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「お前、俺の名前を言ってみろ!」

俺はヘルプで呼ばれただけなんだ。
酒の場で食べ物を注文し、グラスが空いたらすかさず注ぐ。
それが俺の役目のはずだった。
だが、目の前いる酔っ払いが俺に絡んでくる。
面倒なのは、こいつが取引先の社長ということだ。

「お前、俺の名前を言ってみろ!」

目の前の泥酔した男は、血走った目で私を見ている。

確か、名字が「新里」というのは覚えている。
だが、下の名前が出てこない。
仕方がない、わかる範囲で答えてみよう。

「新里社長です」

「下の名前は?」

酔っ払っている割には、しっかりしている。
誰か助けてくれないか?
周りの同僚に目配せするが、誰も目をあわせてくれない。

同席している営業部長をみるが、動く気配がない。
絶対、名前知ってるだろ?

助けが入らない中、知らないものを考えてもわかるはずもない。
正直に謝ろう。

「申し訳ありません。お名前を存じ上げておりません」

「お前!!俺の名前を知らないとは、なめてるのか!!」

社長は怒りに満ちた目で私を罵倒し始めた。

「だいたいな俺の名を知らないとは、✕✕✕で、✕✕✕の、✕✕✕✕✕だ。貴様のようなやつは✕✕✕✕✕うえ、✕✕✕にして、✕✕✕✕✕✕✕やるぞ。なめんじゃねーぞ!この✕✕✕✕✕が!!お前なんてな俺の✕✕✕を✕✕✕すれば、✕✕✕に✕✕✕✕出来るんだからな!この✕✕✕✕✕が!!」

怒りのボルテージがどんどんあがっている。
酔っているせいもあるが、もはや何を言っているかわからない。

「申し訳ありません」

「誠に失礼しました」

「おっしゃるとおりでございます」

謝罪の言葉を重ねて、社長の怒りが収まるのを待った。

「いいか!!俺の名前は、ひろゆきだ!!覚えとけ!!」

そう言って、社長はグラスの酒を一気に飲み干した。

「さっさと、注げっ!!」

「はいっ!!」

急いで社長のグラスに酒を注いだ。
喋りっぱなしだったため、酒を入れて少し落ち着いたようだ。
新たに注がれたグラスを片手に、社長は次のターゲットを探すように目をギョロギョロさせている。

「おい、お前!!」

後輩の石川が次のターゲットに選ばれた。

「お前、俺の名前を言ってみろ!」

えっ!!
会場はスッと静まり返った。

石川は言っていいの?という表情で、恐る恐る答え始めた。

「新里………ひろゆき社長です」

新里社長は目を見開いて、石川を見た。
血走った目が怖い。

「そうだ!新里ひろゆきだ!!」

そう言うと、社長は再び私の方を見た。

「お前だけか!わからんのは!!」

正解したはずだが、なぜか再び説教が始まった。

「貴様は✕✕✕で、✕✕✕で、✕✕✕✕✕✕だ。よく今まで✕✕✕✕✕✕✕。お前のような✕✕✕✕の✕✕は、✕✕✕✕だけで✕✕✕✕だ。この✕✕✕✕✕✕✕が!聞いてんのか、✕✕✕✕✕!!さっさと✕✕✕✕✕✕!」

矛先が再びこちらを向き、石川はすまなそうな顔をして俺を見ている。
周りは誰も止めに入る様子がない。

今日の俺は不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまったぜ。

***

翌朝、私は営業部長に呼び出された。

「昨日は申し訳ありませんでした」

本意ではないが、私は先に頭を下げた。

「いや、こちらこそすまなかった。新里社長はいつもあんな感じなんだ」

「いつも?」

「酒癖が悪くてね。何かと絡んでくるんで、昨日は高宮君が相手をしてくれて助かったよ」

「しかし、だいぶお怒りのようでしたが?」

「翌朝には忘れてるから問題ない。社長にとって、酒の場はストレス発散の場所なんだよ」

「ストレス発散?ですか?」

「大口の取引先だから、定期的にガス抜きに協力してるようなもんだ。また来てくれたら助かるよ」

昨日、営業部から突然誘われた理由はこれか。
若手がいないから助けてくれという話だったが、要は生け贄として、他部署の俺と石川が差し出されたわけだ。

営業部の✕✕どもが!!

少なくとも、石川に被害が及ばなくてよかった。
あの社長は、いつか俺が✕✕✕✕✕やる!
お前ら営業部も絶対に✕✕✕を✕✕✕やるからな!!

と心の中では思いつつ

「はい、私で良ければ次も誘ってください」

と笑顔で営業部長に媚を売った。
あの社長が言うように、本当に俺は✕✕✕✕✕だ。

ギブミーマネー!ギブミーチョコレート!!