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「どうみん割の乱」に関する顛末を記録しておきます。

 国を挙げてのGoToキャンペーンを前に、北海道内での観光を促進しようという「どうみん割」が6月28日に発売となりました。開始数十分で売り切れてしまった、などというニュースが流れています。事業概要が出てからまだ3週間という事が信じられないほど、この短い期間に色々な事がありました。関わってくださった方が多かった事も踏まえ、ことの顛末を記録しておおくことにします。

声を上げた経緯

 どうみん割では、「アウトドア体験」も該当になるらしいという噂を聞いていました。旅行業法の中で観光業と定義付されているのは宿泊、運輸、飲食観光のみで、立ち寄り施設や体験型観光はどこにも位置付けられていないという状況の中、さすがアウトドア振興条例のある北海道だ、と思いました。これまでの私たちの主なお客様は、道外、海外が主だったため、改めて道内の方に訴求する良い機会だと感じました。これまでの復興割は冬季が多く初めて該当しそうな事、GoToキャンペーンが動くのは秋以降になりそうという事、経営的にも本当に大変だった事から、珍しく期待しながら情報を待っていました。

 でも事業概要が出てみると、カヌー、トレッキング、山登り、ラフティング、ホーストレッキングというジャンルの中で、北海道が認定するアウトドア資格を持った人のみが対象とのことでした。条例も資格制度も画期的なもので、これがあったからこそアウトドア体験が助成の対象として議論に上ったというのは事実です。ただ、制定から20年が経過し、多様な体験事業者が生まれた今、時代に即した更新がされていない制度を根拠にコロナ施策が行われるという事に関しては納得がいきませんでした。

 こちらも余裕があればそこまで感情的にならなかったかもしれません。でも、このような緊急事態に突然資格制度を持ち出してくる安易さに驚きあきれましたし、体験型観光の存在を軽く見られてはたまらないという思いもあり、私は納得できるまで情報を集めてみることにしました。

※改めて条例文を読むと、素晴らしい理念に感動すら覚えました。

6月13日(金)

 夕方、私は社員3人とオンラインミーティングをしていました。その時、地元の観光協会から、農業体験は該当しないらしい、大丈夫か?と情報をもらったのです。いや…大丈夫ではありません。

 役所が締まる前にと、打合せを中断して担当の北海道観光局に確認の電話をしました。もう決まったことだという説明しか受けられず、とにかく、なぜそのように決まったのか教えて欲しいこと、他の体験へも対象拡大すべきという事を伝え、16日(月)に状況の連絡をもらえるとのことで電話を切りました。(ちなみに、この回答は今現在も頂いていません…)

 箸にも棒にもかからない回答だったので、この後どう動くべきかわからず、私はアドバイスを求めて先輩たちに電話をかけ続けました。その時の行動と、自分の意見をまとめたものをfacebookに投稿したのは、その日の夜20時頃だったと思います。子どもたちはお腹を空かして待っていました。

 反応の早い何人かがコメントを入れてくれたり、シェアしてくれたりしました。共感者がいることに安心しました。

6月14日(土)

 朝起きてコメントに返信をしたら、何だか様子がおかしい…。もう一度開こうとしたら、なぜか記事が消えていました。テキストを別に保存していたので、再掲。こんなことは初めてだったので、何だか不気味に感じました。週末にも関わらず、たくさんの人が反応し、動いてくださいました。シェアはこの日だけで80にも上りました。(6/25現在で101)

 どうみん割の対象になる、北海道が認定するアウトドアガイド有資格者と、無資格者(そもそも農業体験のジャンルはない)の分断を生みたくなかったので、有資格者にも協力を呼び掛けました。行政から出されていた有資格者向けのアンケートに、多くのガイドたちが対象拡大について意見を書いてくれました。

 この日会社に、南富良野まちづくり観光協会の小林さんという方から連絡がありました。なかなか折り返しの電話をできずにいたら、facebookのコメントが入りました。何だか熱い人だなと思いました。電話をすると、僕はこう動くよ!と、想像通り熱い話。私に対してこうしたらよいとか、一緒にやろうとか言うわけではなかったのが新鮮でした。私の投稿をシェアするために、facebookのプロフィールに顔のわかる写真を入れたという話が強く印象に残っています。電話口で、大学の先輩だと知りました。後輩が声を上げたのを見て、居ても立ってもいられなくなったのかもしれないと、嬉しく思いました。

6月15日(日)

 次の日から、小林さんは毎日どうみん割の件について自分の言葉で発信しています。文章を書くという事は大きなエネルギーを要します。賛否が分かれるようなことに対して意見を書くときは、特に。自分の言葉で公に発信をしてくれる人がいるのは心強いことでした。

 小林さんに続けと、全道の事業者には地域の観光協会から要望書を出してもらうように動こうと呼びかけました。それまで、自分で仲間を集めて要望書をまとめようと思っていたけれど、それはやめることにしました。

5月16日(月)

 朝一で、私は地元の観光協会に電話をしました。事態をよく理解していた事務局長はすぐに動いてくれ、その日のうちに帯広観光コンベンション協会と十勝観光連盟の連名で十勝総合振興局に要望書を提出してくれました。感謝しかありません。南富良野町と十勝のほか、オホーツクでも要望書が提出されました。

6月17日(火)

 この日は北海道議会でした。複数の議員さんがこの件に関して質問を用意されていると聞いていました。異例の事だったかもしれません。その結果を踏まえた発表があると聞いていました。予定時間を過ぎて公開されたのは、従来の計画と変わりのない仕様書でした。

 その時、事務方では前向きに動いているという情報も入っていました。でも私は、個人として積極的に動くことを、この日で辞めることにしました。思っていたよりも事態が大きくなり過ぎて、私一人では抱えきれない状態になっていました。北海道のガイドを救う事は、私には分不相応なことです。要望書は観光協会にお任せし、様々な方が動いてくださって事態が動き始めた状況において、私が先頭に立って行動する必要性はないと判断しました。

 その日、「どうみん割の対象施設となるのは諦めます」とfacebook投稿をしました。実際は、”諦める”という表現は適切ではなく、事態を見守ります、と言いたかったのですが。やるべきことはやったので、後は期待せずに待つだけ、という気持ちでした。

その後

 結果的に、旅行代理店やインターネットの体験予約サイトを通せば、体験単体でも対象になるという事になりました。非常に画期的な事だと思います。でも、あくまでアウトドア(屋外)のみ、ガイドが終始同行するツアーのみなど、よくわからない基準で線引きされることになりました。明確な基準がない中でひとつひとつ判断しなければならない道職員の方も気の毒に思えてきました。全ての事業者が最低限生き残ることができる施策が行われていれば、こんなややこしいことにならなかったのに、と思います。

 その後、宿泊のどうみん割が発売されましたが、一瞬で売り切れてしまい、今回の予算があまりに少ないものであったという現実を知りました。私の立場において声を上げたことは間違いではなかったと思っていますが、そこまで少ない予算、そして何等か線引きをしなければならない状況であったのであれば、「申し訳ないけれど今回は有資格者だけにさせてもらいます」と言ってくれればそれで良かったのに、とさえ思います。経緯も知らされず、冷たく、あなたたちは対象外ですから、と言われたのが悲しかったわけですから。

これから

 騒ぎが起こってから、ちょうど3週間が経ちました。対象に入れて頂くことはできましたが、契約している旅行会社が申請に通るか、どの程度の予算枠をもらえるのかは、まだわかりません。販売開始は7月10日以降と聞いています。そもそも全体予算が足りない中なので、もう期待はしていません。おかげさまで、秋以降の修学旅行のお申込、お問い合わせをいただいています。夏の個人のお客様のお申し込みはパラパラ…という感じなので、前年比2割来れば良い方でしょう。今回の助成制度によって、旅行しても良いのだな、という機運が高まったのは良かったと思っています。

 コロナは誰のせいでもありません。これからもこのようなウィルスは発生するでしょう。ただ、行政の動きによって必要以上の自粛を迫られ、私たち民間事業者は大きな影響を受けました。感染拡大防止は大切ですが、同時に経済活動も命に関わる重要な事です。雇用調整助成金は従業員が対象なので、当然ですが経営者の給与は対象になりません。持続化補助金200万円は、固定費がかさむ会社にとっては微々たる額でしかないでしょう。将来の負債を増やし過ぎるのも考え物ですが、今が成り立たなくては未来がありません。

 限られた予算である事は理解しますが、この非常事態の中、必死に生き残ろうとしている全ての中小企業の経営者に、温かい眼差しを頂ければと切に願っています。

 また新たな体験プログラムの創出に大きな予算が出るようです。そんなことより、観光地で感染者が出た場合の対策や修学旅行のキャンセル料補助など、地道だけれど大切な土台の部分にしっかりと予算を使って頂きたいものです。助成制度がなくても、お客さんが安心して来てくれるようにさえなれば、私たちは勝手に体験型プログラムを作りますので。

おわりに

 最終的に、肩透かしのような形になってしまった、どうみん割の乱。たくさんの方が動いてくださり、主張がある程度認められたにも関わらず、結局は予算がなくてほとんど恩恵がない(だろう)という状況になってしまいました。

 それでも私は、今回声を上げて良かったと思っています。

 このような形で自分の意見を主張したのは、初めての事でした。実際に動いてみて、社会の仕組みが理解できたのは、本当に良い勉強になりました。40を前にして遅いかもしれないけれど、”大人の世界”(?)というものが少しだけわかりました。次はもう少しスマートに動けそうな気がしています。

 怒って良いとわかったことも、これからの私の人生を変えそうです。世の中を動かしている人たちは、私が思っているほど物を知らないのだと気が付きました。当たり前です。専門家ではないですから。だからこそ、その道に詳しい人の話を聞きながら、きちんとした手順を踏んで進めて頂く必要があります。それが成されていなかったり、間違っていたりした場合は、きちんと伝える責任が、私たちにもあると思います。行政とは程よい緊張感の中で関わらなければならない、という理由がよくわかりました。

 GoToキャンペーン、どうみん割の他にも、各市町村で独自の施策が進められています。体験型観光も対象になった地域がいくつかあるようです。今回の動きのおかげだと連絡を下さるガイドさんもいらっしゃいました。帯広でも、予定していた制度を改善して対応して下さると聞いています。今回の動きの成果としては充分だったと思います。

 何より嬉しかったのは、この会社に入って良かったと、社員に言われたことです。今回の事態で悲しい気持ちになったのは、私だけではありません。誇りを持って働いている社員たちもまた、農業体験は北海道の観光にとって重要ではないと言われたように感じて辛い思いをしていました。その思いを共に持ち、声を上げてくれるリーダーがいるという事を心強く思ってくれたのだと思います。このためだけにでも、私は声を上げて良かったと思っています。

 色々と課題も見えましたが、最終的には、北海道の体験型観光の存在価値を皆さんに感じて頂くことにつながりました。これも、アドバイス下さった先輩たち、共に行動して下さった皆さんのおかげです。心から感謝しています。

 お騒がせ娘…を卒業して、頼れる先輩になれるよう、精進していきます。未熟者ですが、これからも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

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