【To LuckyFes2023①】LuckyFesの特異性と、地方ラジオ局が作る「フェス」

茨城県ひたちなか市にある国営ひたち海浜公園にて開催される「LuckyFes2023」が近づいてきたので、約1年間LuckyFesやフェスについて考えてきたこと・感じてきたことなどについて連載してみようと思います。

※アーティスト名・パーソナリティー名は敬称略
※今回の記事は、筆者がSKY-HIの活動を長年追っているということもあるため、SKY-HIの話題がとても多いです。LuckyFes2年連続出演のSKY-HIをより深く知っていただくきっかけになると嬉しいです


LuckyFesの特異性

日本におけるよく知られるフェスの主催は、

①音楽雑誌媒体派生系(ROCK IN JAPAN FESTIVAL(以下「ロッキン」)、VIVA LA ROCK(以下「ビバラ」)など)
②音楽プロモーター・イベンター系(FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONICなど)
③アーティスト企画・主催系(イナズマロックフェス、京都大作戦など)
④放送媒体(ラジオ局・テレビ局・テレビ番組など)系
⑤個人・団体(地方の商工会議所や有志、芸能・音楽事務所など)系

などに分類される(※なお、分類に関しては、上記以外にもたくさん存在するため、今回は筆者の独断で分類した)。

LuckyFM茨城放送(以下「LuckyFM」)が主催するLuckyFesの場合、分類としては④に該当すると思うが、他のフェスにはない「特異性」を抱えているがゆえに、どうしても立ち位置上難しいフェスである。

ロッキンの中止・移転という歴史・出来事が背後にあり、ロッキンと同じ国営ひたち海浜公園で開催することで従来のフェス好きの方々からの比較(人によっては嫌悪)の対象にならざるを得ないからである。

ビバラの発起人である音楽ジャーナリストの鹿野淳氏の対談の中に印象的な言葉があった。

鹿野:今はフェス側が強いものになっているから、フェスが簡単に権威になれるんです。でも、フェスが政治の現場になっちゃうとアーティストが遊べなくなるんだよね。アーティストが「ここはこういうことを言っちゃいけない場所なのかな」とか「これはやっちゃマズいかな」とか思うようになっちゃつまらない。そのためには、フェス側は単に無邪気でいればいいって話じゃなくて、ビジネスをちゃんとやって、その上で音楽にフィードバックしていける仕組みを作る。それが今試されている時期だなと思います。

ロックフェスにとっての「成功」とは何か? 茂木洋晃×鹿野淳対談 | CINRAより引用

LuckyFesの場合、「ロッキンの移転」というあまりにも大きすぎる事実が存在する以上、鹿野氏が言う上記のような雰囲気をフェス側が主体的に出すことは極めて難しいのではないだろうか。むしろ初開催に向けてはフェス側がアーティスト側にフェス開催の事情に関して相当の理解を求めた上で出演に至っているはずである。

SKY-HIのアフターステージコメントの「まじか」という言葉が、アーティスト側のLuckyFes開催への率直な感想だと思う。

様々な事情を踏まえて考えても、昨年の初回に出演したアーティストのMCやパフォーマンスは本当に素晴らしかった。

例えば、「のびしろ」を披露し初開催のフェスにエールを送ったCreepy Nuts。ただただ気持ちよくパフォーマンスをし、目の前の観客を楽しませていた多数のアーティスト。そして、初回だからこそ出演を引き受けMCで「じゃあ、あんたがやりな」と、フェス前に起きた炎上に対しての見解をちゃんと言葉で発してくれたBRAHMANのTOSHI-LOW。

2回目となる今年のLuckyFes出演を決めてくれたアーティスト達も、きっと素晴らしいパフォーマンスを披露してくれるに違いない。

地方ラジオ局ならではのフェス作り

レギュラー番組のパーソナリティーを務めるアーティストが多数参加

LuckyFMには、茨城出身もしくは茨城にゆかりのある音楽アーティストがパーソナリティーを務めている番組が多数存在する。この1年の間に、番組パーソナリティーを務める磯山純、マシコタツロウ、安達勇人、宇宙まお、KEN EBISAWAなどのライブやイベントに参加したが、どのアーティストも多くのファンやリスナーから愛されており、どの現場も温かい雰囲気が形成されていた。そんなパーソナリティー達にフェスへの出演を依頼することは、リスナーに支えられているであろう地方ラジオ局が主催するフェスとしてのひとつの「正解」だと感じる。

フェス出演が決まった時の気持ちを素直に表していたパーソナリティー達が印象的だった。

声優、タレントとして活躍する加藤里保菜の、フェス出演への喜びを爆発させるツイートには見ているこちらも思わずグッときてしまうものがあった。

ロッキンへの複数回出演歴がある宇宙まおの、ライブ共演などで縁のあるメンバーが在籍するAMEFURASSHIと一緒のフェスに出演することに対してのツイート。アーティスト同士が音楽を続けていることで、また再び巡り合うことができる場ができるのもフェスの醍醐味ではないだろうか。

アーティストのプロモーションの場のひとつであるラジオ局とリスナーとの関係

LuckyFesのように、フェス開催のノウハウがないラジオ局がフェスをイチから立ち上げようとなった場合、アーティストと太いパイプ・関係性がある上記分類①~③主催のフェスと比べてアーティストのブッキングには相当苦労するのではないだろうか。

であれば、RADIO BERRY FM栃木のベリテンライブのようにアーティストと丁寧に良好な関係を築きノウハウを重ねることで、「よいフェス」に育てていけばよい。BRAHMANのTOSHI-LOWが言っていたように、「最初から100点満点のフェスなんてない」のである。

そして、ラジオ局には分類①~③の主催とはまた違う「強み」がある。

ラジオはアーティストにとって、大きなプロモーションの場のひとつである、という「強み」である。

ラジオの重要性をSKY-HIはNIKKEI STYLEの中で以下のように語っている。

僕自身がヒップホップ育ちで、ヒップホップとラジオってめちゃくちゃ密接な関係にあるのもあり、特にラジオという文化は好きなんですよね。数年ほど前まで少し元気がなかった時期もありましたが、『radiko』の拡充でまた復権しているのかなと思うんです。

(中略)

ラジオを大事にした理由は3つあって、その1つは、ラジオは『偶然の出会いを生めるメディア』だからです。ラジオ番組に1度出演すれば、何千人、何万人の『初めてBE:FIRSTを聴く人』を生み出せるんです。自分もソロでのメジャーデビュー当時は『ラジオでかかることを意識して作った』と話し、手紙を書いたりもしました。積極的に地方局の番組にも出るようにしていました。

SKY-HI 僕がBE:FIRSTのラジオ出演を大事にする理由 - 日本経済新聞 (nikkei.com)より引用

ラジオを大事にするSKY-HIが育成するBE:FIRSTだからこそ、LuckyFMとBE:FIRSTのファン「BESTY」は本当によい関係を築いてきた。BESTYが熱心に番組にリクエストをするからこそLuckyFM側もその熱に応え、その「熱」はLuckyFMの様々な番組のリスナーにも伝わっていて、リスナーの多くがSKY-HIやBE:FIRSTのことを知っている。そんなSKY-HIがLuckyFesに2年連続出演するのは納得でしかないと個人的には思っている。

また、番組へのコメント出演・ゲスト出演を何度も行うアーティストは他にもたくさんいる。ラジオ局ならではのやり方で築き上げた「縁」を活用してアーティストのブッキングを行えば、おのずと「よいフェス」になるのではないだろうか、とLuckyFesとLuckyFMに触れることで感じるようになった。

余談だが、番組パーソナリティー自身がミュージシャンであった場合、その繋がりがブッキングに反映されることもある、というのもLuckyFesの大きな特徴のひとつである。

今年の春まで『J・K HIPHOP』パーソナリティーを担当していた音楽プロデューサーのTRILL DYNASTY(北茨城市出身)は番組内で次のような発言をしていた。

今水面下で行っている活動は、きっと来年のLuckyFesに繋がると思う。

『J・K HIPHOP』内でのTRILL DYNASTYの発言(※概要)

その発言後に行われた「BMSG FES(SKY-HIが代表を務める音楽事務所「BMSG」が行ったフェス)」では、TRILL DYNASTYが手掛けた楽曲が披露された。

もちろん、TRILL DYNASTYが言っていた「LuckyFesに繋がる水面下での活動」がBMSGへの楽曲提供かどうかは分からない。しかし、SKY-HIとTRILL DYNASTYとの関係性があるからこそ(※SKY-HIは昨年LuckyFes出演の経緯に関して「フェスのプロデューサーの中に友達がいるし」と発言している。その「友達」はおそらくTRILL DYNASTYだろう)、今年のLuckyFesにはBMSGから3アーティストが出演するということに繋がったのではないだろうか。

日曜昼に放送されている『SUNDAY 10 Carat Numbers』パーソナリティーの八木志芳もTwitterでTRILL DYNASTYのLuckyFesへの貢献について上記のように語っていた。昨年の2日目のGREEN STAGEは「ヒップホップ・クラブ音楽の楽園」だった。その実現に向けての貢献度は計り知れない。

今年も多くのヒップホップアーティストの出演が実現した。TRILL DYNASTYがLuckyFesとLuckyFMの中に植え付けたヒップホップの文化がこれからも引き継がれていくことを願わずにはいられない。


今回の記事は以上になります。

【To LuckyFes2023】シリーズ、残り1ヶ月弱の間になるべく多くアップできるように頑張ります。

<今後の内容予定>

・筆者のオススメアーティスト
・出演アーティスト楽曲に関するコラム
・「フェス」の楽しみ方の多様性
・LuckyFesのこんなところが広く知られて欲しい

などを予定しております。

また見かけた時は読んでいただけると嬉しいです!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?