いかにもSFらしい展開だけどさ。
あれは2005年くらいのこと、だったかなあ。
仲のいい編集者から電話がかかってきた。「古賀さぁ〜ん、ちょっと聞いてくださいよぉ」。困り果てた声で、彼は語り出した。日本史関係の本をつくるにあたって、ライターさんを入れた。「最近、古賀さん受けてくれないから」若いライターさんを入れた。はじめて一緒に仕事をするライターさんだった。けっこう締切をオーバーしたのち、彼は原稿を上げてきた。読んだ。すると、なんかおかしい。どこかヘンだ。もしやと思って調べたところ、彼の原稿は7割方、ウィキペディアの丸写しだった。ふざけるなと思って電話した。するとライターさんは平謝りするばかりで、ちゃんと一次資料にあたって書きなおす時間も体力もないと言い張る。「古賀さぁ〜ん、どうしたらいいと思いますぅ〜?」。
ぼくは、真っ先にそいつの首根っこを捕まえるよう指示した。そういうやつは平気で逃げるから。音信不通になったりするから。とくにはじめてのクライアント(編集者)であれば、逃げるのも平気だから。とにかくそいつの首根っこを物理的に捕まえて、ビジネスホテルでも会社の会議室でもいいから放り込む。最大の責任を、そいつに負わせる。そのうえで、仮に6章構成の本だとしたら、あと3人、どこかからライターを見つけてくる。「突貫工事で申し訳ないけど」と頭を下げて、ひとりにつき1章、書いてもらう。ウィキペディア野郎は全体の半分、3章分を担当。うまくいけばこれで、1週間もあれば入稿できるはずだ。
「なぁるほどぉ!」。おおいに感心した彼は、ぼくに礼を述べたあと、こう切り出した。「ところで古賀さん、その『3人』のライターのうちのひとりになってもらえませんか?」。
以上の阿呆エピソードを思い出したのは、以下の記事を読んだからである。
いかにもSF小説誌にふさわしい展開である。同誌の編集長によると、現時点ではまだ、AIの書いた小説は一読してピンとくるのだという。しかしプロの作家がAIを「共著者」として利用した場合、それを見極めるのは困難だろうと語っている。それは作家仲間に唾を吐きかける行為だと嫌悪感を示しながら。また、AIが書いた文章を見破るプログラムはある一方、それをすり抜けるプログラムもあるのだそうだ。まあ、そういうものだよね。
ウィキペディアの丸写し対策に頭を抱えてたあのころが、ひたすら牧歌的なものに思えてくる。これからの時代、書き手がたいへんなのはもちろん、それを読んで評価する編集者さんや審査員さんたちは、もっとたいへんになるんだろうなあ。
まあ、ぼくも今度このコンテストで審査員を務めるのだけど。