見出し画像

『虎に翼』の感想まとめ

 Threadsに投稿した『虎に翼』の感想が結構な数になったので、見出しを付けてここにまとめておく。

いなかったことにされるマイノリティ

 轟さんが「俺たち(同性カップル)の存在はなかったことにされる」と言っていたけれど、「当時はオープンなゲイカップルなどいなかったはずだから時代考証的におかしい」みたいなクレームが番組に付いたそうで、やっぱり轟さんの予言通りになってるじゃんねと思った。

地獄を選ぶ

 寅子さんとよねさんがそれぞれ別の場面で「どの地獄で戦うかは本人が決めること」と同じ台詞を使っていて感慨深い。働く女性なら社会の女性差別に対して声を上げるべき! セクマイならセクマイに対する偏見や差別に抗うべき! みたいに戦うフィールドを勝手に決め付けられるのも違うのよね。

キルジョイするフェミニスト

 よねさん、皆が盛り上がってる時にひとり水を差したり指摘したり怒ったりをずっと貫いていて、サラ・アーメッドが提唱する「フェミニスト・キルジョイ」の実践者だとずっと思っている。

選択肢が奪われないこと

 百合さんが「初給金が入ったら皆さん(家族)にウナギをご馳走したい」旨を言ったら「それじゃ自分のためじゃないじゃん」と突っ込まれたけれど、すかさず寅子さんが「それも自分のためなのよ〜」と弁護したのが良かった。「みんなにご馳走する=自分を犠牲にする」では必ずしもないし、「自分が自由に使えるお金=自分のためだけに使うお金」でもなくて、「選択肢が奪われない」ことが大切なのよね。

伏線がすごい

 『虎に翼』は伏線を張り方がすごい。156話で朋一さんが「家具職人になる」と突拍子もなく言い出したように見えたけれど、135話で星家で新しい棚を作る話になった時、朋一さんは(それまで寅子たちに無関心だったのに)前のめりになって手伝いを引き受けていたし、百合さんからも「壊れた網戸など簡単に直してしまう」と職人的才能があることを認められていた。ひとりひとりの人生がちゃんと考えられているドラマよね。

 同じく伏線話で、中途半端に終わって見えた新潟の美佐江さんのエピソードが、終盤にきて数十年越しに東京で語り直されるのもすごい。「怪物扱いしたことで彼女を本当の怪物にしてしまった」と述懐する寅子さんの、美佐江さんに対する(おそらく数十年背負ってきた)懺悔の気持ちも切ない。だからこそ娘の美雪さんのことは絶対に諦めない、という覚悟も。

 ちなみに美雪さんはたぶん、母(美佐江さん)の行動を強迫的に模倣しつつ、同時に限界も感じていたのでは? と思う。「自分は特別な存在でなければならない」という母由来の願望が、かえって彼女を蝕んでいたように見えた。

何者にもならなくていい

 最終週、優未さんは「やりたいことが沢山ある」「何にでもなれる」と語って、様々なことに兼業的に取り組む人生を選んだけれど、これは母(寅子さん)の「何者かになる」ために戦う人生がドラマ全体を通して肯定されてきたのに対して、「何者にもならない」こともまた人生なのだ、と肯定するためだったのかなと思う。

 実際多くの人は(特に女性は)寅子さんのように一つの道でキャリアを積み上げることがまだまだ困難なので、彼女のような人生だけがロールモデルや理想として掲げられてもキツいものがある(もちろんそれが掲げられる必要もある)。その点でも、様々な生き方に目配りした、愛に溢れるドラマだったと思う。

※一つの道でキャリアを積み上げることが「何者かになる」ことだ、という価値観自体が解体される必要もあるとは思う。

『虎に翼』ロス対策

 『虎に翼』が終わっても、ちょっと驚いた時は心の中の航一さんが「なるほど」って言ってくれるし、余計なこと言うんじゃねーよ! と思ったら心の中のよねさんが「黙れ!」って言ってくれるし、ちょっと待てよと思った時は心の中の寅子さんが「はて?」って言ってくれるから生きていけそう。

 私のThreadsアカウントはこちら。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?