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繁栄の守護者作戦 - 覇権国とグローバルサプライチェーンの交差点
米英海軍による空爆開始
2024年1月12日より米英海軍による70拠点にも及ぶフーシ拠点への大規模な空爆が行われています。しかし一方で、その効果が限定的だという議論もあります。フーシからも装備などが移動式のため拠点攻撃は効果が薄いとの言明もあります。
ただこれまでサウジとの紛争の経過もある上で、また(海軍ではないにせよ)アジア・中東を管轄する統合本部である米中央軍(USCENTCOM)自身も、1983年の創設以後、911を契機としたアル・カイーダに対する作戦をはじめとして、アジアで分散したネットワーク型組織のイスラム勢力との戦争を長年経験し試行錯誤をしています。したがい、もし仮に今回の空爆の効果が低くかったとしても、それはある程度織り込み済みでないかとも思えます。
「繁栄の守護者作戦」とは
国際的な公共財の保護という観点
しかしそれでもなぜ米海軍が今回、「国際交易路の自由な航行を守る」ことを掲げて20隻を超える艦隊を派遣し、西イエメンで大規模な空爆を実施しているか、その思想的あるいは国際関係論的な文脈への理解を、このシカゴ大Poast教授のポストは助けてくれます。
What is the "global commons" and why do "Hegemons" have to support it?
— Paul Poast (@ProfPaulPoast) January 13, 2024
[THREAD] pic.twitter.com/lvqQ7Tpugo
様々な複合的な背景があり、このポストがもちろん全てを説明するものではありませんが、ここでPoast教授が挙げているポイントがいくつかあります。
① 覇権国が、国際交易路など国をまたがる「国際的な公共財」を守ることの重要性
② ①を果たす上で、覇権国が「守る能力」を持つだけでなく「守る意志」を持つことの必要性
③ 米海兵隊などと異なり、米海軍がスローガンとして挙げる「a global force for good」という公共性
1929年大恐慌時の米英海軍が成し得なかったものとは
特に②については、1920年代、米英海軍が上記の能力と意志の両方を足並みをそろえて発揮できず、それが世界恐慌の引き金になった、という研究を紹介しています。 その中で、英海軍は、自由交易路を守る意志を持っていたが能力が足りず、米海軍はその能力があったが意志がなかったとしています。
As Kindleberger argued long ago, the Great Depression happened because the British were "willing", but not "able" to pursue policies to support an open global economy, while the US was "able" but not "willing"https://t.co/wZY9S2T7oL
— Paul Poast (@ProfPaulPoast) January 13, 2024
目を離せない現在の各国海軍力のバランス
くわえて、中国の海軍力の台頭という、各国の海軍力のバランスの変化を論じるエコノミスト誌の記事にも触れています。
...which is a key reason that naval power remains relevant.https://t.co/PVqkuO1CWV
— Paul Poast (@ProfPaulPoast) January 13, 2024
この記事の中では、中国の海軍力が排水量トンベースで、既に米国や、英仏韓日の4カ国の合計を超えていることを指摘しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1705238535730-RMZaXsC6pr.png)
グローバルサプライチェーンの生命線
このような背景や文脈が今回の「繁栄の守護者作戦」の決定や実行にどの程度影響しているかはわかりません。またこの作戦は、フーシやイランとの駆け引きと共に、地域全体への紛争拡大の可能性や、米国国内政治への影響などとも複雑に絡み合っており、一筋縄に成否を判断できるものではありません。
ただ、グローバルサプライチェーンへの含意は大きいと言えます。それは、海路が輸送量の8割、金額の5割を占めており、海上の国際交易路の確保は今もって極めて重要な課題であるためです。
その意味で、このポストは、紅海というチョークポイントの今後の情勢にとどまらず、グローバルサプライチェーン全体の今後を考える上でも示唆深いと感じます。
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