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ノウハウとリネン

今回は理念とか想いをまとめる感じで書いて欲しいんです。

お願いしたいのはわかりやすく親近感を持てるノウハウにまとめるライティングで。

同じ日に真逆の方向性で本のライティング依頼を受けた。まあ、そういうことは珍しくないんだけど。

つくづくライターってふしぎな職業だよなと思う。いや、どんな職業も深く入っていけばふしぎなことはたくさんある。

まあでも、こんなふうに「真夏と真冬」「ビューラーとピーラー」ぐらい、わかりやすくまるで違うものをほぼ同時に仕事として頼まれるという意味では、自分でもふしぎなことやってるなぁと思う。

これもライターによっては、どっちかの方向性しかやらない人もいる。自分でそう決めてたり、得意不得意があって。べつにそれがいい悪いではない。

僕の場合は、気づいたらどっちもやってたというだけ。

リアルのままでは複雑すぎるものを構造化したり抽象化して「ノウハウ」という形態で抽出するのも、それはそれで仕事としておもしろいし需要もある。クリスタライゼーション(結晶化)にも近い。最近、あまり聞かないけど。

誰か、あるいは集団の理念とか想い、哲学みたいなものをまとめるのはまたちょっと違う。

取材を通して明らかに語られてきたものだけでなく、語られてなかった、言語化されてなかったけれど「たしかにある」「根底に流れてるのを感じる」ものを掬い取ってみる。

そのままでは「これは何だろう」という感じのものもある。

だって、これまで言語化されてなかったし、そういうものが当事者の人たちに流れてるとか意識することもなかったものだから。

ときには、直接、本の企画とは関係ない別の「物語」がそこから立ち上がることもある。極めて個人的なものだったり、どこにも使い道のないものだったり。無駄といえば無駄かもしれない。

だけど、その「どこにも収まらない」ものを掬い取って共有したあとと、する前では明らかに世界線が変わる。その移り変わりに立ち会えるのもライターのおもしろさだ。大げさに言えば醍醐味。この表現もあまり最近聞かない。

同じ言葉を受け取っても、自分がどの世界線にいるか、そこで何が見えて何を感じられてるかで言葉の強度や色合いはまるで変ってくる。

原稿に落とし込んだときに「世界」がちゃんと立ち上がってくるのは、やっぱりただ言葉だけを受け取って書いたものじゃなくて、言葉にならなかったものを一緒に掬い取って共有して書かれた物語だ。

だからってノウハウが軽いって言ってるわけじゃなく、深いところを通って湧出したノウハウもあれば、時間をかけて汲み上げられたものもあるから。それはそれで貴重だったりする。

たぶん僕はどっちも嫌いじゃないんだろう。

ちなみに理念と同音のリネン「Linen」の語源はラテン語で亜麻を意味する「Linum」だ。亜麻は素材として耐久性があって、しかも通気性もよくて抗菌効果もあるのに触れたときやわらかい。理想。

文章もそういうのがいいなと思う。