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【映画評】環境破壊の警鐘、あるいは環境支配の宣言『ツイスターズ』

 オクラホマで大型竜巻が頻発し、調査研究のためにニューヨークで働くケイトが招かれる。渋々同行する彼女には大学時代、竜巻研究中に友人たちを亡くした過去がある。同じ頃、無謀な竜巻撮影で有名な映像クリエイターのタイラーたちも現地入りしていた。

 『ツイスターズ』は1996年の『ツイスター』の28年ぶりの続編。前作で命懸けで設置した「ドロシー」を冒頭で学生たちが易々と設置していて、あの苦労は何だったのかと思ってしまった。それだけ技術が進んだということか。

 頻発する大型竜巻は、明言されないが近年の世界的な異常気象と、その原因である環境破壊を示唆している。それに対して警鐘を鳴らすのかと思いきや、巨大竜巻をあっという間に消滅させるテクノロジーを終盤に持ってきて、自然環境はやっぱり人間が支配できるもの、コントロール可能なものだと見せかける。その幻想の煽りを受けるのは実際に家屋を壊され、家族を失う一般市民なのだけれど。その何がなんでも支配してやろうという姿勢に、温存された帝国主義が透けて見える。

 前作は破綻寸前の夫婦が竜巻調査を通して関係を回復する物語だったが、本作は恋人を失ったケイトが立ち直り、新しい恋に踏み出すかどうかの物語になっている。その答えが最後の最後まで引っ張られるので、ロマンス不要派の私はずっとハラハラしていた。28年ぶりの続編でも、異性愛規範からは残念ながら離れられなかった。

 一見軽薄で低俗なタイラーたちが実はそうでなく、社会貢献に熱心なハビたちにこそ裏の顔がある、という逆転は面白い。けれどそこが深掘りされることはなく、結局前者が善、後者が悪という二項対立に落ち着いてしまう。実際にはタイラー側にも褒められない点はあるはずだし、ハビ側にも利益を越えた社会貢献の側面があるはずなのに。

 本作のようなエンタメ作品は、度肝を抜く映像と、腹に響く音響で観客を2時間ジェットコースターに乗せるのがメインの目的かもしれない。「映画館を出たら忘れてしまうポップコーンムービー」とか、「何も考えずに見られる娯楽大作」とか言われる所以だ。けれど映像と音響にこれだけ予算と時間を注ぎ込めるのだから、人間ドラマにだって力を入れられるのではないだろうか。『トップガン:マーベリック』以降、出演作が目白押しのグレン・パウエルの自信満々な笑みと整った白い歯を見ながら、そんなことを考えた。

 『ツイスターズ』は8月1日(木)より公開中。

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