令和3年名古屋場所 失われた土俵上の風景

令和3年名古屋場所 失われた土俵上の風景

佐藤文孝

最後まで異様な雰囲気に包まれた場所となった。そして、その「異様さ」は、唯一人、綱の重みを背負う力士から発せられていた。

大相撲名古屋場所千秋楽、結びの一番は9年振りの全勝相星決戦となった。横綱白鵬対大関照ノ富士。今場所、6場所ぶりに千秋楽まで土俵に登り続けることとなった白鵬。対する照ノ富士は3場所連続での賜杯が目の前だ。負傷明けで進退を懸けていた満身創痍の横綱と、番付最高位昇進も確実となり、勢いに乗る大関。多くのファンは勝負の結果を想像するのは容易かったかもしれない。

しかし、土俵内容は凄惨さすら伝わるものとなった。
激しいにらみ合いの中、迎えた立ち合い。白鵬は左手を相手の目の前にかざすと、すぐさま体重を乗せた右肘でのかち上げを喰らわせた。照ノ富士の上体が衝撃で揺れるのがはっきりとわかる程の、横綱の「肘打ち」。立ち合いの一連の流れはさながら格闘技。「左手でサミングからの、右のエルボー」そう表現できるほど、あまりにも土俵が不釣り合いに見えた瞬間だった。

その後も、両者張り合い、胸を合わせて組み合っての攻防へ。白鵬はまわしを握っていた照ノ富士の右腕を抱え思い切り捻り上げように重心を移動させ、小手投げで照ノ富士の巨体を土俵に這わせた(最後、大関の右腕の関節が不自然な動きをしたようにも見えた)。

「勝ちへの執念」ともとれた、勝敗が決した直後の咆哮。拳を普り降ろし感情をあらわにする様子も含めて、やはり異様にしか映らなかった。

初日、横綱土俵入りの時から上体は大量の汗で覆われていたが、千秋楽まで変わらなかった。追い詰められたかのような険しい表情も隠すことは出来なかった。14日目の正代戦でみせた、仕切り線から大きく離れた立ち合いも物議を醸した。そして場所を通して、張り差し、相手の顔面を見舞う「打撃技」を繰り出し続けた。そして「15-0」という星取りも。

内面も外見も、何もかもが異様だった今場所の白鵬。テレビ中継の元横綱北の富士、元幕内舞の海の、その立ち居振る舞いについてのあきれた声は、途中から「あきらめ」にも似たエッセンスが混じり始めていた。

病み上がり、引退覚悟で臨んだ場所を無敗で最高優勝を果たした横綱。対抗馬は照ノ富士一人だった。他の大関陣は皆勤を果たした正代は千秋楽でかろうじて勝ち越しを決め、貴景勝は序盤で休場、さらに横綱に次ぐ地位は来場所からはこの二人のみとなる事も確実となった。

9月に迎える秋場所に向けて、大相撲の楽しさが膨らんでいくのかどうかがわからなくなるほど、なんとも複雑な結末となった令和3年名古屋場所だった。(佐藤文孝)

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