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好きです、この街

日本人は(壮大すぎる主語)羞恥心が強いとか、思っていても口には出さないとか、ステレオタイプな論があるけどそんなことはない。

むしろ「言葉」に関しては割と恥ずかしいことも平気なんじゃないかと思う。愛の告白だってそうだ。

この前も、ある街を歩いていて目の前に《好きです、この街》とだけ描かれた看板が現れた。いきなりの公衆の面前で愛の告白。いくらなんでも大胆すぎる。誰がそんなに想いを募らせたのだろうか。

いや、街への愛があふれるのはいいと思う。だけど看板。それに、そもそもこの場合、いったい告白の対象者というか当事者は誰なんだという疑問が湧いてくる。

もしかしたらせっかく勇気を出して想いを告白したのに、誰も自分が告白されてるとは気付かずに通り過ぎてるかもしれないのだ。せつない。

        ***

僕は看板の前で思わず立ち止まったけれど、残念なことに「この街」でも「この街の人」でもない。宙に浮いた誰かの告白。なんだかいたたまれなくなってくる。

やっとの思いで看板の告白を振り切るように小走りに立ち去り、コンビニに入る。少し喉が渇く。すると、今度は《ゴミを捨てない あなたが好き!》というポスターにドキュンとする。

あまりにストレート。いまどき、中学生でもそんなふうに告白しないと思う。

それにしても日本ってこんなに愛の告白があふれてる国だったのか。あらためて僕は自分の不明を恥じる。

だけど道行く人は誰も「俺もこの街が大好きだ!」「一生ゴミなんて捨てない!この街を大切にすると誓うよ」と、その愛を受け止めることもなく無反応に通り過ぎている。

街には今日も《好きです》の文字があふれ、僕を惑わしているというのに。