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渚に重なる記憶

社会人になって初めての夏に、同僚の男4人で海に遊びにきた。

全員彼女はおらず、女っ気もない。
海に行けば、水着の可愛い女性と知り合える。
そんな淡い期待を持っていた。

水着に着替えてビーチに立つと、自分達の肌の白さが際立つ。
この場所には、黒い褐色の肌こそ相応しい。
だが、全員が痩せ細った体のため、例え日焼けサロンで焼いたとしても、カッコ良くは見えなかっただろう。

私達が訪れたビーチには、たくさんの女の子が遊んでいた。
だけど、シャイな私たちは声をかけることが出来なかった。
ちっぽけなプライドが邪魔をして、一歩踏み出す勇気がなかった。

海で泳いだ後、男4人でビーチに並んで座った。
今年もいつものように、夏が終わることを寂しく感じた。

 * * *

社会人になって3年目の夏に、同僚と男2人で海に遊びにきた。

友人達に次々と彼女が出来て、焦っていた。
海に行けば、水着の可愛い女性と知り合える。
そんな淡い期待を持っていた。

水着に着替えてビーチに立つと、外回りで焼けた顔と腕の黒さが目立つ。
日の当たっていない上半身は真っ白で、服を脱ぐとパンダを連想させた。
2人とも白い体をラッシュガードで隠し、褐色の腕だけを露出してカッコ良く見せかけた。

私達が訪れたビーチには、たくさんの女の子が遊んでいた。
営業で鍛えた私たちは、積極的に女の子に声をかけた。
ちっぽけなプライドを捨て、振られても次々と踏み出す勇気を持ち合わせていた。

海で泳いだ後に、男女4人でビーチに並んで座った。
今年はいつもと違い、夏が始まる予感を感じた。

 * * *

彼女が出来て初めての夏に、2人で海に遊びにきた。

彼女との初めての旅行に、緊張していた。
海に行けば、水着姿の彼女が見られる。
そんな淡い期待を持っていた。

水着に着替えてビーチに立つと、肌の白さが気にならなくなっていた。
この場所には、黒い褐色の肌こそ相応しい。
そんな、女の子にカッコいい姿を見せたい、という焼けた肌への憧れが消えていた。

私達が訪れたビーチには、たくさんの女の子が遊んでいた。
このビーチにいる女の子の中で、彼女が一番可愛いと思った。
勇気を振り絞って彼女に告白をした、過去の自分を讃えた。

海で泳いだ後に、彼女と2人でビーチに並んで座った。
今年はいつもよりも、夏の暑さを心地よく感じた。

 * * *

結婚をして5年を経た夏に、家族4人で海に遊びにきた。

子供達は初めて見る海に、興奮している。
海に行けば、子供達の笑顔が見られる。
そんな淡い期待を持っていた。

水着に着替えてビーチに立つと、幼い息子のお尻から不穏な香りを感じた。
この場所に、黒い褐色の物体がある。
そう確信した私は、急いで息子を連れてトイレへと駆け込んだ。

私達が訪れたビーチには、たくさんの家族連れが遊んでいた。
私は子供達が波にさらわれないように注意しながら、波打ち際に連れていった。
子供達は勇気を出して海へ入る一歩を踏み出したが、転んで大泣きしてしまった。

海で遊んだ後に、家族4人でビーチに並んで座った。
今年はいつもよりも、夏が終わることを寂しく感じた。

ギブミーマネー!ギブミーチョコレート!!