切持ち合わせない素人であり、

「アルバサ」はあくまで漫画の中で効果的な作劇をするために考えた架空のカードゲームです。


 実際に存在したらフェアで面白いゲームなのか、
 実在のタイトルと比べてオリジナリティを伴う魅力があるか、
 ルールに穴はないか、

 そんなことはまったく保証できないし、自信もないのです。

 頼むからアルバサを分析しないでくれ〜!と日々怯えながら過ごしていた小心者の私は、この記事を出して制作秘話のていで言い訳をできる日を待ち続けていました。


 と言うわけで姑息な予防線は張り終わったので、改めて企画段階で「アルバサ」の設定を作るときにどんなことを考えていたのかを解説していきたいと思います。


◆大前提:あくまで作劇のため

 これは最初からずっと気をつけていたことです。

 「かみあそび!」はカードバトル漫画ではなく、カードゲームコメディ漫画(もっと言うとカードゲーマーコメディ漫画)ですので、緻密なバトル描写に尺を割くべきではないと企画当初から思っていました。

 ですので、「アルバサ」で一番重視すべき点は、

①テンポのよさ
②説明がなくても伝わる「こんなカードゲームありそう」感
③直感的な視認性の良さ

…の3つであると心の中でピンを打ってから考えました。

 ここからは以上のポイントをなるべく満たすために決めた具体的な設定を解説していきます。



◆タイトル決めの過程


 頭文字を略すると「AV」になることで有名な「アルバサ」ですが、実はこれは全くの偶然です。

 「アルケミック・バーサス」と言うタイトル名を決めた後で略したら「AV」になることに気付きました。

 普通ならここで「それはまずいから変えよう…」となるものですが、この漫画はカードゲーマーの漫画ですので、「もしそんなタイトルのカードゲームがあったらカードゲーマーたちは絶対喜んでAV呼ばわりする!」と言う確信があるので、面白いからそれでいくことにしました(編集さんに相談もせず)。

 でも「アルケミック・バーサス」そのものはちゃんと真剣に考えたんです。偶然にも変な頭文字になっただけで私は真面目そのものでした。


 カードゲームのコンセプトによく用いられるものとして「魔術」があります。カードを魔法が籠ったアイテムに見立て、プレイヤー自身が魔術師となって操るというイメージです。

 またカードゲームの基本は1対1の対戦ですので、「マジック:ザ・ギャザリング」が発明した「魔術師の決闘」というコンセプトは非常に秀逸で永遠に超えがたいものだと思います。

 そこで、「こんなカードゲームありそう」感を出すためには魔術と決闘の要素がタイトルにあればいいだろうと思い、それぞれを実在するタイトルからズラした「アルケミック(錬金術)」と「バーサス」という単語を組み合わせることにしました。

 また、カードゲームは商品であるので、タイトルには発音しやすい略称が必須だと考え、「アルバサ」という自然な4文字略称が作れることも確認しながら決めました。

 そうして出来上がった自分なりの理想の架空のカードゲームタイトルが、頭文字を取ると「AV」でした。もう引き下がるわけにはいきませんね。



◆具体的なルールの設定


ここからは個別のルール設定の解説です。


・デッキ構築のルール

メインデッキ40枚〜60枚
外部デッキ13枚
サイドデッキ15枚
同名カードは3枚まで

これがアルバサのデッキ構築のルールです。

 メインデッキが40枚下限なのは、エネルギーソースがメインデッキ内に存在しないゲームであるため、エネルギーを注いで使うカードの側だけで60枚下限は過剰だと思ったからです。

 また、個人的な好みですが60枚デッキは厚みがあって多重スリーブにするとシャッフルするときに手から溢れそうになることがあったりと、ゲーム性の面ではいいことがあっても手触りの面ではちょっと不便なところもあるなと感じていました。
 勝手な考察ですがレギュラーサイズのカードを使った60枚下限のルールはアメリカで生まれたために欧米人の大きな手にフィットしていて、スモールサイズで40枚下限の遊戯王はより日本人の手に馴染んだという側面もあったのではと思います。データ・根拠は何も調べていない適当な妄想です。

 とにかくコレクショングッズの側面も持つカードやデッキには手のひらに収まるコンパクト感もあると嬉しいよな、と個人的に思っています。同じ理由でガンプラもMGよりもHG派です。


 サイドデッキは管理しやすいキリのいい数ということで15枚。動かすなら10か20ですが、10では対応力が下がってゲーム性を損なうし、20だとなんでもできすぎてしまう…ので、15という数字には意味があるのだろうと思います…


 外部デッキが13というキリの悪い数字なのは、15はちょっと多いと自分の中の特に根拠などはない突然閃いた直感が語っていたからです。

外部デッキのスロットが多いと汎用カードがたくさん積めて錬成召喚を得意とするデッキの対応力が上がりすぎるし、もう少しそのデッキ固有の外部カードで枠が埋まる枚数にしたいなと思いました。
 でも流石に10では自由度が少ないし、魔術っぽさでいうと黄道十二宮の12か不吉な数字という考え方もある13で悩み、1枚おまけして13にしました。

 外部デッキがある理由については別の項目でも少し説明します。



・対戦のルール


・ライフ制と数値の基準

 アルバサは10000のライフをユニットのパワーで削り合うルールです。これはコメディ漫画の中で断片的に描いたとしても直感的に理解しやすいことを重視しました。

 ライフとユニットのパワーは直接関係していて、パワー6000のユニットが出てきたとしたら、2発殴られたら死ぬ恐怖を理屈を介さず感じられるほうが迫力がありそうだと思ったためです。

 数字の桁が大きいのも迫力を出すためです。実際の商品としては管理が楽な小さい数字にも利点がありますが、漫画の中での対戦ならデカい数字で強そうに見せるメリットの方が大きすぎるのでこちらを採用しました。



・コストの概念とエナジーのシステム

 コストの概念を取り入れたことは明確に当初の目的である「テンポ・直感的・ありそう」と少し噛み合わない部分があります。

 引いたカードをいつでも出せる、コストの概念がないルールのほうが展開が早まってテンポが良くなるからです。

 ですがコストの概念があれば「コストが大きい重量級カードの迫力」「予備動作や小規模なぶつかり合いから始まって派手に盛り上がっていくバトルの展開」など、カードバトルの醍醐味をルール段階から正当化して自然に描けそうだなと思って取り入れました。
 さらにコストがあることで「重くて強いカードの迫力」、「重くて弱いカードの悲壮感」、「軽くて強いカードの異常性」、「軽くて弱いカードの頼りなさ」までよりわかりやすく描けると思うので、カードゲームの面白いところを見せたい漫画として都合がいいという側面もありました。

 また、毎ターンエナジーが自動で付与されていくというシステムは自動で計算や処理ができるDCGに多く、現実の紙のTCGでやるとエナジーを数えるためのサイコロなどの道具が必要になり、カードゲームとしての手軽さを損ねます。ですがアルバサはあくまで漫画の中でやるものなのでそのデメリットはありません。
 舞台も現代なので、当然ライフやエナジーを管理してくれるスマホアプリが存在してストレスフリーに遊べている…という描写も矛盾なく取り入れられました。



・外部デッキ

 外部デッキからの特別な召喚方法を取り入れたのは、なんといっても漫画的な格好よさのためです。切り札が出てくる時のワクワク感や、そのキャラクターのフェイバリットカードが登場した時の安心感、逆に倒された時の危機感など、カードバトルを演出する上での根幹に関わるルールだと思っています。

 また、外部デッキがあることがカードバトルを創作するときに避けられない「ご都合ドロー展開」への対策にもなると思いました。
 切り札やエースが運よくピンポイントでドローしなくても場に出せる外部デッキにあることで、正念場で登場する展開がより自然に描けるのではという意図です。
 「ピンチ→チャンス→逆転勝利」というバトル漫画の一番熱い展開がカードゲームと重なった時だけたまたま引いたカードが強かったご都合主義展開に陥りやすくなるのはジャンル自体が抱える永遠の苦しみだと思っていて、その対策になるのもこういったシステムのとてもいい点です。

 素材を墓地に送って外部デッキのカードを場に出すプロセスは「錬成召喚」という名前にしました。数少ないアルケミック要素です。

 アルバサにおけるメインデッキのカードの右上にある数字は使うために必要なエナジー数を表す「コスト」、外部デッキのカードの右上にある数字は錬成召喚するために必要な素材の合計コスト数を表す「レベル」です。

 たとえばレベル4の「微風の巡礼者エアリィ」を錬成召喚する場合は、場からコスト1とコスト3のユニットか、コスト2のユニット2体を素材として墓地に送るという感じです。

 外部ユニットが持つ数字は「レベル」であるためコストを参照する錬成召喚の素材となることはできません。外部ユニットを素材にさらに外部ユニットを錬成召喚できたら非常に果てしないことが起きるので、安全弁をつけておきました。

 連続錬成召喚ができるルールにしてしまったら作中世界に連続錬成召喚をするデッキが存在しないのは絶対おかしいし、いずれ書かなければいけなくなります。その時に自分の脳が架空のコンボルートを管理できる気がしないので、この安全弁は必要だと思いました。


 ちなみに「外部(アウター)デッキ」のコンセプトも少し考えていて、場や墓地などの盤面を「地上」とみなし、地上でカードを素材にして儀式を行うと別の世界や宇宙から特別な力を持った強いカードを呼び出せる…というイメージです。

 「外部」が単純にメインデッキ外であるというだけでなく、世界観的にも特別なカードを演出する意味合いを持っていたらプレイヤーも楽しく遊べそうなので。



・召喚酔いがない

 これは「そのルール、マズいんじゃないか」ポイントです。「アルバサ」では場に出たユニットがそのターンは攻撃できない「召喚酔い」というルールがありません。

 ゲームの好みとしては召喚酔いはあるほうが好きです。
 カードの場持ちが良くなって「せっかく出したカードが何もしないうちにやられちゃった…」という嫌な体験を減らせますし、召喚酔いがあるから「速攻」という戦略の魅力も生まれます。

 ですが、漫画として考えたときのテンポロスはかなり大きいデメリットだと思っていて、「強いユニットを出したが召喚酔いがあるのでこのターンは攻撃できない」ということを毎ターンやってたら漫画としては迫力もテンポも損ねるしページがいくらあっても足りないのでは…?とすごく心配になりました。
 カードバトル漫画であればそのルールも含めて魅力的に書くことは可能ですが、「かみあそび!」はあくまでコメディなので、そこまでバトル描写に重きを置いたら本来の魅力を失う可能性がかなり高いという判断です。

 これによってテンポは良くなったかもしれませんが、現実の目線で見ると出したユニットが次のターンには殴り返されて死ぬという非常にゲームスピードが早く場持ちが悪いゲームであると思います。

 ですが仮にアルバサがクソゲーだったとしても誰も困らないし、作中のカードゲーマーたちもクソゲー呼ばわりしながら遊び続けると思うので気にせずこのルールにしました。



・バトルのルール

 アルバサにおけるバトルのルールはこんな感じです

・攻撃側プレイヤーがどの自軍ユニットでどの相手ユニットを攻撃するか選ぶ
・バトルの際のパワーの超過分はライフへのダメージとなる

 これもなるべく直感的なほうがいいと思ったので、「行け!ファイアドラゴン!相手のアイスドラゴンに攻撃だ!」というわかりやすいプロセスで攻撃できるようにしました。





◆まとめ


 以上が「アルバサ」の設定を考えた際のプロセスと意図になります。

 どこを見ても作ろうとしたものが「魅力的な面白いカードゲーム」ではなく「割とありそうで漫画の作劇のために都合のいいカードゲーム」であることがお分かりいただけると思います。

 私はあくまでひとりのカードオタク兼創作オタクであり、カードゲームデザイナーではないのでゲームとしてのクオリティはわからないということを伝えたかったのです。

 ですが、それでも「こんなカードゲームを遊んでみたいな」という気持ちは作劇の都合と折り合いを付けながら精一杯盛り込んだつもりですので、「適当に考えただけだから!」と投げ出すことはせずにこれからも向き合っていきたいです。

 というわけで、とうとうアルバサのルールも明らかになった「かみあそび!」のこれからの展開もぜひぜひ追いかけていただけたら幸いです!

 コメント欄やツイッターなどで読者の皆さんからたくさんの感想をいただけていること、大変励みになっております! 

 長い解説を最後まで読んでいただきありがとうございました!

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