氷上の奇跡、眩い五輪の記憶①

映画「ミラクル」は、1980年冬季五輪のアイスホッケーアメリカ代表が題材となっている。
2月が訪れると毎年の如く、無性にそのストーリーを追いたくなるのだ。

大学生で構成された米国代表チームが、当時、世界最強であり無敵を誇ったソビエト代表を、自国開催の五輪の舞台で打ち倒した「氷上の奇跡」が描かれている。指揮官であるハーブ・ブルックス(カート・ラッセル)が若きプレーヤーを徹底的に鍛え上げ、チームが一つにまとまっていく。スポーツドラマには有りがちな内容にも思えるが、実話を基に語られているだけに、時代背景や、試合描写が、物語に厚みを加えている。

1980年のレークプラシッド五輪では、大会前よりソ連が圧倒的な金メダル候補だったことに対し、アメリカは「恥をかかない」結果を求められていた。後に、永遠に語り継がれていく大会結果は、戦前にはまるで想像すらされていなかったことが、幹部同士のミーティングの中で綴られている。また、ソ連が当時のNHL選抜を大差で破っていたことや、五輪開催3日前に米国と試合を行うという、現在では考えられない事実も、この映画を観て知ることが出来た。他にも、直前までソ連がこの冬季五輪への選手派遣を決めかねていた様子も組み込まれていて、混迷を極めた冷戦時代を背景に、政治に塗れ、この数か月後に訪れる「世紀のボイコット」の予兆がしっかりと読み取れる。

2002年のソルトレークシティオリンピックの開会式、聖火最終点火者として、レークプラシッド五輪代表だったマイク・ウルジオーニ、そしてチームメンバーが姿を現しトーチを受け取っている。アイスホッケー競技金メダル獲得を願い、前年に発生した「9・11」で失墜した、アメリカの強さの復活への希望が託されていたことは明らかであり、揺るぎない「スポーツの力」を感じずにはいられない演出だった。

映画の中では、人物の表情も豊かに映し出されている。

ブルックスは、いくつもの「顔」を使い分け、選手の意識、意欲を高め続けた。大会中、スウェーデン代表との試合の最中、試合展開に不満を抱くと、控室で机をひっくり返したうえ、打撲で負傷したプレヤーに対しては、侮辱の言葉を敢えて投げかけ闘志を掻き立てるシーンがある。選手は殴り掛からんばかりに立ち上がり食って掛かるも、ブルックスがさらに上回る血相でぶつかり合うという強烈な「ドッグファイト」は、観ているものの気持ちさえ奮い立たせる場面となる。

反対に、宿敵となるソ連チームの監督、選手の表情は、終始、冷徹な顔つきが変わらず、まさに機械のような冷たさが伝わる。

だが、五輪4連覇中だったソ連も、激闘となった米国との準決勝の試合後、その無表情が崩れるシーンがある。一気に人間味が浮き彫りになる、隠れた見どころと言えるかもしれない。(佐藤文孝)

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