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石灰岩のスクリーン:闇りの中心へ(映画エッセー2)

(ネットの海を漂う過去の自分が書いたテキストを掬い上げる。別人のものと思えてしまう文体、好みのありように衝撃を受け、大変新鮮に感じられたため、新たにここへ移行し残しておく)

2017/12/26

2017年の好きだった映画ベスト10。
1位 マリアンヌ (監督:ロバート・ゼメキス)
2位 散歩する侵略者 (黒沢清)
3位 ファウンド (スコット・シャーマー)
4位 パーティーで女の子に話しかけるには (ジョン・キャメロン・ミッチェル)
5位 ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち (ティム・バートン)
6位 変魚路 (高嶺剛)
7位 アウトレイジ 最終章 (北野武)
8位 エル ELLE (ポール・バーホーベン)
9位 ハードコア (イリヤ・ナイシュラー)
10位 星空 (トム・リン)

エドワード・ヤンの『牯嶺街少年殺人事件』、『台北ストーリー』のデジタルリマスター版はランキングから外した。銀座東劇はスクリーンが大きく位置が高くて最高だった。
『クーリンチェ』のポスターデザインは、LDやVHSが発売された当時の方が好み。

劇場で泣いたのは『夜明け告げるルーのうた』(湯浅政明)、『アウトレイジ 最終章』、『パーティーで女の子に話しかけるには』。
俺は何回エル・ファニングに恋すれば気が済むのか。エル・ファニングの脇と吐瀉物。口元から垂れた涎が街灯にきらめいた偶然のショットを悪びれもせずに使ってくるあの感じ。「パンク・ミー」。可愛かった。エンディング・テーマの“Between the Breaths”を毎日聴いて過ごした。『ネオン・デーモン』(ニコラス・ウィンディング・レフン)の無表情もたまらなかったし、『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ)も見収めないと年を越せない。
見逃して悔しい思いをしたのがジャームッシュの『パターソン』とバヨナの『怪物はささやく』。そう、『パターソン』を見てない。ベスト10を公表するのも憚られる。

高嶺剛の新作『変魚路』をイメフォに見に行き、折角なので特集で上映されていた『オキナワン ドリーム ショー』も続けて鑑賞。
『変魚路』は、『夢幻琉球・つるヘンリー』(1998年)と同じ系譜に連なる作品だと捉えている。
この『オキナワン ドリーム ショー』(沖縄の日本「復帰」前後あたり)が何度見ても素晴らしい。ソフト化も一切されておらず、公開される度に足を運ぶしかない。本当に何度でも見たくなる奇跡の風景映画。
「復帰」前後の、目に見えぬ混乱の渦巻く沖縄の何気ない日常をただただ凝視する映像、スローモーション処理、サイレントの上映形式(時折当時のラジオ音声や雑踏の環境音等が流れ出す)!様々な議論を形成する磁場を無自覚的に生み出した、非常にラディカルで、警察に劇場が包囲される程恐れられたといういわく付きの作品。誰でも生きてるうちに一回は見て損はない。
オープニングのスタッフクレジットに、“たかみねつよし”と書かれていた。各研究書で読み仮名が異なるのはこういうところが原因か。最新のフライヤーではデッカく“Go Takamine”だった。
特に印象的なファースト・カットについて少し紹介を試みる。
画面手前、赤い服を着た少年の無邪気な歩行に視線を奪われていると、右側通行の自動車がふいに現れる。間髪入れずに奥から歩いてくる四人の青年がその車両を両側から挟むようにゆったりとした所作で片手間に避けると、どこかで見たような太陽のマークを背負う業務用トラックがこれまた力強く現れる(ストローブ=ユイレの『早すぎる、遅すぎる』で土手の下からぬっと現れる水牛を想起)。上着を肩にかけたチンピラの無骨な歩みに一瞬気をとられた隙に、トラックから運転手が降り立つ。ハッとするもつかの間、先ほどの学生たちがいつの間にかカメラ手前まで到達していた事実の現前に衝撃が走る。最初の子供はどこへいった、と画面中を探すと、家族と共に楽しげに歩み続けていたようで、見上げた勾配のある道路の奥の方まで進んでしまったことに気付く。
一連の全ての動きが緩慢な速度で進行し、まるで画面全体が一つの巨大な生き物の微細な動きを観察しているような見方を強いられる。それが本当に素晴らしい映画体験、時間の体験になる。沖縄がついに映像史の文脈を自律的に立ち上げた、沖縄の映像を「とり戻した」記念碑的作品、とまで言われてるが、そう感じることに全く疑問を覚えない恐るべき作品。
終盤、ジョナス・メカスの『リトアニアへの旅の追憶』へのオマージュか、川平の実家にプライベートな視点でカメラが向けられ、そこからの映像も本当に美しいものばかり。牛舎に佇む牛の背の光沢なんてただ素晴らしい、何度も登場する父の顔なんて、いちいち涙せずにはいられない。
突然のハイビスカスのアップに、このからだの中にある沖縄へのステレオタイプ的なイメージに気付かされたり(まなざし返されている)。
右側通行の車がたくさん登場した後に現れる、国道沿いの犬の轢殺された遺骸にいてもたってもいられなくなったり。明らかに精神へ不調をきたしているように見える人間たちが歩き続ける姿。若者たちの服装や、米軍たちの私服姿、カメラへの態度の違いにかがよう違和感。とにかく風景は流れ続け、その土地の異形の景色が真に迫る強度で現前し、永遠に、どんな意味にも回収され得ない地点まで到達してしまう。これほど異様な体験、そうそう出来るものではない。都心でこの映画を観れたのもよかった。
映画館を出てから渋谷駅までの景色が、全て透明に見えた気がした。


2018/12/2

今年も残りわずかで、あと半年もしないうちに三十歳へと変身を遂げる。
想像していたような、半端かどうかも分からないほど輪郭のぼやけた姿のまま、二十代に幕を閉じる。
目につく色々な細かいこと、例えば人のずるさとか立場の不平等とか、そういうものに苛立つことが多くなった。年をとったら逆をいくと思っていた。
自分の平穏に生きる権利を主張することに見境がなくなった?
あんまり良くない状態の日もあれば、全部楽しい日がひたすら続く時期もある。不安定。
二十代前半の頃よりも精神力の浮き沈みは激しい。が、周りの同世代の方がもっと辛そうに見える日もある。

毎年、映画好きとその年のマイベスト10を発表し合って喋るのが好きで、というか愛好家の間では共通のしきたりであるということがなんとなく分かった。
本格的に映画を見る習慣がついた2012年から2016年まであらためて(ちなみに2017年の個人的ベスト1は『マリアンヌ』(ロバート・ゼメキス))。
対象の年に日本公開された映画作品(短編含む)であれば何でもランクインOK。古い映画をスクリーンで見た場合も、選んでOK。これはこの年の暮れに飲む約束をしている職場の映画好きたちと定めたルールで、様々な雑誌の識者たちによるベスト発表の基準が参考にされている。
もちろん10本からはみ出てもいい。自分の場合は、圏外でも印象深かったものは付け加えることを可とした。


◎2012年日本公開映画ベスト10
1、Virginia / ヴァージニア(フランシス・フォード・コッポラ)
2、戦火の馬(スティーブン・スピルバーグ)
3、J・エドガー(クリント・イーストウッド)
4、アウトレイジ ビヨンド(北野武)
5、ルビー・スパークス(ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス)
6、ファウスト(アレクサンドル・ソクーロフ)
7、ドライヴ(ニコラス・ウィンディング・レフン)
8、NINIFUNI(真利子哲也)
9、ザ・レイド(ギャレス・エヴァンス)
10、アタック・ザ・ブロック(ジョー・コーニッシュ)

この他にも『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』(増井壮一)、『先生を流産させる会』(内藤瑛亮)が面白かった。『JAPAN IN A DAY』(フィリップ・マーティン&成田岳)に不意を突かれ、胸が詰まった。


◎2013年公開映画ベスト10
1、三姉妹 雲南の子(ワン・ビン)
2、なみのこえ(濱口竜介)
3、かぐや姫の物語(高畑勲)
4、フライト(ロバート・ゼメキス)
5、先祖になる(池谷薫)
6、リンカーン(スティーブン・スピルバーグ)
7、ホーリー・モーターズ(レオス・カラックス)
8、映画「立候補」(藤岡利充)
9、ジャンゴ 繋がれざる者(クエンティン・タランティーノ)
10、ムーンライズ・キングダム(ウェス・アンダーソン)

この他にも『鑑定士と顔のない依頼人』(ジュゼッペ・トルナトーレ)、『フッテージ』(スコット・デリクソン)が面白かった。『ジンジャーの朝 〜さよなら、私が愛した世界』(サリー・ポッター)のエル・ファニングがとりわけ強く印象に残った。


◎2014年日本公開ベスト10
1、セインツ -約束の果て-(デヴィッド・ロウリー)
2、収容病棟(ワン・ビン)
3、ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!(エドガー・ライト)
4、SAFE HAVEN(ギャレス・エヴァンス)
5、超能力研究部の三人(山下敦弘)
6、グランド・ブダペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン)
7、シンプル・シモン(アンドレアス・エーマン)
8、ザ・レイド GOKUDO(ギャレス・エヴァンス)
9、ポール・ヴァーホーヴェン / トリック(ポール・ヴァーホーヴェン)
10、エスケイプ・フロム・トゥモロー(ランディ・ムーア)

この他にも『ホビット 竜に奪われた王国』(ピーター・ジャクソン)、『ジャージー・ボーイズ』(クリント・イーストウッド)が面白かった。『オッド・トーマス 死神と奇妙な救世主』(スティーブン・ソマーズ)に登場した怪物たちの造形に恐怖した記憶。


◎2015年日本公開ベスト10
1、アメリカン・スナイパー(クリント・イーストウッド)
2、ブラック・ハット(マイケル・マン)
3、神々のたそがれ(アレクセイ・ゲルマン)
4、黒衣の刺客(ホウ・シャオシェン)
5、マッドマックス 怒りのデス・ロード(ジョージ・ミラー)
6、マジック・イン・ムーンライト(ウディ・アレン)
7、フォックスキャッチャー(ベネット・ミラー)
8、きっと、星のせいじゃない。(ジョシュ・ブーン)
9、ヴィジット(M・ナイト・シャマラン)
10、映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜(橋本昌和)

この他にも『誘拐の掟』(スコット・フランク)、『ジョン・ウィック』(チャド・スタエルスキ&デヴィッド・リーチ)が面白かった。『サクラメント 死の楽園』(タイ・ウェスト)を見て数日ぐるぐる考え込んだ覚えがある。


◎2016年日本公開ベスト10
1、緑はよみがえる(エルマンノ・オルミ)
2、ザ・ウォーク(ロバート・ゼメキス)
3、ハドソン川の奇跡(クリント・イーストウッド)
4、オーバー・フェンス(山下敦弘)
5、山河ノスタルジア(ジャ・ジャンクー)
6、ダゲレオタイプの女(黒沢清)
7、ピートと秘密の友達(デヴィッド・ロウリー)
8、クリーピー 偽りの隣人(黒沢清)
9、ブリッジ・オブ・スパイ(スティーブン・スピルバーグ)
10、ブレア・ウィッチ(アダム・ウィンガード)

この他にも『ディストラクション・ベイビーズ』(真利子哲也)、『BFG』(スティーブン・スピルバーグ)が面白かった。『ヤクザと憲法』(圡方宏史)に圧倒された。


2019/3/20

2018年日本公開映画のベストテン。洋邦問わず。

第1位 30年後の同窓会 (監督:リチャード・リンクレイター、米、6月日本公開)
第2位 きみの鳥はうたえる (監督:三宅唱、日、9月)
第3位 A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー (監督:デヴィッド・ロウリー、米、11月)
第4位 15時17分、パリ行き (監督:クリント・イーストウッド、米、3月)
第5位 ライオンは今夜死ぬ (監督:諏訪敦彦、仏=日、1月)
第6位 ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ (監督:フレデリック・ワイズマン、米=仏、10月)
第7位 女と男の観覧車 (監督:ウディ・アレン、米、6月)
第8位 ロープ/戦場の生命線 (監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア、西、2月)
第9位 ワンダーストラック  (監督:トッド・ヘインズ、米、4月)
第10位 素敵なダイナマイトスキャンダル (監督:冨永昌敬、日、3月)

『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』は二度、劇場で見た。これからこの監督と同じ時代を生きれるのかと幸せな感慨に浸った。『老人と銃(仮)』も楽しみ。
『15時17分、パリ行き』、先輩が「本物の式典に出てる彼らと再現映像の彼ら、違うところを一つ見つけた。チノパンのポケットの数が違う!」と豪語していたらしい。目ざとい。イーストウッド不在となる信じがたい時代に向けて、イーストウッドが提示した新たな無名の英雄の姿を見た。
『ロープ/戦場の生命線』の特殊さについて、見た人がいたら話がしたい。あのだらっとした時間と、その場で起こっている悲劇の過剰なまでのすれ違いをなんと言ったらいいのか。
他にも、未公開のNetflix映画『アポストル 復讐の掟』(監督・ギャレス・エヴァンス、米=英、10月)と『風の向こうへ』(監督:オーソン・ウェルズ、仏=斯=米、11月)が面白かった。ギャレス・エヴァンスが作ったホラーゲーやりたい。脳ドリルは『アメリカン・スナイパー』のあいつと違って手動、ってところがやばい(開いた穴も見せちゃう)。ブラッドリー・クーパーの監督デビュー作『アリー/スター誕生』(米、12月)は、破滅を約束された二人が最初に成功を収める「Shallow」のステージに深く感動した。


(映画の好みに関してだけは、その順位を自己において明確にしたいという欲望あり)

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