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「子どもを守る」という大義名分が覆い隠すもの

 世界的な児童人身売買をテーマにした映画『サウンド・オブ・フリーダム』が9月27日から上映されている。ティム・バラードという実在の人物を描く半自伝的作品で、制作はメル・ギブソン、主演はジム・カヴィーゼル、スタジオはAngel Studios。米保守右派と米キリスト教福音派とQアノンを混ぜたような布陣だ(三者の境界は近年曖昧になりつつある)。

 本作が巧妙なのは、実際に児童人身売買が世界規模で行われており、ティム・バラードが設立した Operation Underground Railroad がその撲滅のために活動してきた事実を描いている点だ。それ自体に虚偽はない。けれど同組織の活動は以前から問題視されており、代表だったバラード(解任済み)もセクハラ等で告発されている。映画はかなり脚色されエンタメに寄せられているが、そうした背景を知らないと、バラードを孤高の英雄だと思ってしまう。

 そのあたりの背景はこちらのブログが詳しいので参考にしてほしい。

 私は上記の前情報なしに試写したが、いくつか違和感を覚えた。バラードの行動が英雄すぎてもはや異常に見える点や、悪人たちがステレオタイプにすぎる点、エンドロール中にQRコードが表示されて募金を促される点(映画史上初では?)など。全体を通して、バラードがやけに礼賛されているなとも思った。

 余談だが、バラードが帰宅して大勢の子ども(実子は7人)に迎えられるシーンを見て正直ゾッとした。多産DVでは? と思ったのは偏見がすぎるだろうか。

 本作は現実の人身売買と、キリスト教信仰と、Qアノン的陰謀論をミックスしている点で罪深い。「子どもを守る」という大勢が賛同するだろう大義名分を都合良く利用している。これを見て義憤に駆られて、募金する人がいるかもしれない。しかしそのお金が陰謀論者に流れるリスクは低くない。

 本作を無批判に紹介する日本のキリスト教系団体もあるが(そもそも日本に情報が入ってこないのも問題だが)、そういったリスクに対して無頓着すぎるのではないか。同じクリスチャンとして悩ましく思う。

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